対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
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BRAF V600E変異型切除不能大腸癌 | 二次または三次治療 | 第3相 | 全生存期間 | 国際 | あり |
試験名 :BEACON試験
レジメン:
3剤併用療法群:エンコラフェニブ(ENC)+ビニメチニブ(BINI)+セツキシマブ(CET)併用療法、
2剤併用療法群:ENC+CET併用療法、コントロール群:化学療法(イリノテカン(IRI)単剤もしくはFOLFIRI)+CET併用療法
登録期間:2017年5月〜2019年1月
背景
- BRAF V600E変異は、切除不能大腸癌の10%を占め、予後不良であるともに、従来の化学療法の効果は乏しいことが報告されている。
- BRAF V600E変異は複数の癌種においてドライバー変異であることが知られており、悪性黒色腫や非小細胞肺癌において、BRAF阻害薬の有効性が報告されている。一方、BRAF V600E変異型大腸癌に対するBRAF阻害薬単剤の有効性は限定的である。
- BRAF V600E変異型大腸癌の前臨床モデルでの検討では、BRAF阻害により、EGFRを介した速やかなフィードバック機構の誘導による再活性化が起こることが示されており、BRAF阻害薬単剤の有効性が乏しいことの原因と考えられている。これらの知見に基づき、臨床試験において、BRAF阻害薬に抗EGFR抗体薬を併用することで抗腫瘍効果が高まることが報告された。
- また前臨床研究でMEK阻害薬を追加することの有効性が示唆され、BRAF阻害薬と抗EGFR抗体薬、MEK阻害薬併用療法の第1/2相臨床試験においても、その有効性が確認された。
- これらの知見に基づき、BRAF V600E変異型切除不能大腸癌に対して、標準治療に対するENC±BINI+CET併用療法の全生存期間における優越性を検証する第3相試験が行われた。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間、奏効割合
- 当初の主要評価項目は、全生存期間(コントロール群に対する3剤併用療法群)であったが、プロトコル改正が行われ、奏効割合(コントロール群に対する3剤併用療法群)が追加された。また、全生存期間の中間解析が実施されることとなった(本報告は中間解析の結果である)。
- 複数ある主要評価項目のαエラーは、フォールバック手順を用いて制御した。奏効割合の解析には片側αは0.005とし、残りの0.020は全生存期間に割り当てられた。
- 本試験は、3剤併用療法と2剤併用療法を比較することが可能な検出力を有していなかった。
サンプルサイズの設定根拠:
- サンプルサイズは、副次評価項目である全生存期間(コントロール群に対する2剤併用療法群)に基づいて決定された。この比較では、全生存期間におけるハザード比が0.70であることを検証するために、試験の検出力を90%と設定したところ、338イベントが必要と算出された(片側α 0.025、層別ログランク検定)。
- 奏効割合(コントロール群に対する3剤併用療法群)の主解析に必要とされる症例数は、奏効割合がコントロール群で10%、3剤併用療法群で30%であるという仮定に基づき、1群あたり110例であれば、片側有意水準0.005で88%の検出力で検証できると算出された(Cochran-Mantel-Haenszel検定)。
試験結果:
- 2017年5月〜2019年1月までに1677例がスクリーニングされ、665例がランダム化、それぞれ3剤併用療法群に224例、2剤併用療法群に220例、コントロール群に221例に割り付けされた。
- ベースラインの患者背景に3群間で偏りを認めなかった。
1. 全生存期間(主要評価項目)
中央値 | 95%信頼区間 | ハザード比(95%信頼区間), P値 | |
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3剤併用療法 | 9.0ヶ月 | 8.0-11.4ヶ月 | 0.52 (0.39-0.70), p<0.001* |
2剤併用療法 | 8.4ヶ月 | 7.5-11.0ヶ月 | 0.60 (0.45-0.79), p<0.001 |
コントロール群 | 5.4ヶ月 | 4.8-6.6ヶ月 | Ref. |
*本試験の主要評価項目の1つ
2. 奏効割合
