発熱性好中球減少症 ペグフィルグラスチム

Pegfilgrastim on the Same Day Versus Next Day of Chemotherapy in Patients With Breast Cancer, Non–Small-Cell Lung Cancer, Ovarian Cancer, and Non-Hodgkin's Lymphoma: Results of Four Multicenter, Double-Blind, Randomized Phase II Studies

乳がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、および非ホジキンリンパ腫の患者における化学療法の同日と翌日のペグフィルグラスチム:4つの多施設、二重盲検、無作為化第2相試験

Journal of Oncology Practice
Howard A. Burris, III, MD, FACP, Chandra P. Belani, MD, Peter A. Kaufman, MD et. Al
対象副作用 年, 月; 号: p-p. 研究方法 (相) 対象患者 対象薬剤
発熱性好中球減少症 2010 May; 6(3): 133–140. 第2相試験 肺がん,乳がん,卵巣がん,
悪性リンパ腫
ペグフィルグラスチム

背景

化学療法の主な用量制限毒性は好中球減少症である。好中球減少症に起因する感染症の1つに発熱性好中球減少症(FN)が挙げられ、約10%の患者が入院、罹患率、死亡率につながる可能性がある。ペグフィルグラスチムは、フィルグラスチムと比較し、作用機序は類似している。そして作用時間が長いため、10~11日間のフィルグラスチムと比較し、患者は化学療法1サイクルに1回の注射で済む利点が挙げられる。ペグフィルグラスチムは、化学療法後24時間後に1サイクルに1回投与することで、FNの発症率を低下させることが示されている。化学療法の前後24時間以内のフィルグラスチムまたはペグフィルグラスチムの投与は、成長因子刺激後に骨髄前駆細胞に対する化学療法の毒性を増加させる可能性があるため、現在のところ推奨されていない。2つの研究では、フルオロウラシルまたはトポテカンとフィルグラスチムを5日間連続して重ねて投与された患者において、グレード4の好中球減少症の発生率増加・持続期間の悪化が観察された。一方他の研究では、細胞周期特異的化学療法の前日にフィルグラスチムを投与した場合、または細胞周期特異的化学療法と同時投与した場合に骨髄抑制が増加した報告はない。化学療法と同時に投与されるペグフィルグラスチムの安全性と有効性を評価するために、4つの腫瘍別(乳がん、悪性リンパ腫(NHL)、非小細胞肺がん(NSCLC)、および卵巣がん)に試験が計画された。

シェーマ

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:

  • 第1サイクル投与時におけるグレード4の好中球減少の持続時間

副次評価項目:

  • 第1サイクルの好中球減少の発症率
  • 全サイクルにおけるFNの発症率(発熱≧38.2℃、ANC<0.5×109/L)
  • 安全性プロファイル(有害事象の報告/臨床検査値の変化)

試験結果

【主要評価項目】

4件の研究において、272人の患者が化学療法と1回以上のペグフィルグラスチムの投与を受けた(当日133件、翌日139件)。乳がん、悪性リンパ腫、NSCLCを対象とした3件の研究では、解析に十分な数の患者が登録されたが、卵巣がんは19名と登録数が少なかった。

