対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
非小細胞肺癌 | 一次治療 | 第3相 | 無増悪生存期間 | 国際 | あり |
試験名 :ARCHER 1050
レジメン:ダコミチニブ vs ゲフィチニブ
登録期間:2013年5月〜2015年3月
背景
進行非小細胞肺癌 (NSCLC)において、EGFR遺伝子変異を有する患者はEGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI)が有効である。
EGFRを選択的かつ可逆的に作用する第一世代EGFR-TKI (ゲフィチニブ(GEF)とエルロチニブ(ERL))と異なり、第二世代EGFR-TKIであるアファチニブ(AFA)やダコミチニブ(DAC)はErbB受容体ファミリーの全てのチロシンキナーゼを阻害する (EGFR、HER2、HER4。HER3はキナーゼ活性を有さない)。
進行NSCLCの1次治療としてDACの有効性を検討した単群第II相試験 (ARCHER1017試験)において、EGFR遺伝子変異陽性患者は奏効割合75.6%、無増悪生存期間 (PFS) 18.2ヶ月と良好な成績であった。そこで、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCを対象としてDACとGEFを比較する国際共同無作為化非盲検第III相試験であるARCHER1050試験が行われた。
EGFRを選択的かつ可逆的に作用する第一世代EGFR-TKI (ゲフィチニブ(GEF)とエルロチニブ(ERL))と異なり、第二世代EGFR-TKIであるアファチニブ(AFA)やダコミチニブ(DAC)はErbB受容体ファミリーの全てのチロシンキナーゼを阻害する (EGFR、HER2、HER4。HER3はキナーゼ活性を有さない)。
進行NSCLCの1次治療としてDACの有効性を検討した単群第II相試験 (ARCHER1017試験)において、EGFR遺伝子変異陽性患者は奏効割合75.6%、無増悪生存期間 (PFS) 18.2ヶ月と良好な成績であった。そこで、EGFR遺伝子変異陽性NSCLCを対象としてDACとGEFを比較する国際共同無作為化非盲検第III相試験であるARCHER1050試験が行われた。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:PFS(独立画像中央判定委員会 (IRC)による評価)
主な副次的評価項目: PFS(担当医による評価)、奏効割合、奏効期間、全生存期間 (OS)、安全性、患者報告アウトカム
本試験は、DAC群がGEF群と比較して、PFSが50%以上改善する (HR≦0.667)と仮定 (つまり、PFS中央値がGEF群9.5か月に対し、DAC群が14.3か月以上に改善すると仮定)し、αエラー0.025 (片側)において、検出力90%を確保するための必要症例数は両群合計で440例と設定された。試験結果:
- 2013年5月から2015年3月の間に452例が登録された。両群間で患者背景に偏りはなかった。
- 2016年7月29日のデータカットオフ時点で、IRC評価によるPFS中央値は,GEF群9.2か月に対し、DAC群は14.7か月であった。GEF群に対するDAC群のハザード比は0.59 (95%CI 0.47-0.74、P < 0.0001)で、PFSは有意に延長していた。治験担当医師の評価によるPFSはIRC評価によるPFSと一致していた。
- PFSのサブグループ解析においても、全体的にDAC群はGEF群と比較して良好なPFSであった。
- 奏効割合は両群で同様であった。
- 奏効期間はDAC群がGEF群より延長していた (14.8ヶ月 vs 8.3ヶ月、P < 0.0001)。
- 本試験のOSはデータカットオフ時点では未成熟であった。
- 最もよく見られたgrade 3-4の有害事象はざ瘡様皮疹 (DAC群 14% vs GEF群 0%)、下痢 (DAC群 8% vs GEF群 1%)、ALT増加 (DAC群 1% vs GEF群 8%)であった。治療関連死はDAC群で2例 (1例が未治療の下痢、1例が胆石症/肝障害)、GEF群で1例 (肺炎を合併したS状結腸憩室炎/破裂)に認めた。治療中止に至った症例はDAC群が10%、GEF群が7%であった。減量に至った症例はDAC群が66%、GEF群が8%であった。
- 患者報告アウトカムでは胸痛においてDAC群がGEF群より有意に改善を認め、その他の呼吸困難、咳嗽、腕や肩の疼痛などの症状の改善は両群間で同様であった。DAC群では下痢や口腔内痛の悪化はあるものの、QOLは維持されていた。
1. 無増悪生存期間(主要評価項目)
全症例 | 中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.59 (0.47-0.74) P < 0.0001 |
DAC群 | 14.7ヶ月 | 11.1-16.6 | |
GEF群 | 9.2ヶ月 | 9.1-11.0 |
2. 無増悪生存期間のサブグループ解析
DAC群 (n/N) | GEF群 (n/N) | HR (95%CI) | |
---|---|---|---|
EGFR変異 | |||
Del 19 | 75/134 | 103/133 | 0.55 (0.41-0.75) |
L858R | 61/93 | 76/92 | 0.63 (0.44-0.88) |
3. 奏効割合
奏効割合 | 95%信頼区間 | P = 0.4234 | |
DAC群 | 75% | 69-80 | |
GEF群 | 72% | 65-77 |
4. 奏効期間
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.40 (0.31-0.53) P < 0.0001 |
|
DAC群 | 14.8ヶ月 | 12.0-17.4 | |
GEF群 | 8.3ヶ月 | 7.4-9.2 |
5. 有害事象
DAC群 (N=227) | GEF群 (N=224) | |||
---|---|---|---|---|
Grades 1-2 | Grade 3-4 | Grades 1-2 | Grade 3-4 | |
下痢 | 78% | 8% | 55% | 1% |
爪囲炎 | 54% | 7% | 19% | 1% |
ざ瘡様皮膚炎 | 35% | 14% | 29% | 0% |
口内炎 | 40% | 4% | 17% | 1% |
食欲減退 | 28% | 3% | 24% | 1% |
皮膚乾燥 | 26% | 1% | 17% | 0% |
脱毛症 | 23% | 1% | 13% | 0% |
ALT増加 | 19% | 1% | 31% | 8% |
AST増加 | 19% | 0% | 32% | 4% |
結語
EGFR遺伝子変異陽性NSCLCの初回治療において、DAC群はGEF群と比較して有意にPFSを延長した。DACは新しい治療オプションとして考慮されるべきである。
関連論文
・ Nishio, M, Kato T, Niho S, et al. Safety and efficacy of first-line dacomitinib in Japanese patients with advanced non-small cell lung cancer. Cancer Sci. 2020;111(5):1724-1738.[Pubmed]
・ Corral J, Mok TS, Nakagawa K, et al. Effects of dose modifications on the safety and efficacy of dacomitinib for EGFR mutation-positive non-small-cell lung cancer. Future Oncol. 2019;15(24):2795-2805. [Pubmed]
・ Mok TS, Cheng Y, Zhou X, et al. Improvement in Overall Survival in a Randomized Study That Compared Dacomitinib With Gefitinib in Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer and EGFR-Activating Mutations. J Clin Oncol. 2018;36(22):2244-2250. [Pubmed]
執筆:近畿大学医学部 内科学教室 腫瘍内科部門 助教 加藤 了資 先生
監修:市立岸和田市民病院 腫瘍内科 医長 谷崎 潤子 先生
監修:市立岸和田市民病院 腫瘍内科 医長 谷崎 潤子 先生