心筋炎 ICI

Myocarditis in Patients Treated With Immune Checkpoint Inhibitors

免疫チェックポイント阻害薬治療患者における心筋炎

Journal of the American College of Cardiology
Mahmood SS, Fradley MG, Cohen JV, et al.
対象副作用 年, 月; 号: p-p. 研究方法 (相) 対象患者 対象薬剤
心筋炎 2018 Apr; 71(16): 1755-1764. 観察研究 ICI治療患者 ICI

背景

免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors: ICI)は、免疫系ががん細胞を認識し標的とするよう指示する新しいカテゴリーの薬剤である1,2)。免疫制御の抑制は、免疫性有害事象に関連しており、規制当局において最初に承認された2014年にはICIによって神経系、内分泌系、呼吸器、消化器および腎に関連した免疫性有害事象が起こり得ることが報告された3,4)。さらに近年、ICIの副作用として心筋炎が発現することも報告されたが5)、心筋炎に関する症状や危険因子および臨床経過に関するデータは限定的であり、ICI関連心筋炎の臨床的特徴をより詳細に把握することが求められている。そこで、本研究ではICI治療後における心筋炎発症患者と非発症患者を比較し、主要な心血管系有害事象の発現および症状、治療等に関する特徴や臨床経過の詳細を明らかにした。

シェーマ

統計学的事項

評価項目:

  • ICI治療開始から心筋炎発症までの期間
  • ICI関連心筋炎の発現率
  • ICI関連心筋炎発症患者と非発症患者における臨床学的特徴
  • MACE発症患者と非発症患者における臨床学的特徴
    ※major adverse cardiac events(MACE):心血管死、心停止、心原性ショック、血行動態に影響を与える完全心ブロックの複合イベント
  • ICI関連心筋炎の治療

試験結果

  • ICI治療開始から心筋炎発症までの期間
    ICI治療開始から心筋炎発症までの期間中央値は34日(四分位範囲21-75日)であり、心筋炎発症患者のうち81%が治療開始から3か月以内に発症を認めた。
  • ICI関連心筋炎の発現率
    2013年11月から2017年7月にICI治療が施行された964例(Massachusetts General Hospital)のうち、11例(1.14%)が心筋炎を発症した。
  • ICI関連心筋炎発症患者と非発症患者における臨床学的特徴
    ICI関連心筋炎を発症したすべての症例でICI治療は中止された。ICI関連心筋炎発症患者では非発症患者と比較し、ICI併用療法(34.3% vs 1.9%;p<0.001)、糖尿病(34.0% vs 13.0%;p=0.01)が有意に多く、また、過去に免疫関連有害事象として肝炎を発現していた割合も心筋炎発症患者において有意に高かった(20.0% vs 4.8%;p=0.01)。
  • MACE発症患者と非発症患者における臨床学的特徴
    心筋炎発症患者35名のうち16名(45.7%)でMACE発現を認めた。MACEは心血管死6名、心停止4名、心原性ショック3名、血行動態に影響を与える完全心ブロック3名だった。
    MACE発症患者は非発症患者と比較し、トロポニンT値が有意に高値を示した(入院時 1.18 vs 0.54;p=0.01、ピーク値 2.68 vs 1.33;p=0.01、最終/退院時 1.45 vs 0.14;p=0.002)。ICI関連心筋炎発症患者の追跡期間中央値は102日(四分位範囲62-214日)だった。
  • ICI関連心筋炎の治療
    ICI関連心筋炎の初期治療として31例(89%)でステロイド治療が施行され、ステロイド初期用量(高用量)とMACE発現率(低値)との間に関連性が認められた。また、ステロイド治療以外には免疫グロブリン製剤2例、ミコフェノール酸2例、抗胸腺細胞グロブリン1例、インフリキシマブ3例が施行され、これらの症例では免疫グロブリン製剤、ミコフェノール酸、抗胸腺細胞グロブリンおよびインフリキシマブの各1症例において心筋炎の軽快を認めた。

STUDY LIMITATIONS

  • 本研究における心筋炎発症患者(Cases)は多施設から登録された症例であったのに対し、非心筋炎発症患者(Controls)は単施設から抽出された症例であり、母集団の異なった患者を比較している。
  • 非心筋炎発症患者では、心筋炎の非発症を確定する検査は実施しておらず、心筋炎発症と診断されていない症例を対象としている。
  • ICI治療施行患者が心筋炎を発症した際に、登録施設以外の医療施設で治療された可能性がある。

結語

ICI関連心筋炎は稀であるが、発症した際は劇症的かつ重篤な副作用となり得る。本研究ではICI関連心筋炎が治療早期に発現する可能性を示唆し、予後や治療に関して新たな知見を示した。今後もICI治療後における心筋炎の発症にはトロポニンT値のモニタリングなど継続した警戒とさらなるエビデンスの構築が求められる。

ICI関連心筋炎の検査と管理アルゴリズム

ICI関連心筋炎の検査と管理アルゴリズム

臓器別irAE管理として提案されたアルゴリズム

臓器別irAE管理として提案されたアルゴリズム

参考文献
1) Hodi FS, O’Day SJ, McDermott DF, et al. Improved survival with ipilimumab in patients with metastatic melanoma. N Engl J Med 2010;2010: 711–23.
2) Robert C, Thomas L, Bondarenko I, et al. Ipilimumab plus dacarbazine for previously untreated metastatic melanoma. N Engl J Med 2011;364: 2517–26.
3) Approved Drugs - Nivolumab (Dec 22, 2014). Silver Spring, MD: U.S. Food and Drug Administration, 2014.
4) Approved Drugs - Pembrolizumab (Sep 4, 2014). Silver Spring, MD: U.S. Food and Drug Administration, 2014.
5) Johnson DB, Balko JM, Compton ML, et al. Fulminant myocarditis with combination immune checkpoint blockade. N Engl J Med 2016;375: 1749–55.
執筆:星薬科大学 実務教育研究部門 講師 平出 誠 先生
監修:星薬科大学 実務教育研究部門 教授 鈴木 賢一 先生

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