対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
局所進行食道癌 (T1N1 or T2-3N0-1) |
術前補助化学放射線療法 | 第3相 | 全生存期間 | 国際 | なし |
試験名 :CROSS
レジメン:術前化学放射線療法(カルボプラチン+パクリタキセル+放射線照射)+手術 vs 手術単独
登録期間:2004年3月〜2008年12月
背景
術前に十分な病期診断を行っているにもかかわらず、外科的切除を受けた食道癌症例の25%で顕微鏡的遺残(R1)を認め、5年生存割合が50%を超えるのは稀である。
術前補助化学放射線療法については数十年にわたり議論されてきたが、大部分の無作為化比較試験では生存延長を示すことができなかった。メタ解析では術前補助化学放射線療法によって術後合併症や死亡の発生割合が上昇する一方で生存期間の延長が示唆された。
筆者らは過去にカルボプラチン+パクリタキセル併用による術前補助化学放射線療法に関する第2相試験を実施し、良好な有効性と安全性を報告しており、本試験は根治切除可能な食道 or 食道胃接合部癌症例を対象に、手術単独と術前補助化学放射線療法+手術を比較する第3相試験として実施された。
術前補助化学放射線療法については数十年にわたり議論されてきたが、大部分の無作為化比較試験では生存延長を示すことができなかった。メタ解析では術前補助化学放射線療法によって術後合併症や死亡の発生割合が上昇する一方で生存期間の延長が示唆された。
筆者らは過去にカルボプラチン+パクリタキセル併用による術前補助化学放射線療法に関する第2相試験を実施し、良好な有効性と安全性を報告しており、本試験は根治切除可能な食道 or 食道胃接合部癌症例を対象に、手術単独と術前補助化学放射線療法+手術を比較する第3相試験として実施された。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間
手術単独群の生存期間中央値を16ヶ月、術前補助化学放射線療法群の生存期間中央値を22ヶ月と想定し、両側α=0.05、検出力80%として検出するために各群175症例が必要と算出された。試験結果:
- 2004年3月から2008年12月の間に368例が登録され、180例が術前補助化学放射線療法群に、188例が手術単独群に割り付けられた。術前補助化学放射線療法群のうち2例は同意撤回となり、解析から除外された。
N | 登録例 | 解析対象 | 化学放射線療法実施 | 手術施行 | 原発切除 |
---|---|---|---|---|---|
術前補助化学放射線療法 | 180 | 178 | 171 | 168 | 161 |
手術単独 | 188 | 188 | ー | 186 | 161 |
1. 患者背景
- 患者背景は両群間でバランスがとれていた。
- 主な組織型は腺癌であり(275/366, 75%)、腫瘍径の中央値は4cm、主たる腫瘍局在は遠位食道(211/366, 58%)、食道胃接合部(88/366, 24%)であった。
- 超音波内視鏡検査でのリンパ節転移陽性例:術前補助化学放射線療法群 116例(65%)/手術単独群 120例(64%)
2. 全生存期間(主要評価項目)
- 登録症例の観察期間中央値は45.5ヶ月(範囲:25.5-80.9)であった。
中央値 | 1年生存割合 | 2年生存割合 | 3年生存割合 | 5年生存割合 | |
---|---|---|---|---|---|
術前補助化学放射線療法 | 49.4ヶ月 | 82% | 67% | 58% | 47% |
手術単独 | 24.0ヶ月 | 70% | 50% | 44% | 34% |
HR 0.657 (95%C.I. 0.495-0.871), p=0.003
- 背景予後因子で調整しても同様の有効性であった(HR 0.665, 95%C.I. 0.500-0.884)。
- 原発切除が施行され、退院後に死亡した症例数 (p=0.14)
・術前補助化学放射線療法群:61例
再発 52例(85%) 、他病死 9例(15%)(敗血症 2例/心不全 2例/呼吸不全 2例/腎不全 1例/他癌死 1例/術後食道気管瘻の再建手術関連死亡 1例)
・手術単独群:83例
再発 78例(94%)、他病死 4例(5%)(心不全 2例/呼吸不全 1例/塞栓症 1例)、死因不明 1例 - 腺癌、扁平上皮癌共に、手術単独群に比して術前補助化学放射線療法群で生存期間の有意な延長を示した(p=0.049, p=0.011)。
