対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
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扁平上皮非小細胞肺癌 | 二次治療 | 第3相 | 全生存期間 | 国際 | なし |
試験名 :CheckMate017
レジメン:ニボルマブ vs ドセタキセル
登録期間:2012年10月〜2013年12月
背景
肺扁平上皮癌は非小細胞肺癌全体の30%ほどを占めている。扁平上皮癌を含む非小細胞肺癌におけるプラチナ併用化学療法増悪後の二次治療の標準治療は、長らくドセタキセル (DOC) 単剤であった。ニボルマブ(NIVO)はPD-1に対するヒト型IgG4モノクローナル抗体で、免疫チェックポイントの一つであるPD-1経路を阻害することで抗腫瘍免疫効果を発揮する免疫チェックポイント阻害剤である。これまでの早期臨床試験で肺扁平上皮癌に対するNIVOの効果は有望であり、今回、扁平上皮非小細胞肺癌を対象として、二次治療におけるNIVOとDOCの有効性を比較する第3相試験であるCheckMate017試験が行われた。
シェーマ
層別化因子:パクリタキセル使用歴(あり・なし)、地域(北米・ヨーロッパ・その他の地域)
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間(OS)
OS中央値をDOC 7ヶ月, NIVO 8.9ヶ月と仮定し, 両側α=0.05, 検出力 90%とすると、231イベントが必要と見込まれ、272例の登録が必要と考えられた。予定OSイベントの85%が発生した時点で1回の中間解析が予定された。中間解析時点における有意水準は0.03であった。当初は奏効割合とOSの両者が主要評価項目であったが、第1b相試験で十分なデータが得られたため、奏効割合は中間解析の前に主要評価項目から除外された。また、OSが比例ハザード性に従うと仮定してHR 0.61としてサンプルサイズ計算がなされたが、NIVO群に異なる治療反応性を示す2つの集団が含まれると考えられたことから、途中で非比例ハザード性に基づく設計に変更された。
試験結果:
- 2012年10月から2013年12月までの期間で352例が登録、272例がランダム化され、NIVO群に135例、DOC群に137例が割り付けられた。最小フォローアップ期間は11ヶ月であった。
- 2014年12月15日までのデータをもとに中間解析が行われた。中間解析の結果、NIVO群で全生存期間の優越性を認めたため、2015年1月10日に本試験は早期に終了した。
- 患者背景に目立った差を認めなかった。
- 225例(83%)で免疫組織化学 (IHC) による腫瘍細胞のPD-L1の発現が評価可能であった (抗PD-L1抗体クローン: 28-8)。
- NIVO群では増悪後に24%の症例でDOCの投与を受けた。DOC群では増悪後に2%の症例で免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けた。
1. 全生存期間(主要評価項目)
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.59 (95%CI 0.44-0.79) p<0.001 |
|
NIVO群 | 9.2ヶ月 | 7.3-13.3 | |
DOC群 | 6.0ヶ月 | 5.1-7.3 |
- NIVO群はDOC群と比較してOSを有意に延長した。
- 1年生存割合はNIVO群で42%(95%CI 34-50)、DOC群で24%(95%CI 17-31)であった。
2. 無増悪生存期間
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.62 (95%CI 0.47-0.81) p<0.001 |
|
NIVO群 | 3.5ヶ月 | 2.1-4.9 | |
DOC群 | 2.8ヶ月 | 2.1-3.5 |
- NIVO群はDOC群と比較してPFSを有意に延長した。
3. 奏効割合
奏効割合 | 95%信頼区間 | p=0.008 | |
NIVO群 | 20% | 14-28 | |
DOC群 | 9% | 5-15 |
- 奏効割合はDOC群と比較しNIVO群で有意に高かった。
4. 有害事象
NIVO群 (N=131) | DOC群 (N=129) | |||
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Any grade | Grade 3-4 | Any grade | Grade 3-4 | |
全有害事象 | 76 (58%) | 9 (7%) | 111 (86%) | 71 (55%) |
疲労 | 21 (16%) | 1 (1%) | 42 (33%) | 10 (8%) |
食思不振 | 14 (11%) | 1 (1%) | 25 (19%) | 1 (1%) |
無力症 | 13 (10%) | 0 | 18 (14%) | 5 (4%) |
悪心 | 12 (9%) | 0 | 30 (23%) | 2 (2%) |
下痢 | 10 (8%) | 0 | 26 (20%) | 3 (2%) |
関節痛 | 7 (5%) | 0 | 9 (7%) | 0 |
発熱 | 6 (5%) | 0 | 10 (8%) | 1 (1) |
肺臓炎 | 6 (5%) | 0 | 0 | 0 |
皮疹 | 5 (4%) | 0 | 8 (6%) | 2 (2%) |
粘膜障害 | 3 (2%) | 0 | 12 (9%) | 0 |
