対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
大腸癌 | 三次治療以降 | 第2相 | 全生存期間 | 国内 | あり |
試験名 :J003
レジメン:TAS-102 vs プラセボ
登録期間:2009年8月〜2010年4月
背景
大腸癌は全癌の10%を占める。フルオロピリミジン、イリノテカン、オキサリプラチンといった細胞障害性薬剤、ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブといった抗体薬により切除不能大腸癌の生存は延長した。しかし、標準治療に不応・不耐となった多く患者は良好なPSを維持しており、生存に寄与するさらなる治療が求められる。TAS-102はFTDとTPIを配合した経口抗悪性腫瘍薬である。フルオロピリミジン、イリノテカン、オキサリプラチンとは異なる作用機序を持ち、これらの薬剤に抵抗性を持つ腫瘍に対しても効果が期待される。第1相試験で大腸癌を含めた固形腫瘍に対して有用性が示された。そのため、今回既治療の切除不能大腸癌患者を対象にTAS-102の有用性と安全性を検討するプラセボ比較二重盲検第2相試験の実施に至った。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間
本試験は、プラセボ群を対照としてTAS-102群の全生存期間中央値を3ヶ月延長(ハザード比=0.67)することを検討するため設計され、両側α=0.1、検出力80%と設定したところ、121イベントが必要とされた。試験結果:
- 2009年8月から2010年4月の間に、国内の施設から172例が登録され、114例がTAS-102群に、58例がプラセボ群に割り付けられた。
- ほとんどの症例で大腸癌に使用可能な薬剤全てに抵抗性を有すると判断されていた。
- 149例(88%)でKRAS遺伝子変異の測定が可能であった。
- 患者背景に大きな隔たりは無かったが、TAS-102群で術後補助化学療法を受けた割合が高かった。
- データカットオフは2011年2月4日、観察期間中央値は11.3ヶ月であった。
- カットオフ時点で123名の死亡イベントを認めていた。
1. 全生存期間(主要評価項目)
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.56 (95%C.I. 0.39-0.81) p=0.0011 |
|
TAS-102(n=112) | 9.0ヶ月 | 7.3-11.3 | |
プラセボ(n=57) | 6.6ヶ月 | 4.9-8.0 |
2. 無増悪生存期間(中央判定)
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.41 (95%C.I. 0.28-0.59) P<0.0001 |
|
TAS-102(n=112) | 2.0ヶ月 | 1.9-2.8 | |
プラセボ(n=57) | 1.0ヶ月 | 1.0-1.0 |
3. 奏効割合
奏効割合 | |
---|---|
TAS-102(n=112) | 1%(PR 1例) |
プラセボ(n=57) | 0% |
4. 病勢制御割合(中央判定)
病勢制御割合 | p<0.0001 | |
TAS-102(n=112) | 43%(PR 1例、SD 48例) | |
プラセボ(n=57) | 11%(SD 6例) |
5. 治療成功期間(中央判定)
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.40 (95%C.I. 0.28-0.56) P<0.0001 |
|
TAS-102(n=112) | 1.9ヶ月 | 1.3-2.1 | |
プラセボ(n=57) | 1.0ヶ月 | 1.0-1.0 |
6. 有害事象(NCI-CTCAE ver.3.0)
TAS-102 (n=113) | プラセボ (n=57) | |||
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全Grade | Grade 3/4 | 全Grade | Grade 3/4 | |
好中球減少 | 81 (72%) | 57 (50%) | 1 (2%) | 0 |
白血球減少 | 86 (76%) | 32 (28%) | 2 (4%) | 0 |
貧血 | 82 (73%) | 19 (17%) | 9 (16%) | 3 (5%) |
発熱性好中球減少 | 5 (4%) | 5 (4%) | 0 | 0 |
疲労 | 66 (58%) | 7 (6%) | 24 (42%) | 2 (4%) |
下痢 | 43 (38%) | 7 (6%) | 12 (21%) | 0 |
7. 全生存期間(KRAS status別)
n | 中央値 | 95%信頼区間 | HR,p値 | ||
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KRAS野生型 | TAS-102 | 54 | 7.2ヶ月 | 6.1-10.3 | HR 0.70 (95%CI 0.41-1.20) p=0.191 |
プラセボ | 24 | 7.0ヶ月 | 3.4-9.4 | ||
KRAS変異型 | TAS-102 | 45 | 13.0ヶ月 | 8.6-14.3 | HR 0.44 (95%CI 0.25-0.80) p=0.0056 |
プラセボ | 26 | 6.9ヶ月 | 5.2-8.6 |
8 無増悪生存期間(KRAS status別)
n | 中央値 | 95%信頼区間 | HR,p値 | ||
---|---|---|---|---|---|
KRAS野生型 | TAS-102 | 54 | 1.9ヶ月 | 1.1-2.8 | HR 0.40 (95%CI 0.23-0.69) p=0.0004 |
プラセボ | 24 | 1.0ヶ月 | 1.0-1.1 | ||
KRAS変異型 | TAS-102 | 45 | 2.8ヶ月 | 1.9-4.7 | HR 0.34 (95%CI 0.19-0.61) P<0.0001 |
プラセボ | 26 | 1.0ヶ月 | 1.0-1.2 |
結語
標準治療に不応・不耐となった遠隔転移を有する大腸癌患者においてTAS-102は有効で、毒性も管理可能であった。
執筆:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 レジデント 伏木 邦博 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 治験管理室 部長、消化器内科 医長 山﨑 健太郎 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 治験管理室 部長、消化器内科 医長 山﨑 健太郎 先生