対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
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腋窩リンパ節転移陽性、 または高リスクのリンパ節転移陰性の乳癌 |
術後 | 第3相 | 無病生存期間 | 国際 | なし |
試験名 :E1199
レジメン:パクリタキセル(毎週投与法または3週毎投与群)、ドセタキセル(毎週投与法または3週毎投与群)
登録期間:1999年10月〜2002年1月
背景
しかしながら、最適な効果を持つタキサンや最適な投与スケジュールについては疑問が残っている。前臨床並びに臨床試験では、DOCはPTXよりも有効なタキサンであることや、PTXの毎週投与法は3週毎投与法に比べて有効であることが示唆されている。
それゆえ、腋窩リンパ節転移陽性、または高リスクのリンパ節転移陰性の乳癌に対する術後化学療法において、PTXとDOCの比較、および3週毎投与法と毎週投与法の2つの側面を比較する前向き臨床試験を行なった。
シェーマ
*ホルモン受容体陽性(エストロゲン受容体陽性またはプロゲステロン受容体陽性、あるいは両方)の患者はタモキシフェン20mg/日を5年間内服。2005年6月には、タモキシフェンを服用している閉経後女性が、5年間のタモキシフェン服用を終える前、または終えた後にアロマターゼ阻害薬に変更・開始することが可能となった。
統計設定:
●Primary comparisons:タキサンごとの比較と投与スケジュールごとの比較
投与スケジュールによらずPTX群とDOC群、および投与薬剤によらず3週毎投与群と毎週投与群を比較した。DFSのハザード比が17.5%低下することを検証するために86%の検出力、両側有意水準0.05が設定され、4762名の的確な患者登録、1042件のイベント(再発か死亡)が必要とされた。年1回の中間解析は試験開始から約2年後に開始され、十分な情報が得られるまで継続される予定で、臨界値はO'Brien-Fleming境界から決定された。PFSとOSの主要な規定解析はlog-rank検定を用いて行われた。
●Secondary comparisons:試験群(P1、D3、D1)と標準治療群(P3)の比較
2つのPrimary comparisonsで少なくとも一方が有意であった場合、P3群とP1群、D3群、D1群とのそれぞれの比較が事前に設定された。ボンフェローニ法を用いて、多重比較の有意水準は0.017が用いられ、これによりタイプⅠエラーは0.05に保たれた。
●post hoc解析:
試験が開始された1999年には事前に設定されていなかったが、ホルモン受容体statusとHER2発現ごとのpost hoc解析も行われた。
試験結果:
主要評価項目:無病生存期間(ランダム化比割り付け後の再発、再発を伴わない死亡、対側乳癌)
副次評価項目:全生存期間
1999年10月から2002年1月にかけて5052名が登録され、4950名(98%)が適格であった。治療群の特徴はそれぞれ同様であった。年齢中央値は51歳であった。リンパ節転移陰性、1から3個のリンパ節転移陽性、4個以上のリンパ節転移陽性の患者はそれぞれ約12%、56%、32%であった。エストロゲン受容体またはプロゲステロン受容体が陽性、もしくは両者が陽性であったのは70%、HER2陽性が19%であった。60%の患者が乳房切除術を、40%の患者が乳房温存手術を受けていた。
●治療
平均値・中央値とも4サイクルのAC療法を受け、97%の患者が4サイクル全てを受けた。タキサン系薬剤の平均投与サイクル数はP3群、P1群、D3群、D1群それぞれ3.9、11.4、3.8、10.8であった。投与量が変更された割合はそれぞれ22%、29%、28%、40%であった。ホルモン療法を受けた患者の割合は各群間で有意な差を認めなかった。
●Primary comparisons:タキサンごとの比較と投与スケジュールごとの比較
観察期間中央値 63.8ヶ月において、1048名の患者がDFSイベントを経験し、686名が死亡した。DFSは、PTX群とDOC群との間で有意差を認めず(HR= 1.03, 95%CI:0.91-1.17, P=0.61)、3週毎投与群と毎週投与群間でも有意差を認めなかった(HR= 1.06, 95%CI:0.94-1.20, P=0.33)。しかし、投与されたタキサン、投与スケジュール、およびそれらの交互作用を含むCox比例ハザードモデルでは、DOCと毎週投与法の相互作用は、DFS(P=0.003)、OS(P=0.01)に有意であった。
●Secondary comparisons:試験群(P1、D3、D1)と標準治療群(P3)の比較
推定5年DFS率は、P3群、P1群、D3群、D1群それぞれ76.9%、81.5%、81.2%、77.6%であった。P3群と比較して、P1群、D3群、D1群のハザード比はそれぞれ1.27(P=0.006)、1.23(P=0.02)、1.09(P=0.29)であり、P1群とD3群は有意にDFSが延長したが、D1群では有意な延長を認めなかった。
推定5年OS率は、P3群、P1群、D3群、D1群それぞれ86.5%、89.7%、87.3%、86.2%であった。P3群と比較して、P1群、D3群、D1群のハザード比はそれぞれ1.32(P=0.01)、1.13(P=0.25)、1.02(P=0.80)であり、P1群では有意にOSが延長したが、D3群とD1群では有意な延長を認めなかった。
●post hoc解析:
HER2陰性例ではP1群においてP3群に比べてDFSとOSの改善を認めたが、HER2陽性例やD3群、D1群ではその傾向は見られなかった。この傾向はホルモン受容体の有無にもよらなかった。
●有害事象:
AC療法による有害事象の割合は各群で同様であった。P1群では28%でgrade3以上の有害事象を認め、P3群、D3群、D1群でそれぞれ30%(P=0.32)、71%(P<0.001)、45%(P<0.001)であった。D3群で頻度が高かったのは好中球減少症(46%)、発熱性好中球減少症(16%)、感染症(13%)であった。grade3以上の末梢神経障害は4群において4-8%にみられたが、P1群ではgrade2以上の末梢神経障害を27%に認め、他のどの群よりも有意に頻度が高かった(各比較においてP<0.001)。
本試験は追跡期間中央値12.1年の時点での結果も報告されている1)。P3群と比較して、DFSはP1群(HR= 0.84, 95%CI:0.73-0.96, P=0.011)、D3群(HR= 0.79, 95%CI:0.68-0.90, P=0.001)で有意な延長を認めたが、OSはいずれの群においても有意な延長を認めなかった。この理由についていくつか考察がなされているものの、確たる理由は不明である。探索的解析では、TNBCでPTX毎週投与法が、ホルモン受容体陽性乳癌ではDOC3週毎投与法の効果が優れていたが1)、確立されたものとはいえない。
本試験の当初の目的である「最適な効果を持つタキサンや最適な投与スケジュールは何か」に対する答えは得られなかったと考えられるが、本試験の二次比較からは、再発高リスク乳癌の術後化学療法においてAC療法後にタキサンを用いる場合には、PTX毎週投与法かDOC3週毎投与法のいずれかが選択肢になることが示唆された。現在では、他の試験結果や毒性の観点を含めて、PTX毎週投与法またはDOC3週毎投与法を選択することが標準治療となっている。なお、本試験ではD3群においてDOCの投与量が100mg/m2と設定されているが、本邦で保険承認されている投与量の上限が75 mg/m2であることにも留意が必要である。
監修:虎の門病院 臨床腫瘍科 医長 田辺 裕子 先生