肺癌 ALEX

Alectinib versus Crizotinib in Untreated ALK-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer.

Peters S, Camidge DR, Shaw AT, et al. N Engl J Med. 2017; 377(9): 829-38. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
非小細胞肺癌 一次治療 第3相 無増悪生存期間 国際 なし

試験名 :ALEX

レジメン:alectinib vs crizotinib

登録期間:2014年8月〜2016年1月

背景

非小細胞肺癌(NSCLC)の約5%はALK融合遺伝子を有する。ALK陽性NSCLCに対して最初に承認された分子標的治療薬のクリゾチニブは、化学療法と比較して高い抗腫瘍効果が示されているが、ALKの二次的な変異など様々なメカニズムで耐性化し、また、しばしば中枢神経(CNS)病変に対する制御が困難となる。アレクチニブは、クリゾチニブに対して抵抗をもたらす二次的なALK変異に対して活性を有する強力な新世代のALKチロシンキナーゼ阻害剤であり、また血中脳関門を透過して中枢神経系に浸透する薬剤で、前臨床試験と臨床試験の両方においてCNS病変に対して活性を示した。本試験は、前治療歴のないALK陽性進行期NSCLC患者(無症候性CNS転移を含む)を対象に、アレクチニブ(600 mg 1日2回投与)とクリゾチニブを比較した国際共同無作為化非盲検の第3相試験である。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:無増悪生存期間(PFS)

本試験はクリゾチニブ群を対照として、アレクチニブ群の無増悪生存期間(PFS)のハザード比が0.65となることを検証する優越性試験として設計された。約25ヶ月間に286人の患者を1:1の無作為化割り付けで非線形リクルートの形で登録する予定とし、検出力80%、両側α=0.05の設定で、170例のPFSイベントが必要と見込まれた。

試験結果:

  • 2014年8月〜2016年1月の期間に98施設より303例が登録され、アレクチニブ群には152例、クリゾチニブ群には151例が割り付けられた。
  • 患者背景の特徴は、中枢神経系転移の有無(アレクチニブ群42%、クリゾチニブ群38%)を含め、両群間で偏りは認められなかった。
  • 有効性解析のデータカットオフは2017年2月9日。フォローアップ期間中央値はアレクチニブ群が18.6ヶ月、クリゾチニブ群が17.6ヶ月であった。
  • フォローアップ期間に腫瘍の進行または死亡のイベントが発生したのは、アレクチニブ群では152例中62例(41%)、クリゾチニブ群では151例中102例(68%)であった。
1. 無増悪生存期間(主要評価項目)
  中央値 95%信頼区間(CI) HR 0.47     
(95%CI:0.34−0.65)
P<0.001     
アレクチニブ 未到達 17.7−NA
クリゾチニブ 11.1ヶ月 9.1−13.1

治験責任医師が評価した12カ月時点での無増悪生存割合はアレクチニブ群 68.4%[95%CI:61.0−75.0%]vs クリゾチニブ群48.7% [95%CI:40.4−56.9]で、アレクチニブ群の方がクリゾチニブ群よりも有意に高かった。

2. CNS病変の進行、ならびに12ヶ月時点での累積発症率
  CNS病変進行イベント数 累積発症率中央値 (95%CI)
アレクチニブ 18(12%) 9.4% (5.4−14.7%)
クリゾチニブ 68(45%) 41.4% (33.2−49.4%)

CNS病変の進行までの期間は、クリゾチニブ群よりもアレクチニブ群の方が有意に長い(ハザード比 0.16;95%CI、0.10−0.28;P<0.001)結果であった。
CNS病変の進行イベント数と累積発生率も、アレクチニブ群の方がクリゾチニブ群よりも低かった。

3. 奏効割合
  奏効割合 95%CI p=0.09
アレクチニブ 82.9% 76.0−88.5%
クリゾチニブ 75.5% 67.8−82.1%

アレクチニブの奏効期間の中央値は未到達(95%CI:未到達)、クリゾチニブは11.1ヶ月(95%CI:7.9−13.0)でHR 0.36(95%CI:0.24−0.53)であり、クリゾチニブ群よりもアレクチニブ群の方が有意に長かった。

