対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
進展型小細胞肺癌 | - | 第3相 | 症候性脳転移の発生 | ヨーロッパ | なし |
試験名 :(進展型小細胞肺癌における予防的全脳照射の有効性を検証する第3相試験)
レジメン:予防的全脳照射 vs 経過観察
登録期間:2001年2月~2006年3月
背景
小細胞肺癌において脳転移は予後不良因子であるが、化学療法後の維持療法では脳転移の発生を抑えられず、血液脳関門の存在により脳転移に対する化学療法の有効性は限られている。
予防的全脳照射(PCI)は、いくつかの臨床研究とメタ解析において、症候性脳転移のリスク減少と生存期間(OS)の延長が示されているものの、対象は化学療法完全奏効例に限られ、大半が限局型小細胞癌であった。進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)におけるPCIの意義はいまだ不明であった。
本試験は、初期治療が奏効したED-SCLCにおける、PCIによる症候性脳転移の抑制効果を検証する多施設ランダム化第3相試験である。
予防的全脳照射(PCI)は、いくつかの臨床研究とメタ解析において、症候性脳転移のリスク減少と生存期間(OS)の延長が示されているものの、対象は化学療法完全奏効例に限られ、大半が限局型小細胞癌であった。進展型小細胞肺癌(ED-SCLC)におけるPCIの意義はいまだ不明であった。
本試験は、初期治療が奏効したED-SCLCにおける、PCIによる症候性脳転移の抑制効果を検証する多施設ランダム化第3相試験である。
シェーマ
割付因子:施設、PS
※症候性脳転移:
脳転移を示唆する症状(頭蓋内圧亢進症状、頭痛、悪心嘔吐、認知機能障害、痙攣発作、局所神経症状)と放射線画像所見の両方が存在するものと定義された。
※照射スケジュール:
施設ごとに以下のいずれかのスケジュールで週4-5回の照射を行う。
20Gy/5frあるいは8fr、 24Gy/12fr、25Gy/10fr、30 Gy/10frあるいは12 fr
統計学的事項
主要評価項目:症候性脳転移の累積発生率
副次評価項目:OS、QOL、毒性
経過観察群に対するPCI群のハザード比(HR)を0.44とし、これを両側有意水準0.05、検出力80%で示すため52例の脳転移イベントが必要と計算された。経過観察3年以内に40%が死亡もしくはフォローアップ不能になると推定し、287例の登録が必要と算出された。試験結果:
- 2001年2月から2006年3月までに286名が登録され各群に143名が割り付けられた。
- 照射スケジュールは20Gy/5frが89例、30Gy/10frが23例、30Gy/ 12 frが9例、25Gy/10frが7例であった。
- 6ヵ月、12か月経過時点の症候性脳転移の累積発生率はそれぞれPCI群で4.4%、14.6%、コントロール群で32.0%、40.4%でありHR 0.27(95%信頼区間0.16-0.44;P<0.001)とPCI群で有意に少なかった。
- OSはPCI群で6.7ヵ月、経過観察群で5.4ヵ月と有意差をもってPCI群で良好な結果であった(P=0.003)。また無病生存期間 (DFS) の中央値はPCI群で14.3週、経過観察群で12.0週とPCI群で良好な結果であった(P=0.02)。
- EORTC QLQ-C30(がん患者のQOLスコア)は両群で有意差を認めなかったが、急性の有害事象はPCI群で多かった。
- 1年経過時点での体幹部増悪は両群で差がなかった(88.8% vs 92.8%)。
- 二次治療はPCI群の68.0%、経過観察群の45.1%で行われ、症候性脳転移に対する放射線治療はそれぞれ24例中2例(8.3%)、59例中35例(59.3%)で行われた。
1. 症候性脳転移の累積発生率
6ヵ月 | 12ヵ月(95%CI) | HR 0.27 (95%CI, 0.16-0.44, P<0.001) |
|
PCI(n=143) | 4.4% | 14.6%(8.3-20.9) | |
経過観察(n=143) | 32.0% | 40.4%(32.1-48.6) |
2. 全生存期間
中央値 | HR 0.68 (95%CI, 0.52-0.88, P=0.003) |
|
PCI(n=143) | 6.7ヵ月 | |
経過観察(n=143) | 5.4ヵ月 |
3. QOL、毒性
主要評価項目 | C評価時期 | PCI群(95%CI) | 経過観察群(95%CI) | P値 |
---|---|---|---|---|
疲労 | 6週 | 43.2±2.56 | 29.3±2.47 | <0.001 |
3ヵ月 | 53.6±3.03 | 38.5±3.24 | <0.001 | |
脱毛 | 6週 | 36.5±3.96 | 11.7±3.73 | <0.001 |
探索的解析項目 | ||||
食欲不振 | 6週 | 28.9±3.25 | 10.6±3.06 | <0.001 |
3ヵ月 | 43.9±3.87 | 14.8±4.18 | <0.001 | |
悪心嘔吐 | 6週 | 15.0±1.73 | 5.3±1.64 | <0.001 |
3ヵ月 | 26.9±2.92 | 8.2±3.15 | <0.001 | |
下肢筋力低下 | 6週 | 25.2±2.71 | 11.8±2.48 | <0.001 |
3ヵ月 | 32.3±3.62 | 16.0±3.93 | 0.003 |
結語
本試験は、一次治療が有効であったED-SCLCに対するPCIが、経過観察と比較して症候性脳転移を抑制することを示した第3相試験である。DFS、OSについても良好な結果を示した。PCIによる有害事象が認められたが、重篤なものはなかった。しかし、登録時に脳転移を示唆する症状がなければ頭部画像評価が必須ではなかったこと、効果判定の客観的な指標がなく担当医師に判断が任されていること、化学療法のレジメンやPCIの線量が規定されていなかったことなど、試験デザインに関する問題を指摘された。
その後の本邦で行われた第3相試験ではOSの延長が示せず早期中止となった。その結果を受け、進展型小細胞癌においてPCIは標準的には行われていない。
その後の本邦で行われた第3相試験ではOSの延長が示せず早期中止となった。その結果を受け、進展型小細胞癌においてPCIは標準的には行われていない。
執筆:横浜市立大学附属病院 呼吸器内科学 堂下 皓世 先生
監修:順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学 助教 朝尾 哲彦 先生
監修:順天堂大学大学院 医学研究科 呼吸器内科学 助教 朝尾 哲彦 先生