対象 : | 直腸癌(孤発性、adenocarcinoma、肛門より15cm以内、遠隔転移なし) |
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除外 : | 深達度T4、術前画像診断(CT、MRI)で内骨盤筋膜(endopelvic fascia)より2㎜以内と診断された深達度T3、経肛門的に切除された深達度T1、腺癌以外、皮膚基底細胞癌または子宮頚部上皮内癌以外の悪性疾患の既往、大腸切除を要する急性腸閉塞の併発、家族性大腸癌、Crohn病または潰瘍性大腸炎、全身麻酔禁忌または遷延する気腹症、ASA category4以上。 |
術式 : | Total mesorectal excision(TME)またはPartial mesorectal excision(PME)の施行。上部直腸(腫瘍肛門縁が肛門より10-15㎝)においては5cm以上の肛門側断端距離を保つ。下腸間膜動脈の切離部位と一時的回腸人工肛門の造設は執刀医の裁量による。 |
研究の相 : | 第3相(非劣性、open-label、多施設)。 |
主要評価項目: | 3年局所再発率。 |
副次評価項目: | 無再発生存、全生存 |
実施地域 : | 8か国30施設(オランダ、ベルギー、スペイン、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、韓国、カナダ) |
日本の参加 : | なし |
試験名 :COLOR II
比較項目:開腹直腸切除 vs 腹腔鏡下直腸切除
登録期間:2004年1月〜2010年5月
背景
一方腹腔鏡手術は、その良好な短期成績(疼痛の軽減、出血量の減少、術後開腹期間の短縮)により、急速に普及されてきた。当初は腹腔鏡結腸切除術における腹壁再発の報告があった。しかしその後の複数の無作為化比較試験により腹腔鏡結腸切除術が開腹手術と同等の無再発生存率、全生存率が得られた(Kuhry E, et al. Lancet Oncol 2009;10:44-52、Lacy AM, et al. Lancet. 2002;359:2224-2229)。ただし直腸癌に対しては、腹腔鏡手術の開腹手術に対する非劣性を証明する大規模無作為化試験の報告はない。
本試験の目的は、3年時点での骨盤または会陰部における再発率(局所再発率)と生存率を報告する。
シェーマ
統計学的事項
試験結果:
- 2004年1月から2010年5月までの間に、1103例が登録され、腹腔鏡手術群に739例、開腹手術群に364例が無作為割り付けされた。無作為割付け後、59例が除外され、1044例(腹腔鏡手術群699例、開腹手術群345例)が解析対象となった(シェーマ)。予後解析は1036例で行われた。
1. 患者背景
割り付け調整因子は、施設、腫瘍の位置、術前放射線療法であった。
腹腔鏡手術群 N=699 |
開腹手術群 N=345 |
|
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性別-no.(%) 男性 女性 |
448 (64) 251 (36) |
211 (61) 134 (39) |
年齢-yr | 66.8±10.5 | 65.8±10.9 |
American Society of Anesthesiologists classification-no.(%) I II III IV Missing data |
156 (22) 386 (55) 131 (19) 5 (1) 21 (3) |
65 (19) 211 (61) 61 (18) 1 (<1) 7 (2) |
Body mass index | 26.1±4.5 | 26.5±4.7 |
肛門縁からの距離-no.(%) 上部直腸(10-15cm) 中部直腸(5-10cm) 下部直腸(<5cm) |
223 (32) 273 (39) 203 (29) |
116 (34) 136 (39) 93 (27) |
術前stage-no.(%) I II III Missing data |
201 (29) 209 (30) 257 (37) 32 (5) |
96 (28) 107 (31) 126 (37) 16 (5) |
術前放射線療法-no.(%) | 412 (59) | 199 (58) |
術前化学療法-no/total no.(%) | 196/609 (32) | 99/295 (34) |
癌の遺残なし-no/total no.(%) | 33/412 (8) | 19/199 (10) |
病理学的stage-no.(%) I II III IV Missing data |
231 (33) 180 (26) 233 (33) 4 (1) 18 (3) |
107 (31) 91 (26) 125 (36) 0 3 (1) |
肉眼的完全切除-no.(%) Complete Partially complete Incomplete Missing data |
