直腸癌 ROLARR

Effect of Robotic-Assisted vs Conventional Laparoscopic Surgery on Risk of Conversion to Open Laparotomy Among Patients Undergoing Resection for Rectal Cancer The ROLARR Randomized Clinical Trial

David Jayne, MD1; Alessio Pigazzi, PhD et al. JAMA. 2017;318(16):1569-1580.doi:10.1001/jama.2017.7219 [PubMed]

試験名 :ROLARR

レジメン:直腸切除術に対する腹腔鏡手術 vs ロボット支援下手術

登録期間:2011年1月~2014年9月

背景

結腸癌に対する腹腔鏡手術の有用性は確立されているが、直腸癌に対する腹腔鏡下手術についてはいまだ不透明な部分が多い。COLOR II study (NEJM, 2015)やCOREAN study (Lancet Oncol, 2014)では直腸癌に対する腹腔鏡手術の有用性が報告されたが、ALaCaRT study (JAMA, 2015)やACOSOG Z6051 study (JAMA, 2015)では腹腔鏡手術の開腹手術に対する非劣勢を証明できなかった。
一方で、ロボット支援下手術は3Dカメラ、多関節鉗子、カメラの固定化などにより、腹腔鏡手術の欠点を克服できる可能性がある。メタアナリシスではロボット支援下手術の腹腔鏡手術に対する優越性は証明できなかった。しかしながら、小規模試験では直腸癌手術に対するロボット支援下手術の有用性が報告されており、開腹手術への移行、膀胱及び性機能の温存では有用であるとも言われている。
今回、多施設・国際無作為比較試験を行い、腹腔鏡手術とロボット支援下手術の開腹手術への移行のリスクについて検討を行った。本論文では術後半年の短期成績について報告された。

シェーマ

対象患者および評価方法:

  1. 対象患者:肛門縁から15cm以内の直腸癌患者
  2. 手術方法:高位前方切除術、低位前方切除術、腹会陰式直腸切断術のいずれか
  3. 術者:30例以上の低侵襲手術(腹腔鏡手術、ロボット支援下手術)を経験したもの。いずれも10例以上の経験が必要である。
  4. ロボット支援下手術:ロボット支援下手術ではmesorectal resectionを行わなければならない。
  5. 評価方法:
    • 術後6か月の膀胱機能評価⇒I-PSS (International Prostate Symptom Score)
    • 術後6か月の性機能評価⇒IIEF (International Index of Erectile Function)、FSFI (Female Sexual Function Index)
    • 病理評価:Royal College of Pathologists. Dataset for colorectal cancer histopathology reports (3rd edition)に基づいた評価

統計学的事項

主要評価項目:開腹手術への移行率

MRC CLASSICC Trialにて腹腔鏡手術の開腹手術への移行率は34%、手術主義の向上により25%に軽減されたと報告されている。この結果により、本試験では腹腔鏡手術の開腹手術への移行率は25%、ロボット支援下手術において12.5%-16%にまで軽減すると仮定した。検出力80%、両側α=0.05、として、400例の登録が必要とされた。

副次評価項目:

  1. 病理学的CRM (circumferential resection margin) 陽性率:(CRM+; defined as tumor ≤1 mm)
  2. 周術期合併症、術後合併症(術後30日、半年)
  3. 術後30日の生存
  4. 患者評価による膀胱機能、性機能
  5. pathological assessment of the quality of the plane of surgery. Quality of the plane of surgery was judged according to the method of Quirke and Dixon,20 grading the pathology specimen in terms of completeness of surgical resection.

試験結果:

2011年1月から2014年9月までの間に、英国(131例)、イタリア(105例)、デンマーク(92例)、米国(59例)、フィンランド(35例)、韓国(18例)、ドイツ(16例)、フランス(11例)、オーストラリア(2例)、シンガポール(2例)から計471例の登録があった。
腹腔鏡手術群は234例、ロボット支援下手術群は237例に割付され、各群の患者背景に違いはなかった(表1)。このうち、手術になった症例は466例であった。

表1. 患者背景
因子 腹腔鏡手術群
(n=234)
ロボット支援下手術群
(n=237)
Baseline    
平均年齢 (SD) 65.5 (11.93) 64.4 (10.98)
ASA分類
 I:良好
 II:軽度の疾患
 III:高度の疾患
 IV:生命を脅かす疾患
 データなし
 
52 (12.2)
124 (53.0)
52 (22.2)
1 (0.4)
5 (2.1)
 
39 (16.5)
150 (63.3)
46 (19.4)
0
2 (0.8)
性別
 男性
 女性
 
159 (67.9)
75 (32.1)
 
161 (67.9)
76 (32.1)
BMI
 痩せー正常, 0-24.9
 過体重, 25.0-29.9
 肥満, ≧30.0
  Class I, 30.0-34.9
  Class II, 35.0-39.9
  Class III, ≧40.0
 
87 (37.2)
92 (39.3)
55 (23.5)
38 (16.2)
10 (4.3)
7 (3.0)
 
93 (39.2)
90 (38.0)
54 (22.8)
41 (17.3)
9 (3.8)
4 (1.7)
術前放射線療法、薬物療法
 あり
 なし
 データなし
 
108 (46.2)
126 (53.8)
14 (5.9)
 
111 (46.8)
126 (53.2)
6 (2.5)
予定手術
 高位前方切除術
 低位前方切除術
 腹会陰式直腸切断術
 
34 (14.5)
158 (67.5)
42 (17.9)
 
35 (14.8)
159 (67.1)
43 (18.1)
手術施行例 (n=230)    (n=236)   
施行手術
 高位前方切除術
 低位前方切除術
 腹会陰式直腸切断術
 そのほか
 