3. 無再発生存期間
中央値 | HR 0.498 (95%C.I. 0.357-0.693) p<0.001 |
|
術前補助化学放射線療法 | 未到達 | |
手術単独 | 24.2ヶ月 |
4. 化学放射線療法の投与状況
- 178例の解析対象者中、7例は化学放射線療法を受けなかった(治療開始前の病勢進行 5例、患者の辞退 2例)。
- 化学療法(5サイクル)の完遂:162例(91%)、放射線照射の完遂:164例(92%)
- 2例(1%)は高線量の放射線照射(45.0-54.0Gy)を受けた。
- 化学療法を完遂できなかった最多の理由は血小板数減少であった。
5. 化学放射線療法の有害事象(CTCAE ver.3.0)
N (%) | 全Grade | Grade 3以上 |
---|---|---|
食欲不振 | 51 (30) | 9 (5) |
便秘 | 47 (27) | 1 (1) |
下痢 | 30 (18) | 2 (1) |
食道穿孔 | 1 (1) | 1 (1) |
食道炎 | 32 (19) | 2 (1) |
疲労 | 115 (67) | 5 (3) |
悪心 | 91 (53) | 2 (1) |
嘔吐 | 43 (25) | 1 (1) |
白血球減少 | 103 (60) | 11 (6) |
好中球数減少 | 16 (9) | 4 (2) |
血小板数減少 | 92 (54) | 1 (1) |
- 術前補助化学放射線療法群の171例中12例(7%)にGrade 3以上の血液毒性を来たし、1例にGrade 4の発熱性好中球減少症を生じた。
- 1例が化学放射線療法後の手術待機中に血小板数減少のない大量出血を伴う食道穿孔により死亡した。
- その他の非血液毒性の有害事象でGrade 3以上のものは13%未満であった。
6. 手術と術後合併症
N (%) | 術前補助化学放射線療法 (n=168) |
手術単独 (n=186) |
---|---|---|
呼吸器合併症 | 78 (46) | 82 (44) |
循環器合併症 | 36 (21) | 31 (17) |
乳び胸 | 17 (10) | 11 (6) |
縦隔炎 | 5 (3) | 12 (6) |
縫合不全(原発切除例を対象) | 36/161 (22) | 48/161 (30) |
在院死 | 6 (4) | 8 (4) |
30日以内の死亡 | 4 (2) | 5 (3) |
- 手術を施行された症例:術前補助化学放射線療法群 168例(94%)、手術単独群 186例(99%):p=0.01
- 手術が施行されなかった理由:患者の判断(術前補助化学放射線療法 2例)、治療中の病勢進行(術前補助化学放射線療法 7例/手術単独 1例)、手術前の他臓器癌(手術単独 1例)、化学放射線療法の有害事象により手術前死亡 1例
- 無作為化から手術までの期間中央値:術前補助化学放射線療法群 97日/手術単独群 24日
- 化学放射線療法終了から手術までの期間中央値:6.6週(4分位範囲 5.7-7.9)
- 術中所見で原発巣またはリンパ節転移が切除不能と診断:術前補助化学放射線療法群 7例(4%)/手術単独群 25例(13%):p=0.002
- 術後合併症は両群間で統計学的有意差を認めなかった。
- 在院死:術前補助化学放射線療法群 6例(4%)/手術単独群 8例(4%):p=0.70
- 術後30日以内死亡:術後補助化学放射線療法群 4例(2%)/手術単独群 5例(3%) :p=0.85
7. 病理組織学的評価 (原発切除例)
N (%) | 術前補助化学放射線療法 (n=161) |
手術単独 (n=161) |
p値 |
---|---|---|---|
R0切除 | 148 (92) | 111 (69) | <0.001 |
病理学的完全奏効 | 47 (29) | ー | |
リンパ節郭清個数中央値 | 15個 | 18個 | 0.77 |
病理学的リンパ節転移陽性 | 50 (31) | 120 (75) | <0.001 |
- 病理学的完全奏効割合:腺癌 23%(28/121)、扁平上皮癌 49%(18/37):p=0.008
結語
術前補助化学放射線療法は安全に施行でき、切除可能食道/食道胃接合部癌の生存期間を有意に改善した。
執筆:九州大学大学院 消化器・総合外科 助教 中島 雄一郎 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生