対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
MSI-H/dMMR 大腸癌以外の固形癌 |
二次治療以降 | 第2相 | 奏効割合 | 国際 | あり |
試験名 :KEYNOTE-158
レジメン:ペムブロリズマブ
登録期間:2016年2月1日〜2018年5月8日
背景
ミスマッチ修復欠損(mismatch repair deficiency: dMMR)の頻度は固形癌全体の約2~4%とされている。ミスマッチ修復欠損はリンチ症候群のような遺伝性腫瘍や散発性(より高頻度)に発生し、子宮体癌では17~33%、胃癌では9~22%、大腸癌では6~13%に認められ、他の癌種では頻度が低い(例:膀胱癌、前立腺癌、乳癌、腎細胞癌、膵癌、小細胞肺癌、甲状腺癌、肉腫)。
ミスマッチ修復欠損により生じたDNA複製エラーは、マイクロサテライトと呼ばれるDNAの1〜数塩基の繰り返し配列の部分で起こりやすく、高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability-High: MSI-H)をもたらす。dMMR固形癌は、ミスマッチ修復欠損による高免疫原性に加え、腫瘍細胞のPD-L1発現促進等により免疫寛容機構も獲得しており、免疫チェックポイント阻害薬が有効性を示すと考えられている。
PembroはPD-1に対するヒト化モノクローナル抗体であり、不活性化T細胞のPD-1に結合することにより、癌細胞や免疫細胞上のPD-L1およびPD-L2との結合を阻害することで、T細胞を再活性化し抗腫瘍効果を発現する。MSI-H/dMMRを有する切除不能大腸癌及び、その他の固形癌に対するPembro(10mg/kg、2週毎投与)の有効性を探索した初の臨床試験 [Pubmed] (N=41)においては、マイクロサテライト安定性(microsatellite stable: MSS)大腸癌では奏効割合 0%(0/18)に対し、MSI-H大腸癌で40%(4/10)、大腸癌以外のMSI-H固形癌では71%(5/7)と極めて高い奏効割合を示した。その後、5つの臨床試験におけるMSI-H/dMMR固形癌に対するPembroの有効性の統合解析と併せ、2017年5月に米国食品医薬品局(FDA)は、標準的な治療に不応な切除不能または転移性のMSI-H/dMMR固形癌、およびフッ化ピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンに不応となったMSI-H/dMMR大腸癌に対してPembroを迅速承認した。
本試験は癌腫及び臓器横断的なMSI-HもしくはdMMRという共通のバイオマーカーに基づく初の承認形態であった。わが国においても進行MSI-H固形癌に対してPembroが同様の承認を得ている。
KEYNOTE-158試験は前治療歴を有する大腸癌以外の27癌種の進行性MSI-H/dMMR固形癌を対象に実施されたPembro(200mg、3週毎投与)の有効性と安全性を検討したマルチコホートの第2相試験である。
ミスマッチ修復欠損により生じたDNA複製エラーは、マイクロサテライトと呼ばれるDNAの1〜数塩基の繰り返し配列の部分で起こりやすく、高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability-High: MSI-H)をもたらす。dMMR固形癌は、ミスマッチ修復欠損による高免疫原性に加え、腫瘍細胞のPD-L1発現促進等により免疫寛容機構も獲得しており、免疫チェックポイント阻害薬が有効性を示すと考えられている。