19 (8.3)
165 (71.7)
45 (19.6)
1 (0.4)
 
28 (11.9)
152 (64.4)
52 (22.0)
4 (1.7)
肛門縁からの腫瘍の部位
 11-15
 6-10
 0-5
 データなし
 
69 (30.0)
99 (43.0)
61 (26.5)
1 (0.4)
 
71 (30.1)
107 (45.3)
57 (24.2)
1 (0.4)
平均手術時間 (分、SD) 261.0 (83.24) 298.5 (88.71)
人工肛門造設
 一時的
 永久的
 なし
 
157 (68.3)
49 (21.3)
24 (10.4)
 
142 (60.2)
53 (22.5)
41 (17.4)
入院期間 (日、SD) 8.2 (6.03) 8.0 (5.85)
病理学的因子 腹腔鏡手術群
(n=230)
ロボット支援下手術群
(n=236)
T stage
 0
 1
 2
 3
 4
 データなし
 
24 (10.4)
20 (8.7)
61 (26.5)
114 (49.6)
8 (3.5)
3 (1.3)
 
22 (9.3)
24 (10.2)
64 (27.1)
117 (49.6)
5 (2.1)
4 81.7)
N stage
 0
 1
 2
 データなし
 
150 (65.2)
58 (25.2)
21 (9.1)
1 (0.4)
 
146 (61.9)
63 (26.7)
25 (10.6)
2 (0.8)
平均リンパ節郭清個数 (SD) 24.1 (12.91) 23.2 (11.97)

1.主解析の開腹手術への移行率は手術が行われた466例で実施された(表2)。

表2.主要評価項目
因子 開腹手術への移行数 オッズ比 (95%CI) P-値
手術
 腹腔鏡手術
 ロボット支援下手術群
 
28/230 (12.2)
19/236 (8.1)
 
0.61 (0.31 - 1.21)
 
0.16
性別
 男性
 女性
 
39/317 (12.3)
8/149 (5.4)
 
2.44 (1.05 - 5.71)
 
0.04
BMI, 過体重 vs 痩せ-正常
 痩せ-正常
 過体重
 
13/179 (7.3)
9/180 (5.0)
 
0.54 (0.21 - 1.37)
 
0.19
BMI, 肥満 vs 痩せ-正常
 痩せ-正常
 肥満
 
13/179 (7.3)
25/107 823.4)
 
4.69 (2.08 - 10.58)
 
<0.001
術前放射線療法、薬物療法
 なし
 あり
 
27/262 (10.3)
20/204 (9.8)
 
1.07 (0.50 - 2.26)
 
0.86
予定手術
 低位前方切除術
 高位前方切除術
 
37/312 (11.9)
6/68 (8.8)
 
0.55 (0.19 - 1.56)
 
0.26
予定手術
 低位前方切除術
 腹会陰式直腸切断術
 
37/312 (11.9)
4/86 (4.7)
 
0.18 (0.05 - 0.63)
 
0.007

開腹手術への移行は466例中47例に行われた。腹腔鏡手術群では230例中28例(12.2%)であり、ロボット支援下手術群では236例中19例(8.1%)であり、統計学的な有意差は認められなかった(OR = 0.61 [95%CI, 0.3-1.21]; P=0.16)。そのほかの因子で検討すると、肥満患者(OR = 4.69 [95% CI, 2.08-10.58]; P<0.001)、男性(OR = 2.44 [95% CI, 1.05-5.71]; P=0.04)が開腹手術への移行に有意な因子であった。

2. 副次評価項目(表3)

表3.副次評価項目
評価項目 腹腔鏡手術群 ロボット支援下手術群 オッズ比 (95%CI) P-値
CRM陽性 14/224 (6.3) 12/235 (5.1) 0.78 (0.35 – 1.76) 0.56
周術期合併症 34/230 (14.8) 36/236 (15.3) 1.02 (0.60 – 1.74) 0.94
術後30日以内の合併症 73/230 (31.7) 78/236 (33.1) 1.04 (0.69 – 1.58 0.84
術後半年間の合併症 38/230 (16.5) 34/236 (14.4) 0.72 (0.41 – 1.26) 0.25
術後30日以内の死亡 2/230 (0.9) 2/236 (0.8) NA NA
  1. 病理学的CRM:手術に至った466例のうち、459例において病理学的評価が行われた。26例(5.7%)がCRM陽性であった。腹腔鏡手術群では224例中14例(6.2%) がCRM陽性であり、ロボット支援下手術群では235例中12例(5.1%)がCRM陽性であった。両群に統計学的な有意差は認められなかった(OR = 0.78 [95% CI, 0.35-1.76]; P=0.56)。
  2. 合併症:両群において周術期合併症および、術後30日、半年間の合併症発生率には差は認められなかった。
  3. 術後30日の生存:手術が行われた466例のうち、術後30日以内の死亡は4例であった(各群2例ずつ)。
  4. 膀胱機能、性機能:図1にあるように、膀胱機能、性機能に関しては両群に有意差は認められなかった。
膀胱機能、性機能評価:図1

本解析結果は2015年7月16日のデータに基づいたものである。

結語
治癒切除が期待できる直腸癌患者においては腹腔鏡手術に比べてロボット支援下手術は開腹手術への移行のリスクを軽減することはなかった。多くの経験を持つ外科医がロボット支援下手術を行ったとしても、直腸癌手術において、ロボット支援下手術はメリットをもたらすことはない。
執筆:九州大学大学院 消化器・総合外科診療 併任講師 安藤 幸滋 先生
監修:九州大学大学院 消化器・総合外科診療 准教授 沖 英次 先生

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