対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
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大腸癌 | 二次治療 | 第3相 | 全生存期間 | 国際 | なし |
試験名 :EPIC
レジメン:イリノテカン vs セツキシマブ+イリノテカン
登録期間:2003年5月〜2006年2月
背景
セツキシマブ+イリノテカン併用療法は、イリノテカン抵抗性の切除不能大腸癌にも高い奏効割合を認めていることから、セツキシマブが化学療法感受性を改善していることが示唆される。本試験(EPIC)では、イリノテカン使用歴のないEGFR陽性切除不能大腸癌の二次治療における、セツキシマブ+イリノテカン併用療法の有効性を検証した。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間
本試験はイリノテカン群を対照としてセツキシマブ+イリノテカン群の全生存期間(OS)のハザード比が0.80となることを検証する優越性試験として設計され、検出力90%、両側α=0.05として、850イベントが必要とされた。試験結果:
- 2003年5月から2006年2月の間に、221施設から1298例が登録された。
- イリノテカンの累積投与量は併用群で多かった(中央値:1395 vs 1048mg/㎡)。
イリノテカンの減量も併用群で多く(43.7% vs 36.2%)、主に胃腸障害が原因であった。
1. 全生存期間(主要評価項目)
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.975 (95%C.I. 0.854-1.114) p=0.71 |
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セツキシマブ+イリノテカン(n=648) | 10.7ヶ月 | 9.6-11.3 | |
イリノテカン(n=650) | 10.0ヶ月 | 9.1-11.3 |
- イリノテカン群の46.9%が後治療としてセツキシマブ(そのうち87.2%がセツキシマブ+イリノテカン)が投与された。
2. 無増悪生存期間
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.692 (95%C.I. 0.617-0.776) p≤ 0.0001 |
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セツキシマブ+イリノテカン(n=648) | 4.0ヶ月 | 3.2-4.1 | |
イリノテカン(n=650) | 2.6ヶ月 | 2.1-2.7 |
3. 無増悪生存割合
6ヶ月無増悪生存割合 | 9ヶ月無増悪生存割合 | |||
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中央値 | 95%信頼区間 | 中央値 | 95%信頼区間 | |
セツキシマブ+イリノテカン(n=648) | 27.4% | 23.9-30.9 | 12.6% | 10.0-15.3 |
イリノテカン(n=650) | 16.3% | 13.3-19.2 | 6.5% | 4.5-8.5 |
4. 奏効割合
奏効割合 | 95%信頼区間 | p<0.0001 | |
セツキシマブ+イリノテカン(n=648) | 16.4%(CR 9例、PR 97例) | 13.6-19.4 | |
イリノテカン(n=650) | 4.2%(CR 1例、PR 26例) | 2.8-6.0 |
5. 有害事象(NCI-CTCAE ver.2.0)
セツキシマブ+イリノテカン(n=638) | イリノテカン(n=629) | |||
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全Grade | Grade 3/4 | 全Grade | Grade 3/4 | |
貧血 | 527 (85.3%) | 16 (2.6%) | 520 (87.2%) | 19 (3.2%) |
好中球減少症 | 385 (62.4%) | 196 (31.8%) | 331 (55.6%) | 151 (25.4%) |
血小板減少症 | 165 (26.8%) | 11 (1.8%) | 167 (28.1%) | 4 (0.7%) |
下痢 | 518 (81.2%) | 181 (28.4%) | 452 (71.9%) | 99 (15.7%) |
ざ瘡様皮疹 | 487 (76.3%) | 52 (8.2%) | 31 (4.9%) | 1 (0.2%) |
悪心 | 345 (54.1%) | 28 (4.4%) | 334 (53.1%) | 27 (4.3%) |
疲労 | 257 (40.3%) | 49 (7.7%) | 221 (35.1%) | 21 (3.3%) |
6. 後治療別の全生存期間
セツキシマブ+イリノテカン | イリノテカン | |||||
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n | 中央値 | 95%信頼区間 | n | 中央値 | 95%信頼区間 | |
後治療なし | 279 | 6.31ヶ月 | 5.3-7.1 | 229 | 3.9ヶ月 | 3.5-4.9 |
後治療あり: セツキシマブ以外 |
296 | 13.0ヶ月 | 11.6-13.9 | 116 | 10.1ヶ月 | 9.0-13.2 |
後治療あり: セツキシマブ |
73 | 16.2ヶ月 | 12.8-27.4 | 305 | 13.0ヶ月 | 12.2-15.0 |
7. QOL解析
- 15項目中10項目(疲労、悪心・嘔吐、睡眠障害、疼痛、下痢、全般的健康感など)でセツキシマブ+イリノテカン群が有意に優れていたが、社会的機能に差は認められなかった。
結語
オキサリプラチン併用療法に不応となった切除不能大腸癌に対して、セツキシマブ+イリノテカン併用療法はイリノテカン単剤と比較して無増悪生存期間および奏効割合を改善したが、主要評価項目の全生存期間の延長は認めなかった。これはイリノテカン単剤群において後治療でセツキシマブ+イリノテカン併用療法が行われた患者が多かったことが影響した可能性が考えられる。
執筆:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 レジデント 井上 博登 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 治験管理室 部長、消化器内科 医長 山﨑 健太郎 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 治験管理室 部長、消化器内科 医長 山﨑 健太郎 先生