皮膚毒性 皮膚保湿剤

Randomized controlled trial on the skin toxicity of panitumumab in Japanese patients with metastatic colorectal cancer: HGCSG1001 study;J‐STEPP

切除不能大腸がんの日本人患者を対象としたPanitumumabの皮膚毒性に関するランダム化比較試験:HGCSG1001試験(J‐STEPP試験)

Future Oncology
Yoshimitsu Kobayashi, Yoshito Komatsu, Satoshi Yuki,et al.
対象副作用 年, 月; 号: p-p. 研究方法 (相) 対象患者 対象薬剤
皮膚毒性 2015 11: 58–66. ランダム化非盲検比較試験 KRAS野生型mCRC 皮膚保湿剤

背景

完全ヒト免疫グロブリンG2モノクロ‐ナル抗体であるPanitumumabは、グロ‐バル第3相試験でKRAS野生型切除不能大腸がん(mCRC)の有効性と安全性が示されてい1)。しかし、抗EGFR抗体治療薬の副作用である皮膚毒性は患者の90%以上に発生する可能性があり、生活の質(QOL)の低下や化学療法の中止につながることも明らかになってい2)。一部の研究では、有効性と皮膚毒性の重症度が相関することが示さ3.4)、抗EGFR抗体治療薬による治療効果を最大限に得るためには皮膚毒性を管理することが重要である。 LacoutureらのSTEPP試験55)では、予防療法群が対症療法群と比較してGrade2以上の皮膚毒性の発生率を低下させる可能性があると報告されている。しかし、STEPP試験では白人・アフリカ系アメリカ人が大部分を占め、アジア人における予防効果に関しては分かっていない。本研究では、日本人を対象としたKRAS野生型mCRCの三次治療症例として、Panitumumabを含む治療における皮膚毒性の発現について対症療法群と予防療法群でランダム化非盲検比較試験を行った。

シェーマ

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目

試験開始6週間の主治医評価でのGrade2以上の皮膚毒性の累積発生率

副次評価項目

皮膚科医による皮膚毒性の中央判定
各Gradeの皮膚毒性の発生までの時間、Grade2以上の皮膚毒性が発生した場合のGrade1以下に回復に要する時間
QOL
安全性
PFS:progression‐free survival (病勢進行または死亡までの時間)
OS:overall survival(死亡または最後のフォロ‐アップまでの日付)
TTF:time to treatment failure(死亡または治療の中止までの時間)
ORR:overall response rate(全生存率)

なお、サンプルサイズの決定に関して、STEPP試験の試験開始6週間におけるGrade 2以上の皮膚毒性発生率は、対症療法群62%、予防療法群29%であり、皮膚毒性発生率の期待値を29%、閾値を62%とし、検出力90%、両側5%の有意水準で必要登録例数は92例となるが、ドロップアウトを10%と想定して102例となっている。

試験結果

対症療法群は保湿剤のみ(患者希望時は日焼け止め)、予防療法群はPanitumumabを含む治療投与前日から8週間、保湿剤と日焼け止め(SPF:25、PFA:4~8)、0.5%ヒドロコルチゾンクリ‐ムを1日2回局所に塗布、ミノサイクリン100㎎/日を1日1回内服した。
主要評価項目である試験開始6週間のGrade2以上の皮膚毒性の累積発生率は、対症療法群62.5%、予防療法群21.3%( 95%CI:9.6–33.0%)、(リスク比(RR):0.34; 95%CI:0.19–0.62;p<0.001)であり、予防療法群で有意に優れた有効性を示した。また、副次評価項目である皮膚科医による中央判定でも同様の傾向が示され、対症療法群50.0%、予防療法群18.6%(リスク比(RR):0.37;95%CI:0.19–0.74;p=0.002)となっていた。試験開始6週間で主治医評価と皮膚科医によって評価された皮膚毒性の累積毒性発生率の一致率は75.9%だった。

