食道癌 RTOG 85-01

Chemoradiotherapy of Locally Advanced Esophageal Cancer: Long-Term Follow-Up of a Prospective Randomized Trial (RTOG 85-01). Radiation Therapy Oncology Group

Cooper JS, Guo MD, Herskovic A, et al. JAMA. 1999 May;281(17):1623-7. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
局所進行胸部食道癌
(T1-3 N0-1 M0)
一次治療 第3相 全生存期間 国際 なし

試験名 :RTOG 85-01

レジメン:放射線単独 vs 化学放射線療法

登録期間:1986年1月〜1990年4月 (無作為化部分)

背景

1980年に報告されたレビューによると食道扁平上皮癌の外科的切除による5年生存割合はわずか4%と報告され、その後のレビューでは放射線療法による5年生存割合は外科的切除とほぼ同等の6%と報告された。
1980年代前半には、放射線照射と化学療法の併用に関する最初のエビデンスが報告され、シスプラチン+5-FU併用の化学放射線療法のいくつかのパイロット試験では生存期間中央値を13ヶ月まで延長した。
本試験は、1985年にRTOG (the Radiation Therapy Oncology Group)により遠隔転移を有さない胸部食道癌を対象として、放射線単独に対する化学放射線療法(+その後の補助化学療法)の優越性を検討する、前向きランダム化第3相試験として開始された。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:全生存期間

放射線単独群の2年生存割合10%に対し、化学放射線療法群の2年生存割合を30%と推定した。α=0.05、検出力90%、さらに10%の不適格例を考慮して、目標登録症例数は150例と算出された。
本試験では56例のデータが利用可能となった後に中間解析が予定された。中間解析で化学放射線療法群がp<0.005以上の差で生存改善を認めた場合、無作為化を中止し、全ての症例を化学放射線療法として登録する予定とした。

試験結果:

  • 1990年の中間解析で化学放射線療法群で中止基準を満たす有意な生存延長が得られたため、無作為化割付は中止となり、以後は全て化学放射線療法として登録が進められた。
  • 1986年1月から中間解析が実施された1990年4月までの間に129例が登録され、不適格例を除いた123例が無作為割り付けされた(放射線単独群 62例/化学放射線療法群 61例)。
  • 中間解析での無作為化中止後、化学放射線療法として73例が登録され、不適格例を除いた69例が解析対象となった。
1. 患者背景
  • 無作為割り付けされた2群間で患者背景はバランスがとれていた。
  • 非無作為化パートでは深達度 T2症例が比較的少なかったが統計学的な有意差は認めなかった。
2. 全生存期間(主要評価項目)
  生存期間中央値 5年生存割合 95%信頼区間 p値
無作為化パート
 放射線単独
 化学放射線療法

9.3ヶ月
14.1ヶ月

0%
26%

-
15-37


<0.001
非無作為化パート
 化学放射線療法

16.7ヶ月

14%

6-23

0.24
治療経過、年 放射線単独
生存者数(%)
化学放射線療法
生存者数(%)
  無作為化パート 無作為化パート 非無作為化パート
0 62 (100) 61 (100) 69 (100)
1 21 (34) 32 (52) 43 (62)
2 6 (10) 22 (36) 24 (35)
3 0 (0) 18 (30) 18 (26)
4 0 (0) 17 (30) 13 (19)
5 0 (0) 14 (26) 10 (14)
6 0 (0) 12 (22) 6 (10)
7 0 (0) 12 (22) 2 (6)
8 0 (0) 10 (22) -
9 0 (0) 4 (20) -
10 0 (0) 3 (20) -
総死亡数/症例数 62/62 48/61 65/69
  • 無作為化パートの化学放射線療法群における8年生存割合は22%、10年生存割合は20%を越えており、5年以降で食道癌による死亡は観察されなかった。
3. 組織型による生存期間 (化学放射線療法)
  • 腺癌と扁平上皮癌の組織型の間で化学放射線療法の治療成績に差を認めなかった(p=0.15)。
治療経過、年 腺癌 扁平上皮癌
  生存者数(%) 95%信頼区間(%) 生存者数(%) 95%信頼区間(%)
0 23 (100) - 107 (100) -
1 12 (52) 32-73 63 (59) 50-68
2 5 (22) 5-39 41 (38) 29-48
3 4 (17) 2-33 32 (30) 21-39
4 3 (13) 0-27 27 (26) 18-34
5 3 (13) 0-27 21 (21) 13-29
総死亡数/症例数
生存期間中央値
22/23
12.2ヶ月
91/107
16.9ヶ月
4. 初回イベント発現時の病変の局在
  • 各治療群で腫瘍の残存が各治療群における治療中止の最も多い理由であった。
中止理由 放射線治療単独
生存者数(%)
化学放射線療法
生存者数(%)
  無作為化パート 無作為化パート 非無作為化パート
イベントなし 0 (0) 13 (21) 4 (5)
腫瘍の残存 23 (37) 15 (25) 19 (28)
局所の再発 10 (16) 8 (13) 14 (20)
遠隔転移のみ出現 9 (15) 5 (8) 11 (16)
局所の増大かつ遠隔転移出現 9 (15) 5 (8) 7 (10)
死亡
 病変の同定なし
 その他
 不明

3 (5)
5 (8)
3 (5)

3 (5)
10 (16)
2 (3)

3 (4)
10 (15)
1 (1)
62 (100) 61 (100) 69 (100)
5. 局所病変の残存・再発
  放射線治療単独 化学放射線療法
  無作為化パート 無作為化パート 非無作為化パート
腫瘍の残存 23 15 19
局所の再発 12 11 15
35/54 26/56 34/65

3群間に有意差なし、p=0.11

6. 有害事象
  • 無作為化パートの化学放射線療法群で8%にGrade 4の有害事象(RTOG acute morbidity scale)が発生し、2%が死亡した(治療関連死亡)。一方、放射線単独群ではGrade 4の有害事象が2%に観察され、治療関連死亡は認めなかった。
  • 非無作為化パートの化学放射線療法群ではGrade 4の有害事象が4%に観察され、治療関連死亡は観察されなかった。
  • 治療開始後、90日以上経過すると、治療群間に有意な有害事象(late RTOG scare)の違いはなかった(下表)。
臓器 放射線治療単独 化学放射線療法
  無作為化パート 無作為化パート 非無作為化パート
Grade 3 4 5 3 4 5 3 4 5
食道 8 2 0 10 1 0 12 1 1
皮膚 0 0 0 0 0 0 0 0 0
0 0 0 1 0 0 0 0 0
咽頭 0 0 0 0 0 0 0 0 0
心臓 3 0 0 0 0 0 0 0 0
血液 0 0 0 2 1 0 4 1 0
中枢神経系 0 0 0 0 0 0 0 0 0
その他 1 0 0 0 0 0 2 0 1
症例数
(%)
10
(19)
2
(4)
0
(0)
13
(25)
2
(4)
0
(0)
15
(23)
2
(3)
1
(2)
結語
化学放射線療法はT1-3 N0-1 M0の食道癌(扁平上皮癌または腺癌)に対し、放射線単独療法と比較し、生存期間を延長することが示された。
執筆:九州大学大学院 消化器・総合外科 助教 中島 雄一郎 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志

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