奏効割合 | 95%信頼区間 | P値 | |
---|---|---|---|
3剤併用療法 | 26% | 18-35% | p<0.001* |
2剤併用療法 | 20% | 13-29% | p<0.001 |
コントロール群 | 2% | <1-7% | Ref. |
*本試験の主要評価項目の1つ
3. 無増悪生存期間
中央値 | 95%信頼区間 | ハザード比(95%信頼区間), P値 | |
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3剤併用療法 | 4.3ヶ月 | 4.1-5.2ヶ月 | 0.38 (0.29-0.49), p<0.001* |
2剤併用療法 | 4.2ヶ月 | 3.7-5.4ヶ月 | 0.40 (0.31-0.52), p<0.001 |
コントロール群 | 1.5ヶ月 | 1.5-1.7ヶ月 | Ref. |
4. 有害事象
3剤併用療法群 N=222 (%) | 2剤併用療法群 N=216 (%) | コントロール群 N=193 (%) | ||||
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Any Grade | Grade≥3 | Any Grade | Grade≥3 | Any Grade | Grade≥3 | |
下痢 | 137 (62) | 22 (10) | 72 (33) | 4 (2) | 93 (48) | 19 (10) |
ざ瘡様皮疹 | 108 (49) | 5 (2) | 63 (29) | 1 (<1) | 76 (39) | 5 (3) |
悪心 | 100 (45) | 10 (5) | 74 (34) | 1 (<1) | 80 (41) | 2 (1) |
嘔吐 | 85 (38) | 9 (4) | 46 (21) | 3 (1) | 56 (29) | 5 (3) |
倦怠感 | 73 (33) | 5 (2) | 65 (30) | 9 (4) | 53 (27) | 8 (4) |
腹痛 | 65 (29) | 13 (6) | 49 (23) | 5 (2) | 48 (25) | 9 (5) |
食欲低下 | 63 (28) | 4 (2) | 58 (27) | 3 (1) | 52 (27) | 6 (3) |
無力症 | 55 (25) | 7 (3) | 46 (21) | 7 (3) | 49 (25) | 9 (5) |
便秘 | 55 (25) | 0 | 33 (15) | 0 | 35 (18) | 2 (1) |
皮膚乾燥 | 46 (21) | 2 (1) | 24 (11) | 0 | 13 (7) | 1 (1) |
発熱 | 45 (20) | 4 (2) | 35 (16) | 2 (1) | 27 (14) | 1 (1) |
発疹 | 42 (19) | 1 (<1) | 25 (12) | 0 | 27 (14) | 3 (2) |
口内炎 | 31 (14) | 1 (<1) | 12 (6) | 0 | 44 (23) | 4 (2) |
手掌足底発赤知覚不全症候群 | 28 (13) | 0 | 9 (4) | 1 (<1) | 14 (7) | 0 |
掻痒 | 28 (13) | 0 | 20 (9) | 0 | 9 (5) | 0 |
背部痛 | 25 (11) | 2 (1) | 22 (10) | 2 (1) | 23 (12) | 2 (1) |
霧視 | 25 (11) | 0 | 8 (4) | 0 | 1 (1) | 0 |
末梢性浮腫 | 24 (11) | 1 (<1) | 18 (8) | 0 | 13 (7) | 1 (1) |
体重減少 | 24 (11) | 1 (<1) | 21 (10) | 1 (<1) | 11 (6) | 0 |
関節痛 | 23 (10) | 0 | 41 (19) | 2 (1) | 1 (1) | 0 |
咳嗽 | 23 (10) | 0 | 16 (7) | 1 (<1) | 10 (5) | 0 |
ALT上昇 | 51 (23) | 4 (2) | 36 (17) | 0 | 50 (26) | 5 (3) |
AST上昇 | 50 (23) | 4 (2) | 31 (14) | 3 (1) | 38 (20) | 3 (2) |
