末梢神経障害 牛車腎気丸

Preventive effect of Goshajinkigan on peripheral neurotoxicity of FOLFOX therapy (GENIUS trial): a placebo‑controlled, double‑blind, randomized phase III study

FOLFOX 療法の末梢神経障害に対する牛車腎気丸の予防効果の評価; 二重盲検ランダム化第3相試験

International Journal of Clinical Oncology
Oki E, Emi Y, Kojima H, et al.
対象副作用 年, 月; 号: p-p. 研究方法 (相) 対象患者 対象薬剤
末梢神経障害炎 2015 Aug; 20(4): 767-75. 第3相試験 大腸癌 牛車腎気丸

背景

進行/再発大腸癌の標準的な化学療法は、5-フルオロウラシル(5-FU)とCapeOX ,FOLFOX等のオキサリプラチン(OX)をベースとした治療と、CapeIRI、FOLFIRI等のイリノテカンをベースとした治療である。ステージ3の切除結腸癌を対象とした第3相試験において、FOLFOXは5-FU/ロイコボリン(LV)と比較して無病生存期間および全生存期間が優れていることが示されている。ただし、末梢神経障害はOXの重大な問題であり、用量制限毒性である。OXに関連する末梢神経障害の重篤化を回避する目的で、stop-and-goレジメンがOPTIMOX試験で提唱されている。stop-and-goレジメンは重篤な末梢神経障害を回避するために、6コースのFOLFOX7(L-OHP:130 mg/m2)の後にsLV5FU2を12コース施行し、再びFOLFOX7を施行するものである。ただし、再発または切除不能な大腸癌に使用できるが、術後補助療法としては不適切である。別の方法として、OX療法の前後にカルシウム/マグネシウムを経静脈的に投与し、末梢神経障害が軽減されるとの報告がある。これまでにOX誘発性の末梢神経障害に対する効果的な治療法は確立されていない。
 日本の伝統的な漢方薬である牛車腎気丸は、10種類の生薬で構成され、糖尿病性ニューロパチーに伴うしびれ、冷感、手足の痛みなどの症状を改善する目的で使用されている。これまでに、牛車腎気丸がパクリタキセルおよびOXによって誘発される末梢神経障害に対して有用であると報告されている。今回、OX誘発性の末梢神経障害に対する牛車腎気丸の予防効果を検証するために、術後補助療法を実施するステージ3の大腸癌患者を対象として、牛車腎気丸の二重盲検プラセボ対照多施設無作為化第3相試験が計画された。

シェーマ

シェーマ

統計学的事項

評価項目:

グレード2以上の末梢神経障害の発症までの時間(time to neuropathy: TTN)
National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events (NCI CTCAE; version 3.0); the Neurotoxicity Criteria of Debiopharm (DEB-NTC)を用いて評価

副次評価項目:

OXの相対用量強度、有害事象発生割合

統計解析:

TTNは、Kaplan–Meier生存曲線とLog-rank検定による群間比較が行われた。過去の研究結果より、本研究では化学療法12コース終了時点の末梢神経障害の累積発生率をプラセボ群では40%、牛車腎気丸群では25%と仮定した。Log-rank検定において検出率80 %で15 %の差を検出するには、1群あたり95例で、6か月間のフォローアップ中にこれを達成するためのサンプルサイズは291例であった。半数の患者データ(150例)に基づいて事前に中間解析が計画された。中間解析の目的は牛車腎気丸群がプラセボ群と比較して優位性が示されれば症例登録を打ち切ることであった。統計解析はSAS ver9.2(SAS Institute)を使用して実施された。

試験結果

事前に計画された中間解析において、効果安全性評価委員会より試験中止が勧告された。

評価項目:

末梢神経障害(グレード2以上)の発症率は、牛車腎気丸群で50.6 %であり、プラセボ群の31.2 %に比し高かった。グレード2以上の末梢神経障害の発症までの時間(TTN)は、牛車腎気丸群の方が有意に短かった(P=0.007, HR=1.908 [1.181-3.083])。
グレード1の末梢神経障害は、牛車腎気丸群は43.8 %、プラセボ群62.4 %であった。

副次評価項目:

<OXの相対用量強度>
牛車腎気丸群83.41%、プラセボ群78.99%と、牛車腎気丸群で有意に高かった(p=0.033)。
用量強度は、牛車腎気丸群70.9 mg/m2/course、プラセボ群67.1 mg/m2/courseであった。
平均治療サイクル数は、牛車腎気丸群9.0サイクル、プラセボ群8.3サイクルであった。
5年後に全生存期間や無再発生存期間を調査する予定となっている。

<有害事象発生割合>
神経毒性以外の有害事象に両群間に差は認められなかった。
治療中止率についての記載はなかった。

結語

牛車腎気丸はOX誘発性の末梢神経障害に対する予防効果を認めなかった。

論文の解釈

OXによる化学療法誘発性末梢神経障害の予防として牛車腎気丸の有効性を評価した初めての大規模なランダム化比較試験であり、重要な研究である。この結果より、がん薬物療法に伴う末梢神経障害のマネジメントの手引き2017年版において、「OXによる化学療法誘発性末梢神経障害(しびれ・疼痛)の予防に牛車腎気丸の投与は推奨しない」とされている。
関連論文
1)Kono T, Hata T, Morita S, et al. Goshajinkigan oxaliplatin neurotoxicity evaluation (GONE): a phase 2, multicenter, randomized, double‑blind, placebo‑controlled trial of goshajinkigan to prevent oxaliplatin‑induced neuropathy. Clinical Trial Cancer Chemother Pharmacol. 2013;72(6):1283-90.
2)Aoyama T, Morita S, Kono T, et al. Effects of Goshajinkigan (TJ-107) for oxaliplatin-induced peripheral neurotoxicity using the functional assessment of cancer therapy/gynecologic oncology group 12-item neurotoxicity questionnaire in a Phase II, multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial. J Cancer Res Ther. 2021;17(6):1473-1478.
執筆:福岡大学筑紫病院 薬剤部 主任 内山 将伸 先生
監修:国立がん研究センター東病院 データサイエンス部 野村 久祥 先生

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