対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
非小細胞肺癌 | 一次治療 | 第3相 | 全生存期間 | 日本 | あり |
試験名 :WJTOG9904
レジメン:ドセタキセル vs ビノレルビン
登録期間:2000年5月〜2003年9月
背景
非小細胞肺癌の高齢者に対する治療は、過去の前向き研究でビノレルビン(VNR)がBest supportive care(BSC)と比較して生存期間の延長を示し、標準治療として位置づけられていた。
本邦でおこなわれた2つの非小細胞肺癌に対するドセタキセル(DOC)単剤(60mg/m2)の3週毎投与の第2相試験に関して、70歳以上の高齢者でのサブグループ解析を追加で行ったところ、53例の患者の年齢中央値は74歳(70-80歳)で、生存期間中央値10.3ヶ月、奏効割合24.5%という結果であった。以上のことから、DOCは高齢者においても忍容性のある有効な治療と考えられた。
WJTOG 9904試験は、未治療進行非小細胞肺癌の高齢者に対するDOCとVNRの有効性を検討した第3相比較試験である。
本邦でおこなわれた2つの非小細胞肺癌に対するドセタキセル(DOC)単剤(60mg/m2)の3週毎投与の第2相試験に関して、70歳以上の高齢者でのサブグループ解析を追加で行ったところ、53例の患者の年齢中央値は74歳(70-80歳)で、生存期間中央値10.3ヶ月、奏効割合24.5%という結果であった。以上のことから、DOCは高齢者においても忍容性のある有効な治療と考えられた。
WJTOG 9904試験は、未治療進行非小細胞肺癌の高齢者に対するDOCとVNRの有効性を検討した第3相比較試験である。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間
生存期間中央値を60%延長することを期待してVNRで6.4ヶ月、DOCで10.3ヶ月と仮定し、両側α=0.05、検出力80%を得るために両群90例ずつのサンプルサイズの設定とした。中間解析は120例登録後に実施され、試験の継続を決定した。試験結果:
- 2000年5月から2003年9月までに日本の32施設から182例(DOC群90例、VNR92例)が登録された。
- VNR群より二重登録が1例、DOC群より同意撤回が1例あり、ITT集団は180例(DOC群89例、VNR群91例)で全生存期間と無増悪生存期間が解析された。DOC群のうち1例が治療前の病勢進行のため、DOC群88例、VNR群91例で毒性評価と有効性評価はおこなわれた。
- 両群間で患者背景の偏りはみられなかったが、VNR群にPS 2の患者が多い傾向にあった(p=0.057)。
- 治療回数中央値はDOCで4サイクル、VNRで3サイクルと有意差があった(p=0.050)。DOC群で45/88例(51.1%)、VNR群で37/91例(40.7%)が4サイクル治療を完遂した。治療完遂できなかった主な理由としては、病勢進行(DOC群19.3% vsVNR群 35.2%)、有害事象(12.5% vs 9.9%)、主治医判断(6.8% vs 5.5%)、プロトコル違反(3.4% vs 3.3%)、同意撤回(2.3% vs 3.3%)が挙げられた。
- relative dose intensityについては両群でほぼ予定通りの投与が可能であった。(90.7% vs 83.1%)
- 二次治療は85例(DOC群45例、VNR群40例)(47.5%)の患者におこなわれた。DOC群のうち5例が二次治療でVNRを、VNR群のうちの9例がDOCを投与された。二次治療としてゲフィチニブが52例(29.0%)に投与された(DOC群33例(37.5%)、VNR群19例(20.9%))。
1. 全生存期間
DOCは生存期間を延長する傾向がみられたが、統計学的有意差はみられなかった。
中央値 | HR 0.780 (95% CI 0.561-1.085) p=0.138 |
|
DOC | 14.3ヶ月 | |
VNR | 9.9ヶ月 |
2. 奏効割合
DOCはVNRと比較して有意に奏効割合の改善をみとめた。
DOC (n=88) | VNR (n=91) | ||
---|---|---|---|
完全奏効(CR) | 0 | 0 | |
部分奏効(PR) | 20(22.7%) | 9(9.9%) | |
安定(SD) | 47(53.4%) | 45(49.5%) | |