筋痛 | 2 (2%) | 0 | 13 (10%) | 0 |
貧血 | 2 (2%) | 0 | 28 (22%) | 4 (3%) |
末梢神経障害 | 1 (1%) | 0 | 15 (12%) | 3 (2%) |
白血球減少症 | 1 (1%) | 1 (1%) | 8 (6%) | 5 (4%) |
好中球減少症 | 1 (1%) | 0 | 42 (33%) | 38 (30%) |
発熱性好中球減少症 | 0 | 0 | 14 (11%) | 13 (10%) |
脱毛 | 0 | 0 | 29 (22%) | 1 (1%) |
- 治療関連有害事象の頻度はNIVO群で少ない傾向を示した。
- 重篤な有害事象はNIVO群で7%、DOC群で24%であり、NIVO群で少ない傾向を示した。
- 治療中断を要する有害事象の頻度はNIVO群で3%、DOC群で10%であり、NIVO群で少ない傾向を示した。
- NIVO群では免疫関連有害事象と思われる皮膚障害、肝障害、甲状腺機能低下症、大腸炎、肺臓炎などを認め、必要に応じてステロイドを中心とした免疫調節薬が使用された。
- NIVO群で死亡例は0例であった。DOC群では1例間質性肺炎により死亡、1例肺出血により死亡、1例敗血症により死亡した。
5. サブグループ解析
- OSのサブグループ解析において、ほとんどのサブグループでNIVO群のOSが良好であった。75歳以上の患者(HR1.85[95%CI 0.76-4.51])や、北米・ヨーロッパ以外の地域の患者(HR1.53[95%CI 0.65-3.62])では、DOC群の成績が良い傾向であったが、サンプルサイズの影響が考慮された (それぞれn=29、31)。
- ベースラインのPD-L1発現別のサブグループ解析では、いずれのカットオフ値 (1%, 5%, 10%) に関わらずNIVO群でOS, PFS, 奏効割合が良好であった。PD-L1発現1%未満の低発現群でもNIVO群のOSはDOC群と比較し良好であった(HR0.58[95%CI 0.37-0.92])。
PD-L1発現に基づくOSのハザード比
PD-L1発現カットオフ | NIVO群 (n) | DOC群 (n) | Unstratified HR(95%信頼区間) | ||
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1% | ≧1% | 63 | 56 | 0.69 (0.45-1.05) | P=0.5556 |
<1% | 54 | 52 | 0.58 (0.37-0.92) | ||
5% | ≧5% | 42 | 39 | 0.53 (0.31-0.89) | P=0.6982 |
<5% | 75 | 69 | 0.70 (0.47-1.02) | ||
10% | ≧10% | 36 | 33 | 0.50 (0.28-0.89) | P=0.9364 |
<10% | 81 | 75 | 0.70 (0.48-1.01) |
結語
既治療進行扁平上皮非小細胞肺癌において、NIVO群はDOC群と比較し全生存期間を統計学的に有意に延長した。また、無増悪生存期間、奏効割合のいずれでもPD-L1発現に関わらず良好な結果を示した。毒性は許容されるものであった。
関連論文
・ Four-year survival with nivolumab in patients with previously treated advanced non-small-cell lung cancer: a pooled analysis. Lancet Oncol. 2019 Oct;20(10):1395-1408. [Pubmed]
・ Nivolumab versus docetaxel in previously treated advanced non-small-cell lung cancer (CheckMate 017 and CheckMate 057): 3-year update and outcomes in patients with liver metastases. Ann Oncol. 2018 Apr 1;29(4):959-965. [Pubmed]
・ Nivolumab Versus Docetaxel in Previously Treated Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer: Two-Year Outcomes From Two Randomized, Open-Label, Phase III Trials (CheckMate 017 and CheckMate 057) J Clin Oncol. 2017 Dec 10;35(35):3924-3933. [Pubmed]
・ Impact of Nivolumab versus Docetaxel on Health-Related Quality of Life and Symptoms in Patients with Advanced Squamous Non-Small Cell Lung Cancer: Results from the CheckMate 017 Study. J Thorac Oncol. 2018 Feb;13(2):194-204. [Pubmed]
執筆:慶應義塾大学病院 呼吸器内科 助教 堀内 康平 先生
監修:順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学 助教 朝尾 哲彦 先生
監修:順天堂大学大学院医学研究科呼吸器内科学 助教 朝尾 哲彦 先生