各皮膚障害の発生率
  対症療法群(n=48※)、n(%) 予防療法群(n=46※)、n(%)
  全Grade Grade 2 ≧Grade 3 全Grade Grade 2 ≧Grade 3
皮膚障害 41(85.4) 24(58.5) 14(29.2) 40(87.0) 16(34.8) 9(19.6)
ざ瘡様皮疹 39(81.3) 22(45.8) 11(22.9) 35(76.1) 9(19.6) 3(6.5)
掻痒感 21(43.8) 12(25.0) 1(2.1) 26(56.5) 7(15.2) 0
爪囲炎 22(45.8) 15(31.3) 2(4.2) 17(37.0) 6(13.0) 3(6.5)

※安全性集団は少なくとも1回のPanitumumab投与を受けた94人の患者。

一方、実臨床ではミノサイクリンの副作用として、吐き気や腹痛などの消化器症状や光線過敏症、めまいなどを経験することがある。休薬により回復することが多いが、消化器症状は化学療法自体の副作用との鑑別が難しい。また、光線過敏症はPmabの皮膚障害悪化の可能性もあるため、UVケアが重要である。

その他の副次評価項目について、Grade2以上の皮膚毒性が最初に発生するまでの時間の中央値は、予防療法群では到達せず、対症療法群では5.4週間(HR:0.50;95%CI:0.27–0.92;p=0.020)だった。PFSの中央値は予防療法群で3.6ヵ月、対症療法群で4.0ヵ月(HR=1.20, 95%CI:0.78‐1.84, p=0.413)で、TTF中央値は予防療法群で3.0ヵ月、対症療法群で3.5ヵ月(HR=1.23, 95%CI:0.80‐1.89,p=0.343)と両群間で有意な差はなかった。OS、ORRに統計的に有意な差はなかった。また12週間の観察期間における重度の皮膚毒性の発生率は、予防療法群の方が対症療法群よりも少なく、予防療法が初期段階だけでなく、それ以降にも有効であったことを示した。また、予防療法がPanitumumabの抗腫瘍効果に影響を与えないことも示した。

結語

日本人を対象にしたJ‐STEPP試験では、STEPP試験同様に予防療法群が対症療法群と比較してPanitumumab治療中の皮膚毒性の重症度を有意に軽減した。抗EGFR抗体治療薬による治療では、皮膚毒性の予防として保湿剤や日焼け止めに加え、1日2回のステロイド外用剤の塗布とミノサイクリン100mg/日の内服の治療開始時からの使用が推奨される。

皮膚障害

皮膚障害

(参照:ベクティビックス適正使用ガイド)

参考文献

1) Foon KA, Yang XD, Weiner LM et al.Preclinical and clinical evaluations of ABX-EGF, a fully human anti-epidermal growth factor receptor antibody. Int. J.Radiat. Oncol. Biol. Phys. 58, 984–990(2004).
2) Naughton MJ, Schrag D, Venook AP et al.Quality of life (QOL) and toxicity among patients in CALGB 80405. J. Clin. Oncol.31(Suppl.), Abstract 3611 (2013).
3) Van Cutsem E, Peeters M, Siena S et al.Open-label Phase III trial of panitumumab plus best supportive care compared with best supportive care alone in patients with chemotherapy-refractory metastatic colorectal cancer. J. Clin. Oncol. 25, 1658–1664 (2007).
4) Peeters M, Balfour J, Arnold D. Review article: panitumumab – a fully human anti-EGFR monoclonal antibody for treatment of metastatic colorectal cancer. Aliment.Pharmacol. Ther. 28, 269–281 (2008).
5) Lacouture ME, Mitchell EP, Piperdi B et al.Skin toxicity evaluation protocol with panitumumab (STEPP), a Phase II,open-label, randomized trial evaluating the impact of a pre-Emptive Skin treatment regimen on skin toxicities and quality of life in patients with metastatic colorectal cancer.J. Clin. Oncol. 28, 1351–1357 (2010).
執筆者:公立大学法人福島県立医科大学附属病院 薬剤部 藁谷 美保 先生

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