乳癌 CREATE-X

Adjuvant Capecitabine for Breast Cancer after Preoperative Chemotherapy

Norikazu Masuda et al. N Engl J Med. 2017 Jun 1;376(22):2147-2159. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
乳癌 術後 第3相 無増悪生存 日本・韓国 あり

試験名 :CREATE-X

レジメン:カペシタビン

登録期間:2007年2月〜2012年7月

背景

 ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の乳がん患者において、術前化学療法後の病理学的完全奏効は、13~22%とされ、HER2陰性乳癌に対する術前化学療法後に浸潤癌が残存する患者の予後は不良である。フルオロウラシルの経口プロドラッグであるカペシタビン(Cape)は、転移性乳がん患者において有効性が示されており、アントラサイクリン系、タキサン系、またはその両方に抵抗性を示す患者の治療として選択される。CREATE-X試験では、アントラサイクリン系、タキサン系、またはその両方を含む標準的な術前化学療法を受けた後に、浸潤性病変が残存したHER2陰性の原発性乳がん患者を対象に、Capeの術後療法の有効性と安全性を評価することを目的とした多施設オープンラベル無作為化第3相試験である。

シェーマ

シェーマ

主な適格条件

  • HER2陰性のI期からIIIB期の乳癌で標準的な術前化学療法(アントラサイクリン系かつ/またはタキサン系抗癌剤)を受けて、病理学的完全奏効(pCR)*が得られなかったかつ/またはリンパ節陽性の患者
  • 年齢20歳〜74歳
  • ECOG PS 0〜1

*非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ;DCIS)はpCRと判定

主な除外基準

  • 両側乳癌
  • 他に癌を合併している
  • 経口フルオロウラシルによる治療歴があること

本試験における評価項目

主要評価項目:無増悪生存期間(Disease free survival)

無病生存期間の解析において、再発、二次性癌、死亡のハザード比を0.74と想定した。登録期間を5年、追跡期間を最長5年、β=0.2、両側α=0.05とし、試験には各群に427例の登録が必要あると算出した。900例(各群450例)の登録が計画された。なお、本試験では、患者登録終了2年後に有効性に関する中間解析を実施することが規定されていた。

副次評価項目:全生存期間(Overall survival)、安全性

試験結果:

 2007年2月から2012年7月までに、日本の62施設から606名、韓国の22施設から304名の合計910名の患者が登録された。患者は、Cape投与群とコントロール群に均等に無作為に割り付けられた(各群455名)。不適格(16名)、インフォームド・コンセントの撤回(3名)、インフォームド・コンセントの違反(2名)、追跡調査不能(2名)の理由で患者を除外した後、合計887名の患者が主解析に用いるFASとして採用された(Cape群443名、対照群444名)。Cape群の患者1名は、割り当てられたCapeを投与せずにコントロール群の治療を受け、コントロール群に割り当てられた患者1名は、代わりにCapeを投与された。これらの患者は、有効性に関するintention-to-treat解析において、当初割り当てられたグループに含まれた。しかし、安全性解析では、これらの患者は実際に受けたレジメンに応じたグループに含まれた。
2010年1月、独立データ・安全性監視委員会は、Capeを6サイクル投与した最初の50人の患者の安全性に関する中間解析結果に基づき、Capeの投与を8サイクル(24週)に延長することを勧告した。その結果、159名の患者に6サイクル、283名の患者に8サイクルのCape治療が行われ、それぞれ57.9%と37.8%の患者は予定通りの用量でCape治療を完遂した。6サイクル治療において、23.9%の患者に減量が必要であり、18.2%の患者が治療を続けることが出来なかった。8サイクル治療においては、36.7%の患者に減量が必要であり、25.4%の患者が治療を続けることが出来なかった。その結果、平均dose intensityは、6サイクル投与された患者で87.9%、8サイクル投与された患者で78.7%であった。

