肺癌 IMpower150

Atezolizumab for First-Line Treatment of Metastatic Nonsquamous NSCLC

Socinski MA, et al, N Engl J Med. 2018; 378(24): 2288-301. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
非扁平上皮非小細胞肺癌 一次治療 第3相 無増悪生存期間/全生存期間 国際 あり

試験名 :IMpower150

レジメン:ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル(BCP療法)vs アテゾリズマブ+ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル(ABCP療法)

登録期間:2015年3月〜2017年12月

背景

非扁平上皮非小細胞肺癌(non-Sq NSCLC)の一次治療は、ドライバー遺伝子変異陽性の症例は分子標的薬治療、PD-L1腫瘍発現割合(TPS)≧50%の症例は抗PD-1抗体薬単剤治療、それ以外の症例はプラチナ併用化学療法±ベバシズマブ(BEV)が標準治療となっている。抗PD-L1抗体薬であるアテゾリズマブ(Atezo)は、二次治療以降においてPD-L1発現割合に関わらず既存の標準治療よりも全生存割合を改善させることが示されている。本試験は、未治療進行期non-Sq NSCLCに対して、カルボプラチン+パクリタキセルにAtezoとBEVの上乗せ効果を検証するための第3相試験である。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:

 本試験の主要評価項目は、当初は無作為化されたすべての患者(ITT集団: intention-to-treatment population)及びPD-L1発現陽性例のPFSとされていたが、試験の途中でEGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座のないITT集団(WT集団)の無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)、及びTeff-high-WT集団(PD-L1、CXCL9及びIFN-γのmRNA発現量で規定したT-effector遺伝子シグネチャースコアが高いWT集団)のPFSに変更となった。主な副次評価項目は、EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座陽性症例を含む全ての症例におけるPFSとOSとされた。その他の副次評価項目は、WT集団の奏効割合、奏効期間、安全性、PD-L1発現割合のサブグループ毎のPFSとされた。
事前に定められたアルファ消費アルゴリズムに則り、WT集団におけるABCP群とBCP群の比較のために、αをPFSに0.012、OSに0.038と割り付けられた。PFSが有意の場合は、αをリサイクルしてOSの比較を行うとされた。その結果も有意であった場合に、残ったαをリサイクルしてACP群とBCP群のOSを比較するとされた。
 PFSの最終解析は、WT集団においてABCP群及びBCP群で合わせて516例の病勢進行または死亡が発生した時点で実施し、OSの最終解析はABCP群及びBCP群で合わせて370例の死亡が発生した時点で実施する予定とされた。OSとPFSの比較に層別ログランク検定を、ハザード比の算出には層別化Cox回帰モデルを、中央値の推定にはKaplan-Meier法が使用された。

試験結果:

