対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌 | 一次治療 | 第3相 | 無増悪生存期間 | 日本 | あり |
試験名 :NEJ002
レジメン:ゲフィチニブvs カルボプラチン+パクリタキセル
登録期間:2006年3月〜2009年3月
背景
非小細胞肺癌(NSCLC)のうち、上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor:EGFR)遺伝子変異陽性例は約30-50%を占める。EGFR遺伝子変異陽性例に対して、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の有効性が複数の早期試験で示されていたが、この試験が開始された時点では、従来の標準治療であるプラチナ併用化学療法とのランダム比較試験は行われていなかった。本試験は、未治療EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺癌の患者を対象として、第一世代EGFR-TKIであるゲフィチニブ(GEF)と、従来の標準治療であるプラチナ併用化学療法を比較した多施設共同無作為化非盲検の第3相試験である。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:無増悪生存期間
本試験はEGFR遺伝子変異陽性例において、カルボプラチン+パクリタキセル併用療法(化学療法) を対照群としてGEF単剤群の優越性を検証した第3相試験である。過去の試験結果から、無増悪生存期間(PFS)中央値をGEF群9.7ヵ月、化学療法群6.7ヵ月と仮定し、両側α=0.05、検出力=80%と設定すると、必要なPFSのイベント数は計230、必要症例数は計320例となった。また、本試験ではあらかじめ中間解析(p=0.003)を行うことが計画されていた。試験結果:
- 中間解析の結果、両群合わせて230例が登録された時点でGEF群の有効中止となった。
- 2006年3月〜2009年3月の期間に43施設より230例が登録され、GEF群に115例、化学療法群には115例が割り付けられた。
- データカットオフは2009年12月で、全体の追跡期間中央値は527日であった。
- 両群間で、患者背景に明らかな差は認められなかった。
1. 無増悪生存期間(主要評価項目)
中央値 | HR 0.30 (95%信頼区間: 0.22-0.41) p < 0.001 |
|
GEF群 | 10.8ヶ月 | |
化学療法群 | 5.4ヶ月 |
2. 全生存期間
中央値 | 2年生存割合 | p = 0.31 | |
GEF群 | 30.5ヶ月 | 61.4% | |
化学療法群 | 23.6ヶ月 | 46.7% |
3. 奏効割合
奏効割合 | p < 0.001 | |
GEF群 | 73.7% | |
化学療法群 | 30.7% |
4. 有害事象
GEF群 (N=114) | 化学療法群 (N=113) | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Grade 1 | Grade 2 | Grade 3 | Grade 4 | Grade 1 | Grade 2 | Grade 3 | Grade 4 | |
皮疹 | 38 | 37 | 6 | 0 | 8 | 14 | 3 | 0 |
下痢 | 32 | 6 | 1 | 0 | 7 | 0 | 0 | 0 |
アミノトランスフェラーゼ上昇 | 20 | 13 | 29 | 1 | 31 | 5 | 0 | 1 |
肺臓炎 | 3 | 0 | 2 | 1※ | 0 | 0 | 0 | 0 |
食欲不振 | 7 | 4 | 6 | 0 | 39 | 18 | 7 | 0 |
疲労 | 8 | 1 | 3 | 0 | 19 | 11 | 1 | 0 |
末梢性感覚ニューロパチー | 0 | 1 | 0 | 0 | 28 | 27 | 7 | 0 |
好中球数減少 | 5 | 1 | 0 | 1 | 4 | 9 | 37 | 37 |
貧血 | 19 | 2 | 0 | 0 | 35 | 32 | 6 | 0 |
血小板数減少 | 8 | 0 | 0 | 0 | 25 | 3 | 3 | 1 |
※: 1例はGrade 5
GEF群で最も多く認められた有害事象は皮疹、アミノトランスフェラーゼ (AST or ALT) 上昇であった。
化学療法群で最も多く認められた有害事象は食欲不振、好中球数減少、貧血、末梢性感覚ニューロパチーであった。
間質性肺疾患はGEF群の6例 (5.3%) で認められ、1例が死亡した。
NCI-CTCのGrade 3以上の重篤な有害事象は、化学療法群 71.7%、GEF群 41.2%で認められ、化学療法群で有意に多かった。
結語
未治療EGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者において、GEFはプラチナ併用化学療法と比較して無増悪生存期間の有意な延長を示した。本試験の結果により、GEFはEGFR遺伝子変異陽性NSCLCの治療選択肢の一つとなり得ることが示された。
執筆:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 レジデント 宮脇 太一 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長 和久田 一茂 先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 呼吸器内科 医長 和久田 一茂 先生