患者背景について

 患者背景は両群間で均一であった。患者の年齢中央値はCape群が48歳(25-74)、対照群が48歳(25-74)、閉経前患者はCape群が59.1%、対照群が55.9%、ステージIIIA/IIIB期はCape群が40.9%、対照群が37.4%、ホルモン受容体陽性はCape群が68.6%、対照群66.9%、リンパ節転移がない症例はCape群が39.7%、対照群が38.5%、リンパ節転移4個以上はCape群が23.0%、対照群が22.3%、Pathological-effect gradeは、grade1a/1bがCape群で53.5%、対照群で50.6%、grade2/3がCape群で42.2%、対照群で46.4%であった。術前化学療法はアントラサイクリン系、タキサン系を順に受けた患者が多く、Cape群が80.6%、対照群が83.8%だった。術後内分泌療法は閉経前患者でCape群が42.4%、対照群が39.9%、閉経後患者でCape群が24.8%、対照群は28.6%が受けていた。放射線治療は、ペシタビン群が72.5%、対照群は73.4%が受けていた。

1 主要評価項目:無増悪生存(Disease free survival)について

 2015年3月11日に実施された事前に規定された中間有効性解析では、主要評価項目が満たされていたため、独立データ・安全性モニタリング委員会は、プロトコールに規定されている通り、試験の早期終了を推奨した。そのため、本試験は早期に終了し、データカットオフ日である2015年9月30日までのデータは2016年6月16日に確定し、2016年7月28日に行われた最終解析に含まれた。フォローアップの中央値は3.6年であった。最終解析の結果、5年DFS率は、Cape群が74.1%、コントロール群が67.7%で有意にCape群が良好だった(p=0.01, HR=0.70, 95% CI:0.53-0.93)。サブグループ解析では、年齢、ホルモン受容体などのすべてのサブグループで、Cape群が良い傾向にあり、トリプルネガティブ乳癌では、Cape群が69.8%、コントロール群が56.1%であり(HR=0.58,95% CI: 0.39-0.87)、ホルモン受容体陽性乳癌では、Cape群が76.4%、コントロール群が73.4%であった(HR=0.81、95% CI: 0.55-1.17)。

2 副次評価項目:全生存期間(Overall survival)について

 5年OS率は、Cape群が89.2%、コントロール群が83.6%でCape群が良好だった(p=0.01,HR=0.59, 95% CI: 0.39-0.90)。サブグループ解析でも、年齢、ホルモン受容体などのすべてのサブグループで、Cape群が良好であり、トリプルネガティブ乳癌では、Cape群が78.8%、コントロール群が70.3%(HR=0.52,95% CI: 0.30-0.90)、ホルモン受容体陽性乳癌では、Cape群が93.4%、コントロール群が90.0%であった(HR=0.73、95% CI: 0.38ー1.40)。

3 副次評価項目:安全性について

 Cape群では、手足症候群が最も頻度の高い有害事象であり、325名(73.4%)の患者に発生し、うち49名(11.1%)がグレード3であった。またCape投与群では、グレード3以上の副作用として、好中球減少症を6.3%、下痢を2.9%、白血球減少症を1.6%に認めた。治験責任医師がCapeに関連すると判断した重篤な有害事象は4名の患者に発生し、その内訳は、好中球減少と下痢がそれぞれ1名、心窩部痛、腹痛、下痢がそれぞれ1名であった。これらの重篤な有害事象は全て消失し、治療関連死を認めなかった。

結語
 CREATE-X試験は、病理学的完全奏効(pCR)を指標として術後治療を変更する治療戦略の有効性を検証した第3相試験である。この試験の結果より、HER2陰性乳がんにおいて、術前化学療法後にpCRが得られない場合、Capeによる術後療法を追加することで予後が改善する可能性があることが示された。特にトリプルネガティブ乳癌では、5年DFS率のHR=0.58と良好な結果を示した。
執筆:虎の門病院臨床腫瘍科 臨床腫瘍科 山本 一将 先生
監修:虎の門病院臨床腫瘍科 臨床腫瘍科 医長 田辺 裕子 先生

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