4. CNS奏効割合
  CNS奏効割合 95%CI
アレクチニブ 81% 58−95%
クリゾチニブ 50% 28−72%

アレクチニブのCNS奏効期間の中央値は17.3ヶ月(95%CI:14.8−未到達)、クリゾチニブは5.5ヶ月(95%CI:2.1−17.3)であった。

5. 12ヶ月生存割合
  中央値 95%CI HR 0.76     
(95%CI:0.48−1.30)
P=0.24     
アレクチニブ 84.3% 78.4−90.2
クリゾチニブ 82.5% 76.1−88.9

データカットオフ時点で、全体75例(アレクチニブ群35例[23%]、クリゾチニブ群40例[26%])の死亡であり、全生存期間の中央値はいずれの群でも推定できなかった。

6. 有害事象(CTCAE ver4.0)
有害事象(AE) クリゾチニブ(N=151) アレクチニブ(N=152)
  全Grade Grade 3-5 全Grade Grade 3-5
全有害事象 146(97%) 76(50%) 147(97%) 63(41%)
重篤な有害事象(SAE)   44(29%)   43(28%)
死亡につながったAE   7(5%)   5 (3%)
治療中止につながったAE 19(13%) No data 17(11%) No data
減量につながったAE 31(21%) No data 24(16%) No data
治療中断につながったAE 38(25%) No data 29(19%) No data
有害事象の詳細        
嘔気 72(48%) 5(3%) 21(14%) 1(1%)
下痢 68(45%) 3(2%) 18(12%) 0
嘔吐 58(38%) 5(3%) 11(7%) 0
ALT値の上昇 45(30%) 22(15%) 23(14%) 7(5%)
AST値の上昇 37(25%) 16(11%) 21(15%) 8(5%)
血中ビリルビン値の上昇 2(1%) 0 23(15%) 3(2%)
体重増加 0 0 15(10%) 1(1%)
ΓGTP値の上昇 10(7%) 2(1%) 1(1%) 1(1%)
末梢浮腫 42(28%) 1(1%) 26(17%) 0
めまい 21(14%) 0 12(8%) 0
味覚異常 29(19%) 0 4(3%) 0
視覚異常 18(12%) 0 2(1%) 0
目のかすみ 11(7%) 0 3(2%) 0
光視症 9(6%) 0 0 0
筋痛 3(2%) 0 24(16%) 0
筋骨格痛 3(2%) 0 11(7%) 0
貧血 7(5%) 1(1%) 30(20%) 7(5%)
脱毛 11(7%) 0 1(1%) 0
光線過敏 0 0 8(5%) 1(1%)
皮疹 14(9%) 0 17(11%) 1(1%)
心電図でのQT延長 No data 8(5%) No data 0
肺動脈血栓塞栓症 No data 5(3%) No data 2(1%)
肺臓炎 No data 3(2%) No data 0
急性腎障害 No data 0 No data 4(3%)

グレード3~5の全有害事象は、アレクチニブ群では頻度が低かった。

7. PFSのサブグループ解析

年齢、性別、人種、ECOG-PS、脳転移の有無によらずアレクチニブが有効であった。
現喫煙者ではHR1.16(95%CI:0.35−3.90)、PS2の患者群ではHR0.74(0.25−2.15)という結果であったが、いずれも対象集団の人数が少ない(それぞれ17人、20人)ため、慎重な解釈を要する。

結語
ALK陽性NSCLCの一次治療において、アレクチニブはクリゾチニブよりも無増悪生存期間の延長を示し、毒性も低いことを示した。なお、本試験のアレクチニブ投与量は600mg/回×1日2回投与である。国内で行われたALK融合遺伝子陽性の日本人非小細胞肺癌患者を対象とした第3相無作為化比較試験(J-ALEX試験)におけるアレクチニブ投与量は300mg/回×1日2回投与であり、留意すべきである。
執筆:千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科 池田英樹 先生
監修:神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 池田 慧 先生

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