食道癌 (FP-RT)

Phase II study of concurrent chemoradiotherapy at the dose of 50.4 Gy with elective nodal irradiation for Stage II-III esophageal carcinoma.

Kato K, Nakajima TE, Ito Y, et al. Jpn J Clin Oncol. 2013 Jun;43(6):608-15. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
局所進行食道癌
(cStage II-III, T4除く)
一次治療 第2相 1年生存割合 国内 あり

試験名 :(FP-RT)

レジメン:5-FU+シスプラチン+放射線照射(50.4Gy)

登録期間:2006年6月〜2008年5月

背景

本邦における局所進行食道扁平上皮癌(cStage II, III)に対する標準治療は、術前補助化学療法後の3領域郭清を伴う食道切除術であり、5年生存割合は36.8-61%で手術関連死亡は3-5%と報告されている。
化学放射線療法も食道癌に対する根治目的の治療法であり、cStage II, IIIの食道癌を対象に5-FU+シスプラチン+放射線照射(60Gy)の有効性と安全性を検証したJCOG9906試験では、完全寛解割合(CR割合) 36.8%、5年生存割合 62.2%と良好な成績を示した一方、高線量照射・広い放射線照射範囲に起因した晩期毒性による治療関連死亡が5.3%に認められた。放射線照射量に関しては、64.8Gyの高線量照射と50.4Gyの標準線量照射を比較するRTOG9405試験が実施されたが、高線量照射の有効性は示されず、強い毒性を示した。
これらの歴史的背景から、標準線量におけるRTOGレジメンはJCOG9906レジメンの弱点を克服することが期待され、本邦における第I相試験が実施された。その結果、化学療法の推奨用量は、5-FU(1000mg/m2:Day 1-4, 29-32)+シスプラチン(75mg/m2:Day 1, 29)で、放射線照射線量は50.4Gy(41.4Gy:所属リンパ節に対する予防照射を含む→9Gy:原発巣, 転移リンパ節へのブースト照射)と決定された。よって、日本人食道癌患者に対するRTOGレジメンに準じた化学放射線療法の有効性と安全性を評価するために本試験が実施された。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:1年生存割合

JCOG9906試験の結果(1年/3年生存割合 73/46%)を基に、1年生存割合はおよそ75%と仮定され、1年生存割合の80%信頼区間から閾値1年生存割合 65%、期待1年生存割合85%と設定され、50人の登録が必要とされた。

試験結果:

  • 2006年6月から2008年5月までの間に51例が登録された。
1. 患者背景
  • 年齢中央値 64歳(範囲 42-70), 男女比 45:6, ECOG PS 0/1 32/19, 扁平上皮癌/腺扁平上皮癌 50:1
  • 臨床病期:IIA/IIB/III 9:20:22, 深達度 T1/2/3 15/8/28, リンパ節転移 N0/1 9/42
2. 投与状況
  • 51例中、34例(67%)で化学放射線療法と、その後の5-FU+シスプラチン 2サイクルを完遂した。
  • 2サイクルの化学放射線療法を受けた49例中、主に血液毒性を理由に7例で2サイクル目の開始延期、12例で2サイクル目の減量を要した。
  • 化学放射線療法完遂後、10例がプロトコール治療中止となった(病勢進行 n=3, 有害事象 n=6, 有害事象に関連しない患者拒否 n=1)。
  • 49例で50.4Gyの放射線照射を完了したが、病勢進行・感染症併発の2例は放射線照射を完遂できなかった。
3. 全生存期間 (死亡イベント n=20)
  N 1年生存割合
(主要評価項目)
80%信頼区間 3年生存割合 80%信頼区間
全体 51 88.2% 81.0-92.9 63.8% 54.3-71.8
cStage II
cStage III
29
22
96.6%
77.3%
-
-
78.3%
44.6%
-
-
4. 完全寛解割合 (CR割合)
  N 完全寛解例 完全寛解割合 80%信頼区間
全体 51 36 70.6% 58.3-84.1
cStage II
cStage III
29
22
-
-
89.7%
45.5%
-
-
5. 無増悪生存期間
  N 1年無増悪生存割合 80%信頼区間 3年無増悪生存割合 80%信頼区間
全体 51 66.7% 57.0-74.0 56.6% 47.1-64.9
6. 有害事象

 ・治療関連死亡は認めなかった。

N=51 CTCAE Ver.3.0
  Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 ≥Grade 3 (%)
白血球減少 1 7 38 4 82.3
好中球数減少 3 7 29 11 78.4
貧血 8 31 10 2 23.5
血小板数減少 23 13 9 1 19.6
食道炎 6 17 18 0 35
嚥下障害 14 10 16 0 31
食欲不振 6 17 23 0 45
悪心 19 18 6 - 12
嘔吐 9 11 3 0 6
下痢 9 1 0 0 0
口内炎/咽頭炎 13 7 2 0 4
発熱性好中球減少症 - - 10 0 20
低ナトリウム血症 37 - 8 0 16
クレアチニン上昇 26 9 1 0 2
7. 晩期毒性
N=51 CTCAE Ver.3.0
  Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 ≥Grade 3 (%)
胸水貯留(非悪性) 6 1 0 0 0
食道関連事象
(嚥下障害、狭窄、瘻孔形成)
6 9 2 0 3.9
心嚢水貯留 5 1 0 0 0
肺炎 26 0 3 0 5.9
消化管出血 0 0 1 0 2.0
8. 治療中止理由
  N
生存/残存・増悪なし
死亡/残存/増悪のいずか
27
24
53
47
他病死 2 4
遺残/増悪
 局所部位のみ
 遠隔転移を伴う
14
10
4
27
20
8
完全寛解(CR)後の再発
 局所再発のみ
 領域リンパ節再発のみ
 遠隔転移
8
2
2
4
16
4
4
8
局所/領域リンパ節の残存・増悪(計)  14 27
9. 救済療法を受けた症例の患者背景と経過
  • 病変が遺残した14例中、6例が救済手術を受けた。救済手術を受けなかった8例の内訳は、2名が患者拒否、6名が臓器機能不良のため救済手術不適、もしくは遠隔転移のためであった。
  • 完全寛解後に再発した8例中、1例が救済手術を、2例が内視鏡的粘膜切除術を、1例が両者を受けた。4例は遠隔転移や腫瘍浸潤のため、化学療法 and/or 放射線照射を受けた。
救済手術の詳細 N
男性/女性 7/1
年齢中央値 (範囲) 60 (49-70)
原発部位 (胸部上部/中部/下部) 1/4/3
cStage (IIA/IIB/III) 1/3/4
腫瘍残存/再発 6/2
手術根治度 (R0/R1+R2) 5/3
手術関連死 0
手術後再発 1
無再発 7
結語
予防照射を加えた50.4Gyの照射による化学放射線療法(RTOGレジメン)は管理可能な有害事象で、良好な有効性を示したため、cStage II/IIIの食道癌に対する非侵襲的な治療オプションになり得る。
執筆:独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 消化器内科 医師 長谷川 裕子先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生

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