ビリルビン上昇 | 12 (5) | 5 (2) | 16 (7) | 5 (2) | 16 (8) | 6 (3) |
CK上昇 | 52 (23) | 6 (3) | 6 (3) | 0 | 13 (7) | 0 |
クレアチニン上昇 | 166 (75) | 10 (5) | 10 (5) | 5 (2) | 65 (34) | 2 (1) |
貧血 | 125 (56) | 24 (11) | 70 (32) | 9 (4) | 85 (44) | 8 (4) |
- Grade3以上の有害事象を、3剤併用療法では58%、2剤併用療法では50%、コントロール群では61%に認めた。
- 有害事象による中止を、3剤併用療法では7%、2剤併用療法では8%、コントロール群では11%に認めた。
- 致死的な有害事象を、3剤併用療法では4%、2剤併用療法では3%、コントロール群では4%に認めた。
5. サブグループ解析
- コントロール群に対する3剤併用療法群の全生存期間についてサブ解析が行われた。
- どのサブグループでもコントロール群に対する3剤併用療法群の有効性は一貫していた。
ハザード比(95%信頼区間) | |
---|---|
ECOG PS - 0 - 1 |
0.63 (0.41–0.96) 0.48 (0.33–0.70) |
前治療のイリノテカンの使用 - なし - あり |
0.53 (0.35–0.79) 0.55 (0.37–0.80) |
地域 - 北米 - 西欧 - その他 |
0.91 (0.45–1.86) 0.39 (0.27–0.56) 0.74 (0.41–1.33) |
切除不能大腸癌に対する前治療歴 - 1レジメン - ≥2レジメン |
0.54 (0.38–0.77) 0.53 (0.34–0.82) |
年齢 - <65歳 - ≥65歳 |
0.58 (0.41–0.82) 0.48 (0.30–0.76) |
性別 - 男性 - 女性 |
0.53 (0.36–0.79) 0.54 (0.36–0.80) |
転移臓器個数 - ≤2 - ≥3 |
0.54 (0.37–0.80) 0.50 (0.34–0.75) |
マイクロサテライト不安定性 - 異常、高頻度 - 正常 - 不明 |
0.67 (0.26–1.76) 0.44 (0.31–0.62) 0.78 (0.44–1.41) |
ベースラインのCEA値 - 正常上限値以上 - 正常上限値以下 |
0.54 (0.40–0.72) 0.42 (0.18–0.99) |
ベースラインのCRP値 - 正常上限値以上 - 正常上限値以下 |
0.61 (0.42–0.88) 0.46 (0.29–0.71) |
原発占居部位 - 左側 - 右側 - 両側 - 不明 |
0.43 (0.26–0.72) 0.63 (0.44–0.90) 0.74 (0.22–2.42) 0.35 (0.09–1.38) |
結語
BRAF V600E変異を有する切除不能大腸癌患者において、ENC+BINI+CET併用療法は標準治療と比較して、全生存期間が有意に延長し、奏効割合が有意に高くなった。
関連論文
1) Cutsem, E. V. et al. Binimetinib, Encorafenib, and Cetuximab Triplet Therapy for Patients With BRAFV600E–Mutant Metastatic Colorectal Cancer: Safety Lead-In Results From the Phase III BEACON Colorectal Cancer Study. J Clin Oncol 37, JCO.18.02459-11 (2019).
2) Tabernero, J. et al. Encorafenib Plus Cetuximab as a New Standard of Care for Previously Treated BRAF V600E–Mutant Metastatic Colorectal Cancer: Updated Survival Results and Subgroup Analyses from the BEACON Study. J Clin Oncol 39, 273–284 (2021).
執筆:国立がん研究センター東病院 消化管内科 中島 裕理 先生
監修:愛知県がんセンター病院 薬物療法部 医長 舛石 俊樹 先生
監修:愛知県がんセンター病院 薬物療法部 医長 舛石 俊樹 先生