乳癌 PALOMA-3

Fulvestrant plus palbociclib versus fulvestrant plus placebo for treatment of hormone-receptor-positive, HER2-negative metastatic breast cancer that progressed on previous endocrine therapy (PALOMA-3)

Massimo Cristofanilli, et al. Lancet Oncol 2016; 17: 425–39. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
内分泌療法後に再発・
増悪したホルモン受容体陽性・
HER2受容体陰性の進行乳癌
術後再発または再発転移性乳癌の
内分泌療法後(二次治療)
第3相 無増悪生存期間 国際 あり (N=27)

試験名 :PALOMA-3

レジメン:フルベストラント+パルボシクリブ vs フルベストラント(両群ともに閉経前患者はゴセレリンの併用あり)

登録期間:2013年10月7日〜2014年8月26日

背景

 サイクリン依存性キナーゼ4/6 (CDK4/6; cyclin-dependent kinases 4 and 6)はサイクリンDにより活性化し、Rbタンパクのリン酸化を介して細胞周期のG1期からS期への移行を促進する。ホルモン受容体陽性乳癌の癌細胞はサイクリンD1を高発現しており、CDK4/6の活性化が癌細胞の生存や増殖に関与することが知られている。ホルモン受容体陽性乳癌の治療はホルモン療法の進歩により発展してきたが、再発後の乳癌を対象とした治療開発は今なお課題が多い。パルボシクリブ(イブランス)は経口CDK4/6阻害薬であり、先行する第2相試験においてホルモン療法との併用療法の有効性が示唆された。本試験は、CDK4/6阻害薬であるパルボシクリブをフルベストラントへ上乗せすることによる有効性、安全性を検証する第3相試験である。

シェーマ

シェーマ

主な適格条件

  • 内分泌療法中に再発または病勢進行を認めたホルモン受容体陽性、HER2陰性の進行乳癌患者
  • 閉経後患者:アロマターゼ阻害剤による治療中または治療終了後1ヶ月以内に病勢増悪がみられた転移性乳癌患者、または術後療法終了後1年以内に再発した患者が対象となる
  • 閉経前または閉経周辺期の患者:内分泌療法による治療中または治療終了後1ヶ月以内に病勢増悪がみられた転移性乳癌患者、またはタモキシフェンによる術後療法終了後1年以内に再発した患者が対象となる
  • 進行期の患者においては前治療での化学療法実施は1レジメンのみであれば許容された
  • PS (ECOG):0または1

主要評価項目:無増悪生存期間 (主治医評価)

副次評価項目:全生存期間、奏効割合、臨床的利益率、奏効期間、患者報告アウトカム、安全性

統計設定:

本試験はプラセボ群に対してパルボシクリブ群の主要評価項目である無増悪生存期間のハザード比が0.64となることを検証する優越性試験として設計され、検出力は90%、片側αは0.025として417例の登録、238例のイベントが必要とされた。Haybittle-Peto法で有意水準α=0.00135を基準に、PFSイベントの約60%が観察された時点で中間解析が実施された。主治医評価のPFSは、データを盲検化した上で独立したセントラルレビューを含む監査が実施されており、正確性が保証された。

試験結果:

2013年10月から2014年8月にかけて、17ヶ国の144施設から521例が2:1でランダム化され、347人がパルボシクリブ群、174人がプラセボ群に割り付けられた。パルボシクリブ群の治療開始時の年齢 (57歳)、人種 (白人 72.6%、アジア人 21.3%)、ER/PRの陽性割合 (ER+/PgR+ 68.6%、ER+/PgR- 26.2%)、PS (0: 59.7%、1: 40.3%)、閉経後患者の割合 (79.3%)、転移性乳癌の割合 (85.3%)、内分泌治療歴 (アロマターゼ阻害剤 85.3%、タモキシフェン 60.8%)はコントロール群と比較して大きな差はみられなかった。2014年12月の中間解析時(観察期間中央値XXヶ月)でパルボシクリブ群で102例、プラセボ群で92例のイベントが確認されており、それぞれ68.6%、43.1%で治療が継続されていた。

主要評価項目:

無増悪生存期間は中間解析の時点で 9.2ヶ月 vs 3.8ヶ月 (HR 0.42、p<0.001)であり、主要エンドポイントを達成した。年齢や人種、閉経前後など複数のサブグループ解析でもパルボシクリブ群で有利な結果であった。
2015年3月の最終解析においても、無増悪生存期間は 9.5ヶ月 vs 4.6.ヶ月 (HR 0.46, p<0.0001)と統計学的有意な延長を認めた。

副次評価項目:

全生存期間:フォローアップ期間中央値は44.8ヶ月において全生存期間は34.9 ヶ月 vs 28.0 ヶ月 (HR 0.81, p=0.09)であった。サブグループ解析において、前治療の内分泌療法が奏効した患者に限定した解析では 39.7 ヶ月 vs 29.7 ヶ月 (HR 0.72)とパルボシクリブ群により有利な結果であった。なお、前治療の内分泌療法が奏効しなかったコホートでの全生存期間は20.2 ヶ月 vs 26.2 ヶ月 (HR 1.14)であった。
血漿ctDNAを用いたESR1遺伝子、PIK3CA遺伝子の変異の有無と生存期間の関係についても探索的に解析された。ESR1遺伝子変異を有するコホートではパルボシクリブ群で11.0 ヶ月の生存差がみられた一方、ESR1遺伝子変異のないコホートでは4.7ヶ月のみであった。PIK3CA1遺伝子変異の有無ではそれぞれのコホートで生存差は類似していた (それぞれ6.4 ヶ月, 5.8ヶ月)。

奏効割合:パルボシクリブ群で19 % (CR 0%, PR 19%)、プラセボ群で9% (CR 2%, PR 6%)とパルボシクリブ群で統計学的に有意に高かった。 (p=0.0019)。臨床的利益率もパルボシクリブ群で有意に良好であった (67% vs 40%, p<0.0001)。

奏効期間:治療サイクルの中央値はパルボシクリブ群で12サイクル、プラセボ群で5サイクルであった。パルボシクリブ群において24ヶ月後、36ヶ月後に治療を継続している割合は、それぞれ23%、14%であった(プラセボ群は10%、5%)。

患者報告アウトカム:EORTC QLQ-C30を用いたQOLの評価では、パルボシクリブ群で有意に良好であった(66.1点 vs 63.0点, p=0.0313)。また、治療開始からQOL悪化までの期間については、パルボシクリブ群で統計学的に有意な延長を示した。

安全性:パルボシクリブ群でグレード3以上の白血球数減少及び好中球数減少はプラセボ群より多い結果であった(白血球数減少28% vs 2%, 好中球数減少 65% vs 1%)が、発熱性好中球減少症は1%のみであった。他、パルボシクリブ群で頻度の多かった有害事象としては、感染症、倦怠感、悪心、貧血、血小板数減少、脱毛、皮疹などが挙げられる。重篤な有害事象はパルボシクリブ群とプラセボ群のそれぞれ13%、17%でみられた。パルボシクリブ群では有害事象のため34%が減量を要し、また有害事象により4%が治療中止となったが、治療関連死はみられなかった。

後治療:75%の患者が後治療を受けており、中央値にしてパルボシクリブ群で2ライン、プラセボ群で3ラインであった。プロトコル上はプラセボ群におけるパルボシクリブのクロスオーバーは認められていなかったが、試験終了後にプラセボ群の約16%がパルボシクリブによる治療を受けた。その他の殺細胞性抗癌剤、ホルモン療法、mTOR阻害薬による後治療を受けた割合は概ね同様であった。

結語
 PALOMA-3試験において、フルベストラントへのパルボシクリブの上乗せは、主要評価項目である無増悪生存期間を統計学的に有意に延長した。全生存期間については統計学的有意差は認めなかったが、パルボシクリブ群で有利な傾向であった。有害事象としては特に好中球減少、白血球減少に注意が必要であるが発熱性好中球減少症の頻度は低く、QOLについてはパルボシクリブ群で良好であった。本試験の結果は閉経後患者のみではなく、閉経前患者を含めたエビデンスである。術後内分泌療法中の再発、または一次内分泌療法後に増悪した切除不能・転移性ホルモン受容体陽性・HER2陰性乳癌に対して、フルベストラント+パルボシクリブ併用療法は標準治療の一つと位置付けられる。
References
1) Palbociclib in Hormone-Receptor–Positive Advanced Breast Cancer. Nicholas C. Turner, Jungsil Ro, Fabrice André, et al. N Engl J Med 2015;373:209-19.
2) Fulvestrant plus palbociclib versus fulvestrant plus placebo for treatment of hormone-receptor-positive, HER2-negative metastatic breast cancer that progressed on previous endocrine therapy (PALOMA-3) : final analysis of the multicentre, double-blind, phase 3 randomised controlled trial. Massimo Cristofanilli, Nicholas C Turner, Igor Bondarenko, et al. Lancet Oncol 2016; 17: 425–39.
3) Overall Survival with Palbociclib and Fulvestrant in Advanced Breast Cancer. N.C. Turner, D.J. Slamon, J. Ro, et al. N Engl J Med 2018;379:1926-36.
4) Quality of life with palbociclib plus fulvestrant in previously treated hormone receptor-positive, HER2- negative metastatic breast cancer: patient-reported outcomes from the PALOMA-3 trial. N. Harbeck, S. Iyer, N. Turner, et al. Annals of Oncology 27: 1047–1054, 2016
執筆:虎の門病院 臨床腫瘍科 竹村 弘司 先生
監修:虎の門病院 臨床腫瘍科 医長 田辺 裕子 先生

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