直腸癌 ACOSOG Z6051

Effect of Laparoscopic-Assisted Resection vs Open Resection of Stage II or III Rectal Cancer on Pathologic Outcomes: The ACOSOG Z6051 Randomized Clinical Trial

James Fleshman, MD; Megan Branda, et al. JAMA. 2015 Oct 6;314(13):1346-55. doi: 10.1001/jama.2015.10529. [PubMed]

試験名 :ACOSOG Z6051

内容  :直腸癌 StageIIまたはIIIに対する腹腔鏡手術 vs 開腹手術

登録期間:2008年10月~2013年9月

背景

直腸癌手術において、腹腔鏡手術と開腹手術を病理学的に比較した大規模無作為化試験はない。特に進行直腸癌に対する腹腔鏡の効果を示す試験は十分な結果は出ていない。今回の試験では、直腸切除標本の病理学的および組織学的評価を行うことにより、腹腔鏡手術が開腹手術に対して非劣性であるか検証した。

デザイン


アメリカやカナダの35施設による多施設共同研究

対象患者と方法

  1. 直腸腺癌(肛門縁から12cm以下)の組織学的診断。
  2. 術前補助療法前のCTスキャンと骨盤MRIまたは経直腸的超音波検査によって診断されたT3 N0 M0、T1-3 N1-2 M0症例で、T4疾患の患者は除外。
  3. 術前の5FUベースの化学療法±放射線療法の完遂症例。 カペシタビンは5FUの代わりに使用可能。術前治療後に無作為化。
  4. 手術は術前治療後、4~12週間以内に施行。
  5. 18歳以上でPS 2以下(ECOG*)、BMI 34以下 。
  6. 重篤な全身性疾患を持つ患者や、ASA IVまたはVは除外。
  7. 腹腔鏡手術に無作為に割り付けされ、術中開腹手術に移行した症例は腹腔鏡手術アームとして解析された。

*ECOG Eastern Cooperative Oncology Group

表1. 患者背景
    腹腔鏡手術 (N=242) 開腹手術 (N=239)
男性 No. (%) 156 (64.5) 158 (66.1)
年齢 平均 (SD) 57.7 (11.5) 57.2 (12.1)
人種 No. (%)    
  白人 200 (82.6) 207 (86.6)
  黒人 21 (8.7) 11 (4.6)
  アジア 11 (4.5) 11 (4.6)
  10 10
BMI 平均 (SD) 26.4 (4.0) 26.8 (4.2)
予定術式 No. (%)    
  腹会陰式直腸切断術 55 (22.7) 57 (23.8)
  低位前方切除術 187 (77.3) 182 (76.2)
腫瘍位置 No. (%)    
  High 33 (13.6) 28 (11.7)
  Middle 85 (35.1) 95 (39.7)
  Low 124 (51.2) 116 (48.5)
肛門縁と腫瘍の距離 平均 (SD) 6.1 (3.1) 6.3 (3.0)
腫瘍最大径 平均 (SD) 4.2 (2.2) 4.3 (2.0)
Performance score No. (%)    
  0-1 238 (98.8) 233 (97.5)
  ≧2 3 (1.2) 6 (2.5)
術前 Stage No. (%)    
  I 2 (0.8) 3 (1.3)
  IIA 99 (40.9) 92 (38.5)
  IIIA 11 (4.5) 11 (4.6)
  IIIB 114 (47.1) 114 (47.7)
  IIIC 16 (6.6) 19 (7.9)
術前治療 No. (%)    
  CRT 227 (95.0) 217 (91.2)
  RT 8 (3.3) 13 (5.5)
  CT 4 (1.7) 8 (3.4)
  不明 3 1

評価項目

●主要評価項目
  • 主要評価項目はTMEが正しく行われ、CRM、DMが陰性であることとした。以下はそれぞれの定義である。
  1. 腫瘍からの環状切除断端 CRM (circumferential resection margin): 間膜内に浸潤した腫瘍から切除表面までの距離が1mm以上
  2. 腫瘍からの遠位切除断端 DM (distal margin): 切除端にもっとも近接した腫瘍からの距離が1mm以上
  3. TMEは以下のcomplete もしくはnearly completeをTME成功とする
    TME complete:上部直腸では腫瘍下端から5cmまで破綻なく間膜の切除ができている。下部直腸では完全なTME。
    TME nearly complete : 間膜脂肪のとり漏れのない間膜表面の5mm以下の欠損

