対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
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ER陽性HER2陰性再発 ハイリスク早期乳癌患者 |
第3相 | 浸潤性無再発生存 | 国際 | あり |
試験名 :monarchE
レジメン:内分泌療法+アベマシクリブ vs 内分泌療法
登録期間:2017年7月12日〜
背景
HR陽性、HER2陰性乳癌には周術期内分泌療法が行われ、再発リスクに応じて化学療法の上乗せが考慮される。
多くは再発や遠隔転移を起こさないものの確実に再発を防ぐことは出来ておらず、遠隔転移を認めた時点で完治を望むことは出来ず、如何に再発を抑えるかが重要である。
アベマシクリブはサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)阻害薬で、進行再発乳癌においてフルベストラントとの併用により無再発生存期間(Progression free survival PFS)および全生存期間(Overall survival OS)の改善、非ステロイド系アロマターゼ阻害薬(Aromatase inhibitor AI)との併用によるPFS改善を認めている。
本試験はHR陽性、HER2陰性、リンパ節転移陽性のハイリスク早期乳癌患者を対象に標準的な術後内分泌療法にアベマシクリブを追加することの意味を検討した非盲検多施設ランダム化比較第三相試験試験である。
シェーマ
試験結果:
1. 主要評価項目:浸潤性無再発生存(Invasive disease free survival)について
データカットオフ時点で試験群において136例(4.8%)、対照群において187例(6.6%)のIDFSイベントが認められた。
2年間の浸潤性無再発生存率は試験群92.2%, 対照群88.7%と、アベマシクリブの上乗せによりIDFSの有意な改善が認められた(p=0.01; HR, 0.75; 95% CI, 0.60-0.93)。
主要評価項目:浸潤性無再発生存 Invasive disease free survival: IDFS |
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アベマシクリブ+内分泌療法 | 内分泌療法単独 | ||
IDFS イベント数 N(%) | 136 (4.8) | 187 (6.6) | |
2年IDFS率 (%) | 92.2 | 88.7 | HR, 0.75 (95%C.I. 0.60-0.93) p=0.01; |
2. 副次評価項目:遠隔無再発生存(Distant recurrence free survival)について
2年間の遠隔無再発生存率は試験群で93.6%、対照群で90.3%とアベマシクリブの上乗せにより有意に改善した(p=0.01, HR 0.72, CI 0.56-0.92)。
転移臓器は骨、肝臓、肺の順に多かった。
アベマシクリブ+内分泌療法 | 内分泌療法単独 | ||
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2年DRFS率 (%) | 93.6 | 90.3 | HR, 0.72 (95% CI, 0.56-0.92) p=0.01 |
3. 副次評価項目:全生存率について
試験群で39件(1.4%)、対照群で37件(1.3%)の死亡が認められた。OSについては最終結果解析が待たれる。
4. 副次評価項目:安全性について
試験群では2731人(97.9%)、対照群では2410人(86.1%)に有害事象を認めた。
Grade3以上の有害事象を認めた症例は試験群で1270人(45.9%)、対照群で354人(12.9%)と、アベマシクリブ上乗せにより有害事象の頻度は上昇した。
試験群では1901人(68.1%)でアベマシクリブの減量・休薬を必要としたが、有害事象による薬剤投与中止は試験群で172人(6.2%)、対照群で21人(0.8%)でありコントロールは良好であった。
注意すべき有害事象として、対照群では0.5%しか認められなかった深部静脈血栓症が試験群では2.3%に認められた。
アベマシクリブ+内分泌療法 | 内分泌療法単独 | |
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全有害事象発生数 N (%) | 2731 (97.9%) | 2410 (86.1%) |
Grade3以上有害事象発生数 N (%) | 1270 (45.9%) | 354 (12.9%) |
有害事象による治療中止数 N (%) | 172 (6.2%) | 21 (0.8%) |
非盲検化試験であること、観察期間が短いことや治療継続症例が多く含まれているなどのリミテーションもあるものの、進行再発乳癌は完治を得ることが困難であり、再発を予防することが重要な意義を持つ乳癌において本試験の持つ意義は大きいと思われ、OSを含めた最終結果報告が待たれる。
また、ホルモン受容体陽性HER2陰性再発ハイリスク乳癌を対象とした周術期内分泌療法に分子標的薬を上乗せすることを評価した臨床試験として、POTENT試験やOlympiA試験などがある。
POTENT試験はホルモン受容体陽性HER2陰性StageI-IIIBを対象とし、術後内分泌療法に経口抗癌剤(TS-1)の上乗せを評価したもので、TS-1の上乗せにより5年間の浸潤性無再発生存が81.6%から86.9%に改善する事を示した。OlympiA試験はBRCA 1/2生殖細胞系列遺伝子変異を有するHER2陰性再発ハイリスク早期乳癌を対象にPARP阻害薬(オラパリブ)の有効性を評価したもので、浸潤性無再発生存期間を主要評価項目としている。これらの対象はmonarchEの対象と共通している部分があるが使い分けに関するエビデンスはなく、今後の課題である。
監修:国立国際医療研究センター病院 乳腺・腫瘍内科 下村 昭彦 先生