対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
大腸癌 | 三次治療以降 | 第2相 | 奏効割合 | 国際 | なし |
試験名 :HERACLES
レジメン:トラスツズマブ+ラパチニブ
登録期間:2012年8月27日〜2015年10月15日
背景
切除不能大腸癌のxenograft modelにおいて、HER2 遺伝子増幅は抗EGFR抗体薬であるセツキシマブの耐性の原因となることが報告されている。また、抗HER2療法単剤では有効性を認めなかったが、抗HER2抗体薬(ペルツズマブまたはトラスツズマブ)とEGFR/HER2チロシンキナーゼ阻害薬(ラパチニブ)を併用することで腫瘍縮小を認めた。ペルツズマブ+ラパチニブ併用療法は承認されておらず、毒性評価が十分ではない一方で、トラスツズマブ+ラパチニブ併用療法はHER2陽性乳癌の標準治療である。以上の背景から、標準治療に不応となったKRAS exon2(codon 12.13)野生型HER2陽性切除不能大腸癌に対して、トラスツズマブとラパチニブ併用療法の有効性を検討するHERACLES試験が行われた。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:客観的奏効割合 (ORR)
奏効割合の帰無仮説を10%以下、対立仮説を30%以上、片側α=0.05、検出力85%とし、必要症例は27例と算出された。6例以上の奏効を認めた場合、トラスツズマブ+ラパチニブ併用療法が有効であると判断する。試験結果:
- 2012年8月27日から2015年5月15日の間にKRAS exon2(codon 12,13)野生型患者914例がスクリーニングされ、HER2陽性は48例(5%)であった。2例が登録前に死亡し、19例が不適格であったため、27例が登録された。
- HER2評価は27例中20例(74%)が中央判定、7例が施設判定であり、施設判定例は中央判定による再評価が行われ、一致率は71%であった。
- HER2発現はIHC 3+が74%で、IHC 2+が26%であった。
- 前治療レジメン数は多く、20例(74%)は4レジメン以上の治療が行われていた。
- 前治療の抗EGFR抗体薬の抗腫瘍効果の評価が可能であった15例のうち奏効例は認めなかった。
- 本解析のデータカットオフ時点で、観察期間中央値は94週(四分位範囲:51-127)であった。データカットオフ時点で3例が治療継続中であった。
1. 奏効割合(主要評価項目
奏効割合 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|
CR | 4% | 3-11 |
PR | 26% | 9-43 |
SD ≧ 16週 | 30% | 13-47 |
SD ≦ 16週 | 15% | 1-27 |
RR | 30% | 14-50 |
DCR | 59% | 39-78 |
- 8例に奏効を認め、事前に設定されていた6例を上回った。
- 奏効を得られた8例のうち、7例はIHC 3+であった。
2. 無増悪生存期間
中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|
トラスツズマブ+ラパチニブ | 21週 | 16-32 |
3. 全生存期間
中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|
トラスツズマブ+ラパチニブ | 46週 | 33-68 |
- 27例中12例(45%)は治療開始1年の時点で生存していた。
4. 有害事象
GRADE 1-2 | GRADE 3 | |
---|---|---|
下痢 | 78% | 0 |
腹痛 | 15% | 0 |
悪心 | 11% | 0 |
嘔吐 | 11% | 0 |
皮疹 | 44% | 4% |
皮膚乾燥 | 30% | 0 |
食欲不振 | 33% | 15% |
爪囲炎 | 7% | 0 |
結膜炎 | 33% | 0 |
手足症候群 | 7% | 0 |
血中ビリルビン増加 | 0 | 4% |
5. 探索的解析
- 奏効に関するバイオマーカーの探索的解析では、HER2 遺伝子のコピー数をリアルタイムPCR法で評価し、奏効例と非奏効例のHER2 遺伝子のコピー数のカットオフ値をROC曲線から求めたところ、HER2 遺伝子のコピー数のカットオフ値は9.45と決められた。このカットオフ値以上の症例(n=18)における無増悪生存期間中央値は29週、カットオフ値未満の症例(n=9)における無増悪生存期間中央値は16週であった。
結語
トラスツズマブ+ラパチニブ併用療法は、標準治療に不応となったKRAS 野生型HER2陽性切除不能大腸癌において有効かつ忍容性がある。
執筆:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 副医長 伏木邦博 先生
監修:愛知県がんセンター病院 薬物療法部 医長 舛石俊樹 先生
監修:愛知県がんセンター病院 薬物療法部 医長 舛石俊樹 先生