乳癌 AMAROS

Radiotherapy or surgery of the axilla after a positive sentinel node in breast cancer (EORTC 10981-22023 AMAROS): a randomised, multicentre, open-label, phase 3 non-inferiority trial

Mila Donker , Geertjan van Tienhoven, et al. Lancet Oncology 2014 Nov;15(12):1303-10 [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
T1-T2 cN0 浸潤癌   第3相 センチネルリンパ節転移陽性患者の
5年の腋窩リンパ節再発率
Europe なし

試験名 :AMAROS

レジメン:腋窩リンパ節郭清群(ALND)VS腋窩照射群(AxRT)

登録期間:2001年2月19日〜2010年4月29日

背景

 センチネルリンパ節生検は、臨床的にリンパ節転移陰性乳がんにおいて腋窩リンパ節の状態を評価するための標準的な方法である。 いくつかのランダム化試験の結果により、センチネルリンパ節生検は腋窩リンパ節郭清より生活の質(QoL)を維持することが明らかになっているが、センチネルリンパ節転移陽性乳がんでは腋窩リンパ節郭清が標準治療と見なされてきた。近年、ACOSOGZ0011試験およびIBCSG23-01試験の結果により乳房温存・残存乳房照射および全身補助療法を施行する患者に限り、センチネルリンパ節転移が陽性であっても局所再発率や生存率を損なわずに腋窩リンパ節郭清を省略できることが明らかになった。この腋窩リンパ節郭清省略の治療戦略は米国臨床学会ガイドラインにも示されている。ただし、センチネルリンパ節転移陽性患者では、腋窩郭清は依然として有用であると考えられている。
センチネルリンパ節生検が導入される前は臨床的にリンパ節陰性の患者で腋窩リンパ節郭清の代替法として腋窩放射線療法がされていた。腋窩リンパ節郭清と比較して副作用が少なく、腋窩放射線療法で満足のいく局所制御が報告されてきた。
ただし、腋窩リンパ節郭清と腋窩放射線療法はセンチネルリンパ節が陽性の患者で前向きに比較されたことはない。本試験は腋窩放射線療法が腋窩リンパ節郭清と比較して副作用が少なく、局所制御が劣らないかどうかを評価することを目的とした。

シェーマ

シェーマ

主要評価項目:

  • センチネルリンパ節陽性患者の5年の腋窩リンパ節再発率

副次評価項目:

  • 腋窩無再発生存期間
  • 無病生存期間(DFS)
  • 全生存期間(OS)
  • 肩の可動性(1,3,5,10年の両側肩可動域の測定)
  • リンパ浮腫(1,3,5,10年で測定。反対側より10%以上増加を認めたら臨床的に有意なリンパ浮腫とする)
  • QOL(1,2,3,5,10年時EORTC-QOL-C30;version3、QOL-BR23を使用し評価)

試験結果:

 2001年2月19日から2010年4月29日の間にヨーロッパの34施設から4823例の患者が登録された。2402例が腋窩リンパ節郭清群(ALND)、2404例が腋窩照射群(AxRT)に割り付けられ、1425例(30%)が センチネルリンパ節転移陽性の診断で、ALND群744例、AxRT群681例が解析対象となった(ITT集団)。センチネルリンパ節転移陽性症例の観察期間中央値は6.1年であった。2群の患者背景は、年齢、腫瘍サイズ、グレード、腫瘍タイプ、術後補助療法はほぼ同じであった。両群とも乳房温存症例が8割、術後治療は9割の症例で施行されている。

主要評価項目:

 主要評価項目である5年の腋窩リンパ節再発率はALND群で0.43%(4症例)、AxRT群で1.19%(7症例)であった。ただしイベント数が少なく、計画されていた非劣勢検定は検出力不足であった。一方、センチネルリンパ節転移陰性症例では5年腋窩リンパ節再発率は0.72%(25症例)であった。

副次評価項目:
  • 腋窩無再発生存期間は腋窩再発数が少なく、OSに類似していており報告はされていない。
  • DFS、OSは両群に有意差はなく、DFSについては、それぞれ5年 DFS が、ALND群で86.9% (95% CI: 84.1–89.3)、 AxRT群で82·7% (95% CI: 79.3–85.5) [HR=1.18, 95% CI: 0.93–1.51; p=0.18] であった。また5年OSが、ALND群で93.% (95% CI: 91.0–95.0) 、AxRT群で92.5% (95% CI: 90.0–94.4) [HR=1.17, 95% CI: 0.85–1.62; p=0.34]であった。
    なお、センチネルリンパ節転移陰性症例では、5年DFSは87.9%であり、OSは95.4%であった。
  • リンパ浮腫と肩の可動に関する情報は、ベースライン時に1265人中1241人(98%)、1年後に1255人中820人(65%)、3年後に1154人中714人(62%)、5年後に895人中614人(69%)から収集した。リンパ浮腫は、ALND群の方がAxRT群よりも、すべての測定時点で有意に多く認められた。腕周りが反対側と比較して10%以上増加した重度なリンパ浮腫患者の割合も同様にALND群で多かったが、その差は5年目でのみ有意であった。
  • 4つのエクスカーション(外転、内転、反回、後転)における可動域は、いずれの時点においても2つの治療群間で有意な差は認められなかった(1年:p=0.29、5年:p=0.47)。
    QoLについては、腕の症状、痛み、ボディイメージなど、選択したいずれの尺度においても、両群間に統計的に有意で臨床的に意味のある差は認められなかった。
結語
 本試験結果によりcT1-2N0症例でセンチネルリンパ節転移陽性であったとき、ALND群、AxRT群ともに予後良好であったが、リンパ浮腫はALND群で増加する傾向にあった。本試験の適格基準を満たす患者においてはAxRTも治療選択肢となりうる。本試験では①鎖上リンパ節まで照射野に含まれており過剰治療であった可能性がある、②両群のセンチネルリンパ節転移陽性率が均一でない、③想定より腋窩再発率が低く主要評価項目は検出力不足であることに留意すべきである。cT1-2N0であること、適切な術後の薬物療法を行うことを前提に益と害のバランスを勘案し腋窩の放射線療法を選択すべきである。
執筆:社会医療法人博愛会 相良病院 乳腺・甲状腺外科 医長 権藤 なおみ 先生
監修:社会医療法人博愛会 相良病院 院長 相良 安昭 先生

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