  • 乳がんを対象とした試験では、1サイクル目の重度好中球減少期間の平均は、翌日投与群と比較して当日投与群で1.2日(95%信頼限界[CL]、0.7~1.6日)長かった(平均、2.6日 vs 1.4日)。
  • 悪性リンパ腫を対象とした試験では、1サイクル目の重度好中球減少期間の平均値は、翌日投与群と比較して当日投与群で0.9日(95%CL、0.3~1.4日)長かった(平均、2.1vs 1.2日)。
【副次評価項目】
  • ≪好中球減少症Grade4≫
    乳がん患者を対象とした試験では、同日患者の93%と翌日患者の78%、悪性リンパ腫を対象とした試験ではグレード4の好中球減少症が同日患者の86%と翌日患者の64%でグレード4の好中球減少症だった。NSCLCを対象とした試験では、グレード4の好中球減少を経験した患者は各グループ2人ずつのみだった。
  • ≪FNの発症率≫
    乳がん患者を対象とした試験では、同日患者の33%と翌日患者の11%。悪性リンパ腫患者では、同日患者の17%と翌日患者の15%。卵巣がんを対象とした試験では、同日患者の13%と翌日患者の18%にFN発症が見られた。NSCLCではFN患者はいなかった。
  • ≪安全性のプロファイル≫
    各試験で患者が経験した重篤な有害事象は、骨髄抑制化学療法を受けている悪性腫瘍患者に予想されるものだった。どの試験でも重篤と考えられる骨痛を経験した患者いなかった。いずれの試験でも、両群の患者において造血機能の回復は同様であった。重度好中球減少症が続いた乳がんと悪性リンパ腫の研究では、各サイクルの 1 日目の平均 ANC 値または血小板値に有意な変化は観察されなかった。

結語

化学療法と併用してペグフィルグラスチムを投与検討する患者には、化学療法終了24時間後以降にペグフィルグラスチムを投与することが推奨される。

好中球減少症

好中球減少症は,血中の好中球数が減少した状態であり,用量制限毒性(Dose Limiting Toxicity:DLT)の1つである.好中球減少症の重症度は,感染症の相対リスクと関連し,有害事象共通用語規準 v5.0(Common Terminology Criteria for Adverse Events v5.0:CTCAE v5.0)では、下記のように定義されている.

Grade 1 <2,000-1,500 /mm3
Grade 2 <1,500-1,000 /mm3
Grade 3 <1,000-500 /mm3
Grade 4 <500 /mm3

発熱性好中球減少症の発現レジメン一部抜粋(高リスク)乳がん, dose-dense AC(ADR+CPA), TAC(DTX+ADR+CPA) ,前立腺がん, Cabazitaxel, DTX ,卵巣がん,dose-dense TC(CBDCA+PTX),子宮体がん,AP(ADR+CDDP),子宮頸がん,TP(CDDP+CPT-11),小細胞肺がん,CDDP+VP-16+CPT-11,非小細胞肺がん,DTX+Ram,食道がん, DTX, DCF(DTX+CDDP+5-FU) ,すい臓がん,FOLFIRINOX,骨肉腫,AC(ADR+CDDP),悪性リンパ腫,R-CHOP(特に65歳以上)

各ガイドラインにおける発熱性好中球減少症(FN)の定義ESMO,腋窩38℃が1時間以上持続,ANC<500/μL IDSA,口腔内体温≧38.3℃ or ≧38.0℃が1 時間以上持続,ANC<500/μL_ or 48 時間以内に≦500/μL を予測できる NCCN,口腔内体温≧38.3℃ or ≧38.0℃が1 時間以上持続, ANC<500/μL_ or ANC<1,000/μLで48 時間以内に≦500/μL を予測 CTCAE_v5.0,体温≧38.3℃ or ≧38.0℃が1 時間以上持続, ANC<1,000/μL JSMO,腋窩体温≧37.5℃ or_口腔内体温≧38℃,ANC<500/μL_ or ANC<1,000/μLで48 時間以内に≦500/μL を予測

2つの研究

Meropol NJ, Miller LL, Korn EL, et al. Severe myelosuppression resulting from concurrent administration of granulocyte colony-stimulating factor and cytotoxic chemotherapy. J Natl Cancer Inst. 1992;84:1201–1203.

Rowinsky EK, Grochow LB, Sartorius SE, et al. Phase I and pharmacologic study of high doses of the topoisomerase I inhibitor topotecan with granulocyte colony-stimulating factor in patients with solid tumors. J Clin Oncol. 1996;14:1224–1235.

執筆者:国立国際医療研究センター 薬剤部 小室 雅人 先生

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