肺癌 EAST-LC

Randomized controlled trial of S-1 versus docetaxel in patients with non-small-cell lung cancer previously treated with platinum-based chemotherapy(East Asia S-1 Trial in Lung Cancer)

H Nokihara, S Lu et al. Ann Oncol. 2017 Nov; 28(11): 2698–2706. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
非小細胞肺癌 二次治療、三次治療 第3相 全生存期間 東アジア あり

試験名 :非小細胞肺癌におけるS-1のDTXに対するランダム化非劣性試験(EAST-LC試験)

レジメン:S-1 vs DTX

登録期間:2010年7月~2014年6月

背景

進行非小細胞肺癌において、プラチナ併用化学療法 (±免疫チェックポイント阻害剤) による一次治療増悪後の現在の標準治療はドセタキセル (DTX) (±ラムシルマブ) やペメトレキセドである。しかし、DTXはGrade 3/4の好中球減少や発熱性好中球減少の頻度が高い。

エスワン(S-1)は経口細胞傷害性抗癌剤であり、テガフール(5-FUのプロドラッグ)、ギメラシル(5-FU濃度を高める)、オテラシルカリウム(5-FUの消化管毒性を軽減する)を1:0.4:1の割合で含む合剤である。先行する第2相試験でS-1の有望な成績が示されたことから、本試験は、既治療の進行非小細胞肺癌におけるS-1のDTXに対する生存期間の非劣性を検証するために実施された。

シェーマ


※層別化因子:治療群、PS、前治療レジメン数、EGFR-TKI治療の有無、EGFR遺伝子変異の状況、性別、組織型、喫煙歴

統計学的事項

本試験の主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は有害事象、奏効割合(RR)、無増悪生存期間(PFS)、などであった。
OSにおけるS-1のDTXに対する非劣性を示すため、ランダム化1.5年後における両群の生存期間中央値を12ヶ月と仮定し、ハザード比 (HR) の非劣性マージンを1.2とすると、片側α0.025、検出力80%で非劣性を示すためには両群で944イベント、各群568名が必要とされた。既治療非小細胞肺癌を対象とした第3相試験において、DTXのBSCに対するHRは0.61と報告されており、本試験ではS-1が、BSCに対してDTXが有するベネフィット(効果)の60%程度を保持すれば許容されると考え、非劣性マージンをHR 1.2と算出した。

試験結果:

  • 1154名が登録されランダム化によって各群577名が割り当てられた。
    最大解析集団(FAS)はS-1群577名、DTX群570名(6名同意撤回、1名書類不備)となり、両群の患者背景は均衡がとれていた。
  • 主要評価項目であるOS中央値は、S-1群で12.75ヵ月、DTX群で12.52ヵ月であった。HR 0.945(95%CI 0.833-1.073; P=0.3818)と95%信頼区間の上限が非劣性マージン1.2を下回ったことから、S-1のDTXに対する非劣性が示された。OSのサブグループ解析では特徴的なサブグループは同定できなかった。
  • PFS、RRには両群間に有意差を認めなかった。
  • PFSのサブグループ解析では、EGFR遺伝子変異陽性, 女性, 腺癌ではDTXのほうが有効である可能性が示唆された。
  • 有害事象に関して、S-1群では食欲低下、悪心、下痢が多く、DTX群では好中球減少、脱毛症、食欲低下が多かった。発熱性好中球減少症は0.9% vs 13.6%とDTX群で多かった。
  • EORTC QLQ-C30(がん患者のQOLスコア)において、S-1群は4つの機能スケール(身体機能、役割機能、情緒機能、社会的機能)と、症状スケール(疲労感)で優れていた。
    また、EORT CQLQ-LC13(肺癌患者における症状スコア)において、S-1群は胸部痛、呼吸困難、末梢神経障害、脱毛症で、DTX群は嚥下障害のスコアで優れた結果だった。
1. 全生存期間(主要評価項目)
  中央値 HR 0.945         
(95%CI, 0.833-1.073,P=0.3818)
S-1 (n=577) 12.75ヵ月
DTX(n=570) 12.52ヵ月
  N  
  S-1 DTX HR P値
Japan 361 359 0.905 0.2141
non-Japan 216 211 1.058 0.6071
2. 無増悪生存期間
  中央値 HR 1.033         
(95%CI, 0.913-1.168,P=0.6080)
S-1 (n=577) 2.86ヵ月
DTX(n=570) 2.89ヵ月
3. 奏効割合
  奏効割合 病勢制御割合 奏効割合
P=0.3761
S-1 (n=570) 8.3% 45.4%
DTX(n=577) 9.9% 44.7%
4. 有害事象(Grade3/4血液毒性 NCI-CTCAE ver4.0)
  S-1(n=569) DTX(n=560)
  全グレード グレード3/4 全グレード グレード3/4
食欲低下 50.4% 6.5% 36.4% 2.7%
悪心 36.4% 0.9% 26.6% 1.4%
下痢 35.9% 6.3% 16.4% 1.1%
皮膚色素過剰 31.3% 0.0% 2.0% 0.0%
口内炎 23.4% 2.5% 14.3% 0.9%
嘔吐 18.6% 1.6% 11.4% 0.7%
倦怠感 18.5% 0.2% 23.4% 0.7%
疲労 16.7% 1.2% 18.9% 0.9%
好中球減少 14.9% 5.4% 54.8% 47.7%
便秘 12.3% 0.2% 16.4% 0.2%
貧血 12.1% 2.6% 9.5% 1.4%
体重減少 12.1% 0.5% 3.6% 0.0%
血小板減少 11.1% 1.2% 2.3% 0.2%
斑状丘疹状皮疹 10.4% 0.9% 8.0% 0.2%
白血球減少 9.5% 1.2% 43.9% 29.1%
末梢性感覚ニューロパチー 4.0% 0.2% 15.5% 0.7%
末梢性浮腫 2.3% 0.0% 15.7% 0.9%
脱毛症 1.9% 0.0% 46.6% 0.0%
発熱性好中球減少症 0.9% 0.9% 13.4% 13.4%
結語
本試験は既治療非小細胞肺癌において、S-1がDTXに対して全生存期間において非劣性であることを証明した第3相試験である。無増悪生存期間、奏効割合はほぼ同様で、有害事象の毒性プロファイルが異なっていた。
S-1はDTXと比較して脱毛がなく、好中球減少も軽度かつ内服治療という特徴を持っており、DTX単剤治療に代わる治療の選択肢の一つになり得る。
執筆:横浜市立大学附属病院 呼吸器内科学 堂下 皓世 先生
監修:順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学 朝尾 哲彦 先生

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