  • 2015年3月~2016年12月に240施設の1202症例が登録され、ABCP群が400例、BCP群が400例、ACP群が402例と割り付けられた。そのうち、WT集団はABCP群で356例、BCP群で336例、ACP群で348例であった。
  • ABCP群とBCP群において臨床背景は大きな違いはみられなかった。
1. WT集団の無増悪生存期間(主要評価項目)
  中央値 95%信頼区間 HR 0.62(0.52-0.74)
P<0.001      
ABCP群 8.3ヶ月 7.7-9.8ヶ月
BCP群 6.8ヶ月 6.0-7.1ヶ月
  • 有効性解析のデータカットオフ時(2017年9月15日)において、ABCP群の追跡期間の中央値は9.5ヶ月、BCP群は15.5ヶ月、追跡期間最小値は9.5ヶ月であった。
  • EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子陽性症例のPFS中央値は、ABCP群で9.7ヶ月、BCP群で6.1ヶ月、ハザード比0.59(0.37-0.94, p<0.001)と、ABCP群で有意にPFSの延長を認めた。
  • Teff-high-WT集団のPFS中央値は、ABCP群で11.3ヶ月、BCP群で6.8ヶ月、ハザード比0.51(0.38-0.68,p<0.001)と、ABCP群で有意にPFS延長を認めた。
  • WT集団のPD-L1発現割合に応じたサブグループでは、いずれのグループでも有意にABCP群がBCP群よりPFSが延長していたが、PD-L1発現割合が高い方がその差はより顕著であった。
2. WT集団の全生存期間(主要評価項目)
  中央値 95%信頼区間 HR 0.78(0.64-0.96)
P=0.02      
ABCP群 19.2ヶ月 17.0-23.8ヶ月
BCP群 14.7ヶ月 13.3-16.9ヶ月
  • 中間解析時のデータカットオフ時(2018年1月22日)において、ABCP群、BCP群あわせた追跡期間の中央値は20.0ヶ月であった。
  • ABCP群の死亡例は359例中179例、BCP群は337例中197例であった。
3. WT集団の客観的奏効割合
  中央値 95%信頼区間
ABCP群 63.5% 58.2-68.5
BCP群 48.0% 42.5-53.6
4. WT集団の奏効期間
  奏効期間中央値 範囲
ABCP群 9.0ヶ月 0.4-24.9
BCP群 5.7ヶ月 0.0-22.1
5. 有害事象
  ABCP群(N=393) BCP群(N=394)
  Grade 1,2 Grade 3,4 Grade 5 Grade 1,2 Grade 3,4 Grade 5
治療関連有害事象 141(35.9%) 219(55.7%) 11(2.8%) 179(45.4%) 188(47.7%) 9(2.3%)
10%以上に生じた有害事象
脱毛 183(46.6%) 0 0 173(43.9%) 0 0
末梢性ニューロパチー 141(35.9) 11(2.8%) 0 113(28.7%) 9(2.3%) 0
悪心 119(30.3%) 15(3.8%) 0 101(25.6%) 8(2.0%) 0
疲労 88(22.4%) 13(3.3%) 0 79(20.1%) 10(2.5%) 0
貧血 70(17.8%) 24(6.1%) 0 71(18.0%) 23(5.8%) 0
食思不振 77(19.6%) 10(2.5%) 0 56(14.2%) 3(0.8%) 0
下痢 70(17.8%) 11(2.8%) 0 58(14.7%) 2(0.5%) 0
好中球減少症 18(4.6%) 54(13.7%) 0 24(6.1%) 44(11.2%) 0
高血圧 50(12.7%) 25(6.4%) 0 42(10.7%) 25(6.3%) 0
関節痛 63(16.0%) 3(0.8%) 0 55(14.0%) 4(1.0%) 0
便秘 65(16.5%) 0 0 45(11.4%) 0 0
衰弱 52(13.2%) 5(1.3%) 0 53(13.5%) 11(2.8%) 0
鼻出血 50(12.7%) 4(1.0%) 0 68(17.3%) 0 0
嘔吐 50(12.7%) 6(1.5%) 0 51(12.9%) 5(1.3%) 0
血小板数減少 34(8.7%) 20(5.1%) 0 35(8.9%) 9(2.3%) 0
筋肉痛 51(13.0%) 2(0.5%) 0 46(11.7%) 1(0.3%) 0
血小板減少症 36(9.2%) 16(4.1%) 0 28(7.1%) 17(4.3%) 0
たんぱく尿 41(10.4%) 10(2.5%) 0 37(9.4%) 11(2.8%) 0
好中球数減少 14(3.6%) 34(8.7%) 0 10(2.5%) 25(6.3%) 0
皮疹 47(12.0%) 5(1.3%) 0 20(5.1%) 0 0
口内炎 43(10.7%) 4(1.0%) 0 20(5.1%) 1(0.3%) 0
麻痺 42(10.7%) 0 0 36(9.1%) 1(0.3%) 0
発熱性好中球減少症 2(0.5%) 33(8.4%) 3(0.8%) 0 23(5.8%) 0
免疫関連有害事象 ABCP群(N=393) BCP群(N=394)
  Any Grade Grade3-4 Any Grade Grade3-4
皮疹 113(28.8%) 9(2.3%) 52(13.2%) 2(0.5%)
肝障害 47(12.0%) 16(4.1%) 29(7.4%) 3(0.8%)
甲状腺機能低下症 50(12.7%) 1(0.3%) 15(3.8%) 0
甲状腺機能亢進症 16(4.1%) 1(0.3%) 5(1.3%) 0
肺臓炎 11(2.8%) 6(1.5%) 5(1.3%) 0
大腸炎 9(2.3%) 5(1.3%) 2(0.5%) 2(0.5%)
肝炎 8(2.0%) 4(1.0%) 0 0
重症皮膚反応 4(1.0%)   1(0.3%)  
副腎不全 2(0.5%) 1(0.3%) 3(0.8%) 1(0.3%)
膵炎 5(1.3%) 2(0.5%) 0 0
下垂体炎 3(0.8%) 1(0.3%) 0 0
腎炎 3(0.8%) 1(0.3%) 0 0
眼炎症性障害 3(0.8%) 1(0.3%) 0 0
筋炎 2(0.5%) 1(0.3%) 0 0
自己免疫性貧血 1(0.3%)   0  
血管炎 1(0.3%)   0  
糖尿病 1(0.3%) 0 0 0
脳炎 1(0.3%) 1(0.3%) 0 0
脊髄脳炎 1(0.3%) 1(0.3%) 0 0
結語
ALK遺伝子転座またはEGFR遺伝子変異のない進行非扁平上皮非小細胞肺癌患者の一次治療において、ABCP療法はBCP療法と比較してPFS及びOSを有意に延長した。
執筆:横浜市立大学附属病院 呼吸器病学教室 久保 創介 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長 和久田 一茂 先生

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