上記のCRM陰性、DM陰性、TME成功のすべてを満たしている場合を病理学的手術成功例とした。

●統計学的事項

開腹群の病理学的手術成功率を90%と見積もった非劣性試験とした。試験群と腹腔鏡群との差は6%以内(非劣性マージン)、検出力は80%、αを両側0.1とした。試験群と腹腔鏡群の成功率の差の信頼区間の下限が-6%より大きければ非劣性が証明される。

●副次評価項目

無病生存
局所再発率
腹腔鏡手術による患者の利益
 手術時間、出血量、術中術後合併症、食事までの日数、鎮痛剤使用など
 合併症は入院中や術後4~6週に評価した。Clavien-Dindoで分類してGrade 3~5を比較の対象とした。

結果

  • 登録された486例のうち、基準を満たした481例を表1に示す(腹腔鏡手術を行った240例と開腹手術を行った222例)。
  • 最終的に腹腔鏡手術を行った240例と開腹手術を行った222例が評価可能だった。
  • 全体として低前方切除術(76.7%)、腹会陰式切除術(23.3%)の割合。
  • 開腹手術への移行は、患者の11.3%であった。
主要評価項目 表2
  • 手術標本の評価では、462例のうちTMEは93.5%で施行できており、complete(77%)およびnearly complete(16.5%)であった。
  • CRMは全グループの90%で確認でき、腹腔鏡手術では87.9%、開腹手術では92.3%であった(P = 0.11)。
  • 二つのグループ間でDMは98%以上の患者で陰性であった(P =0.91)。
  • 病理学的手術成功率は、腹腔鏡手術症例で81.7%(95%CI、76.8%-86.6%)であり、一方開腹手術症例では86.9%(95%CI、82.5%-91.4%)であった。両者の差は-5.3%であり、その95%信頼区間の下限は-10.8%であった( P =0.41)したがって非劣性は証明できなかった。
表2. 病理学的手術成功
  腹腔鏡手術 (N=240)
No. (%)
開腹手術 (N=222)
No. (%)
Difference (95% CI) P-value
TME complete
 CRM≦1mm, DM(+)
 CRM≦1mm, DM(-)
 CRM>1mm, DM(+)
 CRM>1mm, DM(-)
 
1 (0.4)
16 (6.7)
2 (0.8)
156 (65.0)
 
0
14 (6.3)
3 (1.4)
164 (73.9)
   
TME nearly complete
 CRM≦1mm, DM(+)
 CRM≦1mm, DM(-)
 CRM>1mm, DM(-)
 
0
6 (2.5)
40 (16.7)
 
1 (0.5)
0
29 (13.1)
   
TME incomplete
 CRM≦1mm, DM(-)
 CRM>1mm, DM(+)
 CRM>1mm, DM(-)
 
6 (2.5)
1 (0.4)
12 (5.0)
 
2 (0.9)
0
9 (4.1)
   
