大腸癌 CRYSTAL(RAS 解析)

Fluorouracil, leucovorin, and irinotecan plus cetuximab treatment and RAS mutations in colorectal cancer

Cutsem EV, Lenz HJ, Köhne CH, et al. J Clin Oncol. 2015 Mar 1;33(7):692-700. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
大腸癌 一次治療 第3相 無増悪生存期間 国際 なし

試験名 :CRYSTAL

レジメン:FOLFIRI+セツキシマブvs FOLFIRI

登録期間:2004年7月〜2005年11月

背景

初回治療を対象にFOLFIRI(フルオロウラシル+ロイコボリン+イリノテカン)に対するセツキシマブ(CET)の上乗せ効果を検証する第3相試験(CRYSTAL試験)において、全体集団では、全生存期間においては有意差がなかったものの(FOLFIRI+CET vs. FOLFIRI=19.9か月 vs. 18.6か月, HR=0.93, 95%CI:0.81-1.07, p=0.31)、主要評価項目である無増悪生存期間は、CET併用群が有意に良好であった(各々8.9か月 vs. 8.0か月, HR=0.85, 95%CI:0.72-0.99, p=0.048)。その後、KRAS 変異有無別の後方視的な解析が行われ、KRAS 野生型では無増悪生存期間(各々中央値9.9か月 vs. 8.7か月, HR=0.68, 95%CI:0.50-0.94, p=0.02)、全生存期間(各々中央値24.9か月 vs. 21.0か月, HR=0.84, 95%CI:0.64-1.11)、奏効割合(各々59% vs. 43%, オッズ比1.91)ともにCETの上乗せ効果が認められたものの、KRAS 変異型では無増悪生存期間(各々中央値7.6か月 vs. 8.1か月, HR=1.07, 95%CI:0.71-1.61, p=0.75)、全生存期間(各々中央値17.5か月 vs. 17.7か月, HR=1.03, 95%CI:0.74-1.44)、奏効割合(各々36% vs. 40%, オッズ比0.80)いずれもCETの上乗せ効果は示せなかった1)。本検討では、CRYSTAL試験の患者を対象に、RASKRAS /NRAS )変異の有無*とCET併用の効果との関連について後方視的に検討した。

*本検討では腫瘍組織を用いたRAS 変異検査としてBEAMing法を用いた。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:無増悪生存期間

 RAS 変異の有無と生存との関連について後方視的に検討した。

試験結果:

1. 無増悪生存期間(主要評価項目)
  RAS 野生型 minor RAS 変異型 Any RAS 変異型
  FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI
N 178 189 32 31 246 214
無増悪生存期間中央値(月) 11.4 8.4 7.2 6.9 7.4 7.5
HR (95%CI) 0.56 (0.41-0.76) 0.81 (0.39-1.67) 1.10 (0.85-1.42)
p <0.001 0.56 0.47
  • 無増悪生存期間はRAS 野生型においてCET併用群で有意な延長が認められたが、minor RAS 変異型、およびAny RAS 変異型においては、CETの上乗せ効果は認めなかった。
2. 全生存期間
  RAS 野生型 minor RAS 変異型 Any RAS 変異型
  FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI
N 178 189 32 31 246 214
全生存期間中央値(月) 28.4 20.2 18.2 20.7 16.4 17.7
HR (95%CI) 0.69 (0.54-0.88) 1.22 (0.69-2.16) 1.05 (0.86-1.28)
p 0.0024 0.50 0.64
  • 全生存期間においてもRAS 野生型においてCET併用群で有意な延長が認められたが、minor RAS 変異型、およびAny RAS 変異型においては、CETの上乗せ効果は認めなかった。
3. 奏効割合
  RAS 野生型 minor RAS 変異型 Any RAS 変異型
  FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI
N 178 189 32 31 246 214
奏効割合(%) 66.3 38.6 34.4 35.5 31.7 36.0
OR (95%CI) 3.11 (2.03-4.78) 1.02 (0.33-3.15) 0.85 (0.58-1.25)
p <0.001 0.97 0.40
  • 奏効割合においてもRAS 野生型においてCET併用群で有意な上昇が認められたが、minor RAS 変異型、およびAny RAS 変異型においては、CETの上乗せ効果は認めなかった。
4. 有害事象(Grade3-4)
  RAS 野生型 minor RAS 変異型 Any RAS 変異型
  FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI FOLFIRI+CET FOLFIRI
N 178 189 32 31 246 214
全有害事象 (%) 144 (80.9) 110 (58.2) 25 (78.1) 21 (67.7) 189 (76.8) 133 (62.1)
好中球減少症 (%) 55 (30.9) 38 (20.1) 9 (28.1) 8 (25.8) 62 (25.2) 58 (27.1)
下痢 (%) 26 (14.6) 18 (9.5) 3 (9.4) 2 (6.5) 30 (12.2) 22 (10.3)
皮疹 (%) 16 (9.0) 0 3 (9.4) 0 19 (7.7) 0
白血球減少症 (%) 15 (8.4) 7 (3.7) 0 3 (9.7) 12 (4.9) 13 (6.1)
疲労 (%) 12 (6.7) 9 (4.8) 0 2 (6.5) 16 (6.5) 5 (2.3)
深部静脈血栓症 (%) 11 (6.2) 1 (0.5) 0 1 (3.2) 2 (0.8) 9 (4.2)
ざ瘡様皮疹 (%) 9 (5.1) 0 2 (6.3) 0 14 (5.7) 0
インフュージョンリアクション (%) 4 (2.2) 0 0 0 7 (2.8) 0
  • Grade3-4の有害事象に関して、RAS 変異による頻度の違いは認められなかった。
結語
CRYSTAL試験の探索的RAS 解析により、RAS 野生型切除不能大腸癌に対してFOLFIRI+CET療法を行う有用性が示された。KRAS 野生型からminor RAS 変異型を除外することによりCETの上乗せ効果がより強くなる傾向が確認された。抗EGFR抗体薬併用療法を導入する際には、KRAS エクソン2(コドン12, 13)変異のみではなく、RAS (KRAS /NRAS )変異の有無を考慮する必要がある。
関連論文
1) Van Cutsem E, Kohne CH, Hitre E, et al. Cetuximab and chemotherapy as initial treatment for metastatic colorectal cancer. N Engl J Med 2009;360:1408-17. [Pubmed]
執筆:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 副医長 白数 洋充 先生
監修:愛知県がんセンター病院 薬物療法部 医長 坂東 英明 先生

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