進行(PD) | 18(20.5%) | 34(37.4%) | |
評価不能 | 3(3.4%) | 3(3.3%) | |
奏効割合(95% CI) | 22.7%(13.9-31.5) | 9.9%(3.8-16.0) | p=0.019 |
3. 有害事象
Grade3以上の好中球減少はDOC群で多かったが(p=0.031)、Grade3以上の発熱性好中球減少症や感染の頻度はVNR群と有意差を認めなかった。DOC群で1例、治療関連の肺臓炎による死亡例がみられた。
DOC (N=88) , (%) | VNR(N=91) , (%) | |||||||
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Grade 1 | Grade 2 | Grade 3 | Grade 4 | Grade 1 | Grade 2 | Grade 3 | Grade 4 | |
白血球減少 | 10.2 | 27.3 | 52.3 | 5.7 | 6.6 | 30.8 | 35.2 | 16.5 |
好中球減少 | 0 | 6.8 | 26.1 | 56.8 | 2.2 | 9.9 | 30.8 | 38.5 |
貧血 | 59.1 | 36.4 | 2.3 | 1.1 | 41.8 | 42.9 | 8.8 | 1.1 |
血小板減少 | 13.6 | 0 | 0 | 0 | 26.4 | 0 | 0 | 0 |
AST増加 | 22.7 | 2.3 | 1.1 | 0 | 24.2 | 4.4 | 3.3 | 0 |
ALT増加 | 27.3 | 3.4 | 1.1 | 0 | 19.8 | 5.5 | 2.2 | 0 |
クレアチニン増加 | 11.4 | 0 | 0 | 1.1 | 9.9 | 0 | 0 | 3.3 |
悪心 | 25.0 | 17.0 | 10.2 | 0 | 20.9 | 14.3 | 8.8 | 0 |
嘔吐 | 9.1 | 3.4 | 0 | 0 | 0 | 1.1 | 1.1 | 0 |
発熱性好中球減少症 | - | - | 12.5 | 0 | - | - | 11.0 | 0 |
感染 | 4.5 | 15.9 | 11.4 | 0 | 5.5 | 7.7 | 13.2 | 0 |
便秘 | 26.1 | 14.8 | 2.3 | 0 | 18.7 | 20.9 | 5.5 | 1.1 |
下痢 | 15.9 | 5.7 | 4.5 | 0 | 14.3 | 3.3 | 1.1 | 0 |
粘膜炎 | 10.2 | 5.7 | 0 | 0 | 3.3 | 0 | 0 | 0 |
脱毛症 | 45.5 | 28.4 | - | - | 30.8 | 0 | - | - |
末梢神経障害 | 12.5 | 1.1 | 0 | 0 | 7.7 | 0 | 0 | 0 |
4. QOL
Global QOLスコアでは両群に有意差をみとめなかったが、DOC群はVNR群と比較して、全身の症状に関しては有意な改善をみとめた。
オッズ比(95%信頼区間) | |
---|---|
Global GOL (face scale) | 1.30 (0.80-2.11) |
症状全体 | 1.86 (1.09-3.20) |
咳嗽 | 1.21 (0.64-2.28) |
疼痛 | 0.97 (0.35-2.73) |
食欲低下 | 2.12 (1.02-4.43) |
息切れ | 0.80 (0.42-1.51) |
倦怠感 | 2.38 (1.18-4.81) |
悪心 | 2.06 (0.41-10.23) |
胃腸症状 | 0.99 (0.48-2.05) |
睡眠障害 | 1.05 (0.58-1.91) |
結語
高齢者非小細胞肺癌に対して、DOCはVNRと比較して奏効割合、無増悪生存期間、治療関連症状の改善をみとめた。全生存期間は統計学的に有意な改善をみとめなかったが、本試験の結果をもとにDOCは高齢者非小細胞肺癌に対する本邦の標準治療となった。
執筆:千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科 医員 日野 葵 先生
監修:神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 池田 慧 先生
監修:神奈川県立循環器呼吸器病センター 呼吸器内科 医長 池田 慧 先生