パーセンテージ (95% CI)        
CRM>1mm 87.9 (83.8 to 92.0) 92.3 (88.8 to 95.8) −4.4 (−9.8 to 0.98) 0.11
DM陰性 98.3 (96.7 to 99.95) 98.2 (96.5 to 99.95) −0.1 (−2.3 to 2.5) 0.91
TME complete またはnearly complete 92.1 (88.7 to 95.5) 95.1 (92.2 to 97.9) −3.0 (−7.4 to 1.5) 0.20
手術成功率 81.7 (76.5 to 86.9) 86.9 (82.5 to 91.4) −5.3 (−10.8 to ∞) 0.41
副次評価項目 表3(手術と病理結果)および表4(術中術後合併症)
  • 手術時間は腹腔鏡手術術の方が有意に長かった(平均266.2 vs 220.6分、平均差45.5分、95%CI、27.7-63.4; P <.001)。
  • 術後在院日数(7.3 vs 7.0日、平均差、0.3日、95%CI、-0.6-1.1)、30日以内の再入院(3.3 vs 4.1%、差、-0.7%、95%CI、-4.2%- 2.7%)、および重度の合併症(22.5 vs 22.1%;差、0.4%; 95%CI、-4.2%-2.7%)には有意差はなかった。
表3. 手術と病理の結果
    腹腔鏡手術 (N=240) 開腹手術 (N=222) P-value
術式 No. (%)      
  低位前方切除術 69 (28.8) 73 (32.9) 0.34
  低位前方切除術+結腸肛門吻合 110 (45.8) 96 (43.2)  
  腹会陰式直腸切断術 58(24.2) 47(21.2)  
  ハルトマン手術 1 (0.4) 0  
  大腸全摘 2 (0.8) 6 (2.7)  
術式 腹腔鏡アーム No. (%)      
  完全鏡視下 165 (68.8)    
  用手的 41 (17.1)    
  ロボット支援 34 (14.2)    
ストーマ造設 No. (%)      
  結腸ストーマ 63 (26.3) 47 (21.2) 0.25
  回腸ストーマ 171 (71.3) 165 (74.3)  
術前に括約筋温存を予定 No. (%) 191 (79.6) 174 (78.4) 0.75
凍結標本による断端検査 No. (%) 51 (21.3) 55 (24.8) 0.37
出血量 ml      
  平均 (SD) 256.1 (305.8) 318.4 (331.7) 0.004
  中央値 (IQR) 150 (100-300) 200 (100-400)  
術後在院日数 平均 (SD) 7.3 (5.4) 7.0 (3.4) 0.10
排ガスまでの日数 平均 (範囲) 2.0 (0-15.0) 2.0 (0-10.0) 0.07
切除した腸管の長さ 平均 (範囲) 28.9 (10.8) 29.5 (11.0) 0.33
CRM 最短径 平均 (範囲) 10.5 (9.2) 12.8 (11.2) 0.03
CRM No. (%)      
  ≦1mm 29 (12.1) 17 (7.7) 0.11
  >1mm 211 (87.9) 205 (92.3)  
DM 距離 平均 (SD) 3.2 (2.6) 3.1 (1.9) 0.82
リンパ節郭清個数 平均 (SD) 17.9 (10.1) 16.5 (8.4) 0.22
転移リンパ節個数 平均 (SD) 0.8 (2.1) 1.1 (3.0) 0.32
  中央値 (IQR) 0 (0-1.0) 0 (0-1.0)  
Stage No. (%)      
  0 55 (23.0) 43 (19.4) 0.26
  I 76 (31.8) 68 (30.6)  
  IIA 46 (19.2) 45 (20.3)  
  IIB 1 (0.4) 5 (2.3)  
  IIIA 14 (5.9) 11 (5.0)  
  IIIB 30 (12.6) 37 (16.7)  
  IIIC 16 (6.7) 17 (7.7)  
  IV 1 (0.4) 3 (1.4)  
病理学的完全奏効 No. (%) 70 (29.2) 50 (22.5) 0.10
腫瘍径 No. (%) 2.3 (1.8) 2.4 (1.7) 0.58
組織学的分化度 No. (%)      
  高分化 19 (11.2) 15 (8.8) 0.35
  中分化 131 (77.5) 135 (78.9)  
  低分化 18 (10.7) 16 (9.4)  
  未分化 1 (0.6) 5 (2.9)  
  不明 1 1  
表4. 術中術後合併症
    腹腔鏡手術 (N=240) 開腹手術 (N=222) P-value
術中術後合併症 No. (%) 137 (57.1) 129 (58.1) 0.93
術後合併症 グレード        
Clavien-Dindo No. (%)      
  すべて 129 (53.8) 120 (54.1)  
  3 46 (19.2) 42 (18.9) 0.46
  4 6 (2.5) 5 (2.2)  
  5 2 (0.8) 2 (0.9)  
  完全鏡視下 165 (68.8)    
30日以内の術死   2 (0.8) 2 (0.9) 0.95
術後30日以内の再入院   8 (3.3) 9 (4.1) 0.81
再手術 No. (%) 12 (5.0%) 5 (2.2%)  
  吻合部リーク 2 (0.8) 3 (1.4)  
結語
StageIIまたはIII期の直腸癌では、開腹手術と比較した腹腔鏡下手術の非劣性証明されなかった。臨床腫瘍学的転帰の結果が待たれる。
執筆:九州大学大学院 消化器・総合外科診療 特任助教 久松 雄一先生
文責:九州大学大学院 消化器・総合外科診療 准教授 沖 英次 先生

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