試験名 :ROLARR
レジメン:直腸切除術に対する腹腔鏡手術 vs ロボット支援下手術
登録期間:2011年1月~2014年9月
背景
一方で、ロボット支援下手術は3Dカメラ、多関節鉗子、カメラの固定化などにより、腹腔鏡手術の欠点を克服できる可能性がある。メタアナリシスではロボット支援下手術の腹腔鏡手術に対する優越性は証明できなかった。しかしながら、小規模試験では直腸癌手術に対するロボット支援下手術の有用性が報告されており、開腹手術への移行、膀胱及び性機能の温存では有用であるとも言われている。
今回、多施設・国際無作為比較試験を行い、腹腔鏡手術とロボット支援下手術の開腹手術への移行のリスクについて検討を行った。本論文では術後半年の短期成績について報告された。
シェーマ
対象患者および評価方法:
- 対象患者:肛門縁から15cm以内の直腸癌患者
- 手術方法:高位前方切除術、低位前方切除術、腹会陰式直腸切断術のいずれか
- 術者:30例以上の低侵襲手術(腹腔鏡手術、ロボット支援下手術)を経験したもの。いずれも10例以上の経験が必要である。
- ロボット支援下手術:ロボット支援下手術ではmesorectal resectionを行わなければならない。
- 評価方法:
- 術後6か月の膀胱機能評価⇒I-PSS (International Prostate Symptom Score)
- 術後6か月の性機能評価⇒IIEF (International Index of Erectile Function)、FSFI (Female Sexual Function Index)
- 病理評価:Royal College of Pathologists. Dataset for colorectal cancer histopathology reports (3rd edition)に基づいた評価
統計学的事項
主要評価項目:開腹手術への移行率
MRC CLASSICC Trialにて腹腔鏡手術の開腹手術への移行率は34%、手術主義の向上により25%に軽減されたと報告されている。この結果により、本試験では腹腔鏡手術の開腹手術への移行率は25%、ロボット支援下手術において12.5%-16%にまで軽減すると仮定した。検出力80%、両側α=0.05、として、400例の登録が必要とされた。副次評価項目:
- 病理学的CRM (circumferential resection margin) 陽性率:(CRM+; defined as tumor ≤1 mm)
- 周術期合併症、術後合併症(術後30日、半年)
- 術後30日の生存
- 患者評価による膀胱機能、性機能
- pathological assessment of the quality of the plane of surgery. Quality of the plane of surgery was judged according to the method of Quirke and Dixon,20 grading the pathology specimen in terms of completeness of surgical resection.
試験結果:
2011年1月から2014年9月までの間に、英国(131例)、イタリア(105例)、デンマーク(92例)、米国(59例)、フィンランド(35例)、韓国(18例)、ドイツ(16例)、フランス(11例)、オーストラリア(2例)、シンガポール(2例)から計471例の登録があった。
腹腔鏡手術群は234例、ロボット支援下手術群は237例に割付され、各群の患者背景に違いはなかった(表1)。このうち、手術になった症例は466例であった。
表1. 患者背景
因子 | 腹腔鏡手術群 (n=234) |
ロボット支援下手術群 (n=237) |
---|---|---|
Baseline | ||
平均年齢 (SD) | 65.5 (11.93) | 64.4 (10.98) |
ASA分類 I:良好 II:軽度の疾患 III:高度の疾患 IV:生命を脅かす疾患 データなし |
52 (12.2) 124 (53.0) 52 (22.2) 1 (0.4) 5 (2.1) |
39 (16.5) 150 (63.3) 46 (19.4) 0 2 (0.8) |
性別 男性 女性 |
159 (67.9) 75 (32.1) |
161 (67.9) 76 (32.1) |
BMI 痩せー正常, 0-24.9 過体重, 25.0-29.9 肥満, ≧30.0 Class I, 30.0-34.9 Class II, 35.0-39.9 Class III, ≧40.0 |
87 (37.2) 92 (39.3) 55 (23.5) 38 (16.2) 10 (4.3) 7 (3.0) |
93 (39.2) 90 (38.0) 54 (22.8) 41 (17.3) 9 (3.8) 4 (1.7) |
術前放射線療法、薬物療法 あり なし データなし |
108 (46.2) 126 (53.8) 14 (5.9) |
111 (46.8) 126 (53.2) 6 (2.5) |
予定手術 高位前方切除術 低位前方切除術 腹会陰式直腸切断術 |
34 (14.5) 158 (67.5) 42 (17.9) |
35 (14.8) 159 (67.1) 43 (18.1) |
手術施行例 | (n=230) | (n=236) |
---|---|---|
施行手術 高位前方切除術 低位前方切除術 腹会陰式直腸切断術 そのほか |
19 (8.3) 165 (71.7) 45 (19.6) 1 (0.4) |
28 (11.9) 152 (64.4) 52 (22.0) 4 (1.7) |
肛門縁からの腫瘍の部位 11-15 6-10 0-5 データなし |
69 (30.0) 99 (43.0) 61 (26.5) 1 (0.4) |
71 (30.1) 107 (45.3) 57 (24.2) 1 (0.4) |
平均手術時間 (分、SD) | 261.0 (83.24) | 298.5 (88.71) |
人工肛門造設 一時的 永久的 なし |
157 (68.3) 49 (21.3) 24 (10.4) |
142 (60.2) 53 (22.5) 41 (17.4) |
入院期間 (日、SD) | 8.2 (6.03) | 8.0 (5.85) |
病理学的因子 | 腹腔鏡手術群 (n=230) |
ロボット支援下手術群 (n=236) |
---|---|---|
T stage 0 1 2 3 4 データなし |
24 (10.4) 20 (8.7) 61 (26.5) 114 (49.6) 8 (3.5) 3 (1.3) |
22 (9.3) 24 (10.2) 64 (27.1) 117 (49.6) 5 (2.1) 4 81.7) |
N stage 0 1 2 データなし |
150 (65.2) 58 (25.2) 21 (9.1) 1 (0.4) |
146 (61.9) 63 (26.7) 25 (10.6) 2 (0.8) |
平均リンパ節郭清個数 (SD) | 24.1 (12.91) | 23.2 (11.97) |
1.主解析の開腹手術への移行率は手術が行われた466例で実施された(表2)。
表2.主要評価項目
因子 | 開腹手術への移行数 | オッズ比 (95%CI) | P-値 |
---|---|---|---|
手術 腹腔鏡手術 ロボット支援下手術群 |
28/230 (12.2) 19/236 (8.1) |
0.61 (0.31 - 1.21) |
0.16 |
性別 男性 女性 |
39/317 (12.3) 8/149 (5.4) |
2.44 (1.05 - 5.71) |
0.04 |
BMI, 過体重 vs 痩せ-正常 痩せ-正常 過体重 |
13/179 (7.3) 9/180 (5.0) |
0.54 (0.21 - 1.37) |
0.19 |
BMI, 肥満 vs 痩せ-正常 痩せ-正常 肥満 |
13/179 (7.3) 25/107 823.4) |
4.69 (2.08 - 10.58) |
<0.001 |
術前放射線療法、薬物療法 なし あり |
27/262 (10.3) 20/204 (9.8) |
1.07 (0.50 - 2.26) |
0.86 |
予定手術 低位前方切除術 高位前方切除術 |
37/312 (11.9) 6/68 (8.8) |
0.55 (0.19 - 1.56) |
0.26 |
予定手術 低位前方切除術 腹会陰式直腸切断術 |
37/312 (11.9) 4/86 (4.7) |
0.18 (0.05 - 0.63) |
0.007 |