対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
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小細胞肺癌 | - | 第3相 | 全生存期間 | 日本 | あり |
試験名 :ED-SCLC/PCI
レジメン:PCI vs 経過観察
登録期間:2009年4月3日〜2013年7月17日
背景
過去のメタアナリシスで、初回化学療法や化学放射線療法で完全奏効が得られた進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)患者に対する予防的全脳照射(PCI)は、脳転移発生率を減少させ、生存期間を延長することが示唆された(Auperin A, et al. N Engl J Med 1999; 341: 476-484)。また、2007年に報告されたEORTCによる第3相試験において、初回治療に奏効したED-SCLCに対してPCIを行うことで、全生存期間が有意に延長した(Slotman B, et al. N Engl J Med. 2007; 357(7): 664-72.)。しかしながらこの報告は、治療開始時にMRIにより脳転移の有無を確認した症例は29%にすぎないという欠点があり、本邦の医療事情とは大きく異なる状況で実施された。このことから、本邦の日常臨床に則して、治療前および治療後の経過観察中に脳画像診断にて脳転移の検索を行うことを必須として、ED-SCLCに対するPCIの有効性を再検証する第3相試験が行われた。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間
EORTCの先行研究で経過観察群との比較でのハザード比(HR)が0.68, メタアナリシスでのHRが0.77だったことから、HR 0.75と見積もった。日本における過去の第3相試験ではED-SCLCの患者の2年生存率はシスプラチン+イリノテカン群で19.5%、カルボプラチン+エトポシド群で11%だったことから、2年生存率を今回の経過観察群で15%と仮定し、PCI群で24.1% (HR 0.75)と想定した。片側α=5%、検出力80%と設定すると、6年間で330症例のサンプルサイズの設定とした。試験結果:
- 2009年4月3日から2013年7月17日までに224人の患者が登録・ランダム化された。
- 2012年10月31日をデータカットオフとして、163人(PCI 群84人、経過観察群79人)の患者データで2013年6月18日に予定中間解析を行い、PCI群の経過観察群に対する優越性が示される予測確率が0.011%だったことより、試験は早期無効中止となった。
- 最終解析では、224人(PCI群113人、経過観察群111人)が登録され、化学療法レジメンも含め背景因子に偏りはみられなかった。
- 最終解析のデータカットオフは2015年7月で、観察期間中央値は11.9ヶ月だった。PCI群のうち106人(94%)、経過観察群のうち99人(89%)が死亡していた。
1. 全生存期間(主要評価項目)
PCIの実施で、全生存期間の延長は認めなかった。
中央値 | 95% CI | HR 1.27 (95% CI 0.96-1.68) p=0.094 |
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PCI | 11.6ヶ月 | 9.5-13.3 | |
経過観察 | 13.7ヶ月 | 10.2-16.4 |
2. 脳転移の累積リスク
脳転移の発生率はPCI群で有意に低下していた。
6ヶ月 | 12ヶ月 | 18ヶ月 | p<0.0001 | |
PCI(95% CI) | 15.0%(9.2-22.3) | 32.9%(24.3-41.7) | 40.1%(31.0-49.1) | |
経過観察(95% CI) | 46.2%(36.7-55.2) | 59.0%(49.1-67.6) | 63.8%(54.0-72.1) |
3. 無増悪生存期間
PCIの実施で、無増悪生存期間の延長は認めなかった。
中央値 | 95% CI | HR 0.98 (95% CI 0.75-1.29) p=0.75 |
|
PCI | 2.3ヶ月 | 2.0-2.6 | |
経過観察 | 2.4ヶ月 | 2.1-2.7 |
4. 有害事象
PCI (N=106) | 経過観察(N=111) | |||||||
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Grade 1 | Grade 2 | Grade 3 | Grade 4 | Grade 1 | Grade 2 | Grade 3 | Grade 4 | |
脱毛 | 21(20%) | 24(23%) | 0 | 0 | 24(22%) | 16(14%) | 0 | 0 |
皮膚炎 | 17(16%) | 3(3%) | 1(<1%) | 1(<1%) | 3(3%) | 0 | 0 | 0 |
頭痛 | 7(7%) | 0 | 0 | 0 | 3(3%) | 0 | 0 | 0 |
食欲不振 | 33(31%) | 10(9%) | 5(5%) | 1(<1%) | 14(13%) | 5(5%) | 2(2%) | 0 |
悪心 | 25(24%) | 6(6%) | 2(2%) | 0 | 8(7%) | 1(<1%) | 0 | 0 |
嘔吐 | 7(7%) | 1(<1%) | 0 | 0 | 0 | 1(<1%) | 0 | 0 |
浮動性 めまい | 5(5%) | 2(2%) | 1(<1%) | 0 | 3(3%) | 0 | 0 | 0 |
倦怠感 | 28(26%) | 7(7%) | 3(3%) | 0 | 21(19%) | 3(3%) | 0 | 1(<1%) |
嗜眠 | 6(<6%) | 1(<1%) | 1(<1%) | 0 | 2(2%) | 1(<1%) | 0 | 0 |
筋力低下 | 3(3%) | 3(3%) | 1(<1%) | 0 | 1(<1%) | 0 | 5(5%) | 1(<1%) |
5. Mini-Mental State Examination (MMSE)
70歳以上でPCI群にてMMSEの低下傾向を認め、高齢者ではPCIを実施することで認知機能が低下する可能性が示唆された。
6. 後治療
- 脳転移に対する放射線治療はPCI群で54例中25例(46%)、経過観察群で77例中64例(83%)だった。
- 二次治療が行われたのはPCI群で99例(88%)、経過観察群で99例(89%)だった。
結語
初回化学療法で腫瘍縮小を認め、MRIで脳転移がないことが確認されたED-SCLC症例では、3ヶ月毎のMRIで経過観察を行った場合、PCI を実施しても生存期間の延長は得られなかった。
執筆:千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科 医員 日野 葵 先生
監修:神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 池田 慧 先生
監修:神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 池田 慧 先生