589 (84) 58 (8) 19 (3) 33 (5) |
303 (88) 19 (6) 9 (3) 14 (4) |
郭清リンパ節個数 Median no. (IQR) Missing data-no.(%) |
13 (10-18) 16 (2) |
14 (10-19) 4 (1) |
2. 短期成績
- 腹腔鏡手術群で16%に開腹移行を認めた。腹腔鏡手術群は開腹手術群と比較して手術時間が52分長く、初回排便までの日数が1日早く、術後在院日数が1日短かった。縫合不全や、その他の術中/術後合併症、術後28日以内の死亡率は両群間で有意差を認めなかった(van der Pas MH, et al. Lancet Oncol. 2013;14:210-218)。
3. 病理学的検討
直腸間膜の肉眼的完全切除率、環状切離断端(Circumferential resection margin)陽性率、肛門側切離断端陽性率(両群中央値3.0cm)に両群間で有意差を認めなかった。
腫瘍位置と術式 | Circumferential resection margin陽性 |
局所再発率 (ITT解析) |
局所再発率 (As-treated解析) |
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no./no toral no. (%) | %群間差 (95%信頼区間) |
% | 群間差 (90%信頼区間) |
% | 群間差 (90%信頼区間) |
|
全部位 腹腔鏡手術群 開腹手術群 |
56/588 (10) 30/300 (10) |
-0.5 (-4.9 to 3.5) |
5.0 5.0 |
0.0 (-2.6 to 2.6) |
4.3 6.3 |
-2.0 (-4.7 to 0.7) |
上部直腸 腹腔鏡手術群 開腹手術群 |
18/196 (9) 9/97 (9) |
-0.1 (-8.2 to 6.4) |
3.5 2.9 |
0.6 (-2.9 to 4.1) |
3.0 3.9 |
-0.9 (-4.6 to 2.8) |
中部直腸 腹腔鏡手術群 開腹手術群 |
22/228 (10) 4/115 (3) |
6.2 (0.1 to 11.2) |
6.5 2.4 |
4.1 (0.7 to 7.5) |
5.7 4.1 |
1.6 (-2.3 to 5.5) |
下部直腸 腹腔鏡手術群 開腹手術群 |
15/164 (9) 17/79 (22) |
-12.4 (-23.2 to -3.0) |
4.4 11.7 |
-7.3 (-13.9 to -0.7) |
3.8 12.7 |
-8.9 (-15.6 to -2.2) |
4. 局所再発率(主要評価項目)
- 3年局所再発率はいずれの群も5.0%であった(腹腔鏡手術群31例、開腹手術群15例)。群間差の90%信頼区間の上限(2.6%)は、非劣性マージン(5%)を下回ったため、腹腔鏡手術の開腹手術に対する非劣性が証明された。
- ITT解析において、上部直腸癌に対する局所再発率は、腹腔鏡手術群3.5%、開腹手術群2.9%(群間差0.6;90%CI、-2.9 to 4.1)であった。中部直腸癌においては腹腔鏡手術群6.5%、開腹手術群2.4%(群間差4.1;90%CI、0.7 to 7.5) 、下部直腸癌においては腹腔鏡手術群4.4%、開腹手術群11.7%(群間差-7.3;90%CI、-13.9 to -0.7)であった。
- As-treated解析においては、上部直腸癌に対する局所再発率は、腹腔鏡手術群3.0%、開腹手術群3.9%(群間差-0.9;90%CI、-4.6 to 2.8)であった。中部直腸癌においては腹腔鏡手術群5.7%、開腹手術群4.1%(群間差1.6;90%CI、-2.3 to 5.5) 、下部直腸癌においては腹腔鏡手術群3.8%、開腹手術群12.7%(群間差-8.9;90%CI、-15.6 to -2.2)であった。
- 3年時点で局所再発をきたした46例のうち、27例で遠隔転移も認めた。
5. 無再発生存率と全生存率
3年無再発生存率は、腹腔鏡手術群74.8%、開腹手術群70.8%(群間差4.0;95%CI、 -1.9 to 9.9)であった。StageI、StageIIにおいて、3年無再発生存率は両群間で同等であった。一方、StageIIIに対する3年無再発生存率は、腹腔鏡手術群64.9%、開腹手術群52.0%(群間差12.9;95%CI、2.2 to 23.6)であった。
3年時点で145例が死亡しており、3年全生存率は腹腔鏡手術群86.7%、開腹手術群83.6%(群間差3.1;95%CI、-1.6 to 7.8)であった。Stage別の全生存率は両群間で同等であった。
3年時点での遠隔転移率は腹腔鏡手術群19.1%(port-site再発1例)、開腹手術群22.1%(開腹創部再発1例)であった
監修:九州大学大学院 消化器・総合外科診療 准教授 沖 英次 先生