対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
非小細胞肺癌 | 一次治療 | 第3相 | 無増悪生存期間/全生存期間 | 国際 | あり |
試験名 :KEYNOTE-024
レジメン:ペムブロリズマブ vsプラチナ併用化学療法
登録期間:2014年9月19日〜2015年10月29日
背景
ペムブロリズマブ(Pemb)はPD-1に対するヒト化モノクローナル抗体である。第1相試験であるKEYNOTE-001試験では、PD-L1を高発現する非小細胞肺癌(NSCLC)に対してPembは抗腫瘍効果が高いことが示されている。また、第2/3相試験であるKEYNOTE-010試験では、PD-L1陽性進行期NSCLCの二次治療において、ドセタキセル単剤と比較しPembは有意に全生存期間の延長を認め、PD-L1発現スコア (TPS) ≧50%でより効果が高いことが示されている。 本試験は、PD-L1 TPS ≧50%の進行期NSCLCの一次治療において、標準治療であるプラチナ併用化学療法とPembを比較した第3相試験である。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:
本試験の主要評価項目は無増悪生存期間、副次評価項目は全生存期間、客観的奏効割合、安全性、探索的評価項目は奏効期間とした。試験全体のTypeⅠエラーはαを片側2.5%と設定し、2回の中間解析と最終解析を行う予定であった。1回目の中間解析は、191例目の症例が無作為化されてから6か月経過した時点で行われ、αを片側0.5%として客観的奏効割合の解析が行われた。2回目の中間解析は、約175例の進行または死亡のイベントが観察された時点でαを片側2.0%として優越性の検証が行われた。無増悪生存期間に関して優越性があると判断された場合、グループ逐次デザインで死亡症例が110例、さらに170例観察された際の2回において、Pemb群の優越性を検証するために、全生存期間における検定を実施することとされた。Pemb群のプラチナ併用化学療法群に対する進行または死亡のハザード比0.55を検出するために、175例のイベントの観察により検出力は97%が確保されると算出した。死亡のイベントについては、αを片側1.18%、Pemb群のプラチナ併用化学療法群に対する死亡のハザード比を0.65と設定すると検出力は約40%であると算出された。2016年5月9日をカットオフとされた2回目の中間解析では、189例の無増悪生存イベント、108例の死亡イベントが観察された。結果、事前に設定した片側α1.18%でPemb群がプラチナ併用化学療法群と比較して有意に全生存期間を延長することが示され、本試験は早期中止となった。本論文のデータは第2回中間解析結果に基づいたものである。
試験結果:
- 2014年9月19日〜 2015年10月29日に登録が行われた。102施設の305例が登録され、Pemb群154例、プラチナ併用化学療法群151例に無作為に割り付けた。
- Pemb群では、プラチナ併用化学療法群と比較し非喫煙者が多く(12.6% vs 3.2%)、脳転移症例が多かった(11.7% vs 6.6%)。その他の臨床背景では両群に大きな違いは見られなかった。
- 有効性解析のデータカットオフは2016年5月9日で、フォローアップ期間の中央値は11.2ヶ月であった。
- プラチナ併用化学療法群の内66例でPembへのクロスオーバーがされ、その内38例(57.6%)でPembが継続されていた。
1. 無増悪生存期間(主要評価項目)
中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.50(0.37-0.68) P<0.001 |
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Pemb群 | 10.3ヶ月 | 6.7-NR* | |
プラチナ併用化学療法群 | 6.0ヶ月 | 4.2-6.2 |
*NR: not reached
- 無増悪生存期間のサブグループ解析では、女性、現喫煙者、非喫煙者、脳転移ありの群でハザード比の95%信頼区間が1をまたいでいたが、いずれのサブグループでもPemb群で良好な結果であった。
2. 全生存割合
6ヶ月生存率 | 95%信頼区間 | HR 0.60(0.41-0.89) p=0.005 |
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Pemb群 | 80.2% | 72.9-85.7 | |
プラチナ併用化学療法群 | 72.4% | 64.5-78.9 |
3. 客観的奏効割合
中央値 | 95%信頼区間 | |
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Pemb群 | 44.8% | 36.8-53.0 |
プラチナ併用化学療法群 | 27.8% | 20.8-35.7 |
4. 奏効までの期間及び奏効期間
奏効までの期間中央値 | 範囲 | 奏効期間中央値 | 範囲 | |
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Pemb群 | 2.2ヶ月 | 1.4-8.2 | NR* | 1.9+**-14.5+ |
プラチナ併用化学療法群 | 2.2ヶ月 | 1.8-12.2 | 6.3ヶ月 | 2.1+-12.6+ |
*NR: not reached
**「+」はデータカットオフの時点で病勢増悪がみられないことを示す(追跡期間中央値:11.2ヵ月)
5. 有害事象
Pemb群(N=154) | プラチナ併用化学療法群(N=150) | |||
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Any grade | Grade 3,4,5 | Any grade | Grade 3,4,5 | |
治療関連有害事象 | ||||
全有害事象 | 113(73.4%) | 41(26.6%) | 135 (90.0%) | 80 (53.3%) |
重篤な有害事象 | 33(21.4%) | 29(18.8%) | 31(20.7%) | 29(19.3%) |
治療中止につながった有害事象 | 11(7.1%) | 8(5.2%) | 16(10.7%) | 9(6.0%) |
死亡につながった有害事象 | 1(0.6%) | 1(0.6%) | 3(2.0%) | 3(2.0%) |
10%以上に生じた有害事象 | ||||
悪心 | 15(9.7%) | 0 | 65(43.3%) | 3(2.0%) |
貧血 | 8(5.2%) | 3(1.9%) | 66(44.0%) | 29(19.3%) |
倦怠感 | 16(10.4%) | 2(1.3%) | 43(28.7%) | 4(3.3%) |
食思不振 | 14(9.1%) | 0 | 39(26.0%) | 4(2.7%) |
下痢 | 22(14.3%) | 6(3.9%) | 20(13.3%) | 2(1.3%) |
好中球減少症 | 1(0.6%) | 0 | 34(22.7%) | 20(13.3%) |
嘔吐 | 4(2.6%) | 1(0.6%) | 30(20.0%) | 1(0.7%) |
発熱 | 16(10.4%) | 0 | 8(5.3%) | 0 |
便秘 | 6(3.9%) | 0 | 17(11.3%) | 0 |
口内炎 | 4(2.6%) | 0 | 18(12.0%) | 2(1.3%) |
好中球数減少 | 0 | 0 | 20(13.3%) | 6(4.0%) |
クレアチニン上昇 | 3(1.9%) | 0 | 15(10.0%) | 1(0.7%) |
血小板数減少 | 0 | 0 | 18(12.0%) | 1(0.7%) |
血小板減少症 | 0 | 0 | 17(11.3%) | 8(5.3%) |
白血球数減少 | 1(0.6%) | 0 | 16(10.7%) | 3(2.0%) |
味覚障害 | 1(0.6%) | 0 | 15(10.0%) | 0 |
免疫関連有害事象 | ||||
全有害事象 | 45(29.2%) | 15(9.7%) | 7(4.7%) | 1(0.7%) |
甲状腺機能低下症 | 14(9.1%) | 0 | 2(1.3%) | 0 |
甲状腺機能亢進症 | 12(7.8%) | 0 | 2(1.3%) | 0 |
肺臓炎 | 9(5.8%) | 4(2.6%) | 1(0.7%) | 1(0.7%) |
インヒュージョンリアクション | 7(4.5%) | 0 | 2(1.3%) | 0 |
重症皮膚反応 | 6(3.9%) | 6(3.9%) | 0 | 0 |
甲状腺炎 | 4(2.6%) | 0 | 0 | 0 |
大腸炎 | 3(1.9%) | 2(1.3%) | 0 | 0 |
筋炎 | 3(1.9%) | 0 | 0 | 0 |
下垂体炎 | 1(0.6%) | 1(0.6%) | 0 | 0 |
腎炎 | 1(0.6%) | 1(0.6%) | 0 | 0 |
膵炎 | 1(0.6%) | 1(0.6%) | 0 | 0 |
Ⅰ型糖尿病 | 1(0.6%) | 1(0.6%) | 0 | 0 |
- Grade3以上の治療関連有害事象が起きた症例は、Pemb群で41例(26.6%)、プラチナ併用化学療法群で80例(53.3%)であった。死亡例(Grade5)の原因として、Pemb群で原因不明が1例、プラチナ併用化学療法群で敗血症が1例、肺胞出血が1例、原因不明が1例であった。
- Grade3以上の免疫関連有害事象が起きた症例は、Pemb群で15例(9.7%)。プラチナ併用化学療法群で1例(0.7%)であった。死亡例(Grade5)は両群とも認めなかった。
結語
ALK遺伝子転座またはEGFR遺伝子変異のない、PD-L1 TPS ≧50%の進行非小細胞肺癌患者の一次治療において、Pemb群はプラチナ併用化学療法群と比較して有意に無増悪生存期間、及び全生存期間を延長した。
関連論文
・ Herbst RS et al, Pembrolizumab versus docetaxel for previously treated, PD-L1-positive, advanced non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-010): a randomised controlled trial, Lancet 2016; 387: 1540–50. [Pubmed]
・ Garon EB et al, Pembrolizumab for the Treatment of Non–Small-Cell Lung Cancer, N Engl J Med 2015; 372: 2018-2028. [Pubmed]
執筆:横浜市立大学附属病院 呼吸器病学教室 久保 創介 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長 和久田 一茂 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長 和久田 一茂 先生