PembroはPD-1に対するヒト化モノクローナル抗体であり、不活性化T細胞のPD-1に結合することにより、癌細胞や免疫細胞上のPD-L1およびPD-L2との結合を阻害することで、T細胞を再活性化し抗腫瘍効果を発現する。MSI-H/dMMRを有する切除不能大腸癌及び、その他の固形癌に対するPembro(10mg/kg、2週毎投与)の有効性を探索した初の臨床試験 [Pubmed] (N=41)においては、マイクロサテライト安定性(microsatellite stable: MSS)大腸癌では奏効割合 0%(0/18)に対し、MSI-H大腸癌で40%(4/10)、大腸癌以外のMSI-H固形癌では71%(5/7)と極めて高い奏効割合を示した。その後、5つの臨床試験におけるMSI-H/dMMR固形癌に対するPembroの有効性の統合解析と併せ、2017年5月に米国食品医薬品局(FDA)は、標準的な治療に不応な切除不能または転移性のMSI-H/dMMR固形癌、およびフッ化ピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンに不応となったMSI-H/dMMR大腸癌に対してPembroを迅速承認した。
本試験は癌腫及び臓器横断的なMSI-HもしくはdMMRという共通のバイオマーカーに基づく初の承認形態であった。わが国においても進行MSI-H固形癌に対してPembroが同様の承認を得ている。
KEYNOTE-158試験は前治療歴を有する大腸癌以外の27癌種の進行性MSI-H/dMMR固形癌を対象に実施されたPembro(200mg、3週毎投与)の有効性と安全性を検討したマルチコホートの第2相試験である。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:客観的奏効割合(ORR) (中央判定:RECIST v1.1)
奏効割合は、点推定値及び二項分布に基づく正確法による95%信頼区間を算出した。症例数の設定根拠は記載なし。試験結果:
- 2016年2月1日から2018年5月8日の間に、18ヶ国55施設より233例が登録された。
- 年齢中央値は60.0歳、女性が58.8%(137/233)であり、59.7%(139/233)が2レジメン以上の治療歴を有していた。
- 登録された癌種は、多い順に子宮体癌 49例(21.0%)、胃癌 24例(10.3%)、胆道癌 22例(9.4%)、膵癌 22例(9.4%)、小腸癌 19例(8.2%)、卵巣癌 15例(6.4%)、脳腫瘍 13例(5.6%)、肉腫 9例(3.9%)、神経内分泌腫瘍 7例(3.0%)、子宮頸癌 6例(2.6%)、前立腺癌 6例(2.6%)、副腎皮質癌 5例(2.1%)、乳癌 5例(2.1%)、甲状腺癌 5例(2.1%)、尿路上皮癌 5例(2.1%)、中皮腫 4例(1.7%)、小細胞肺癌 4例(1.7%)、腎癌 3例(1.3%)、唾液腺癌 2例(0.9%)、肛門管癌 1例(0.4%)、頭頚部扁平上皮癌 1例(0.4%)、上咽頭癌 1例(0.4%)、後腹膜腫瘍 1例(0.4%)、精巣腫瘍 1例(0.4%)、扁桃腺癌 1例(0.4%)、膣癌 1例(0.4%)、外陰癌 1例(0.4%)であった。
- 本解析のデータカットオフは2018年12月6日であり、観察期間中央値は13.4ヶ月(範囲:0.4-34.2)であった。データカットオフ時に36例(15.5%)が治療継続中であった。
- 治療中止となった症例(n=163)の内訳は、病勢進行(n=119, 51.1%)、有害事象(n=29)、患者希望(n=8)、完全寛解(n=3)、主治医判断(n=2)、不適格な投薬(n=1)、追跡不能(n=1)であった。また、34例がPembroの投与(35サイクル)を完遂した。
1. 客観的奏効割合(主要評価項目)
N=233 | No. (%) |
---|---|
奏効割合 [95%信頼区間] |
80 (34.3) [28.3-40.8] |
CR | 23 (9.9) |
PR | 57 (24.5) |
SD | 42 (18.0) |
PD | 92 (39.5) |
NE | 2 (0.9) |
No assessment | 17 (7.3) |
奏効までの期間中央値;ヶ月(範囲) | 2.1 (1.3-10.6) |
奏効期間中央値;ヶ月(範囲) 12ヶ月以上, No. (%) 18ヶ月以上, No. (%) 24ヶ月以上, No. (%) |
未到達 (2.9-31.3+) 58 (86.9) 40 (79.9) 14 (77.6) |
主治医判定:奏効例 | 主治医判定:非奏効例 | 計 | |
---|---|---|---|
中央判定:奏効例 | 71 | 9 | 80 |
中央判定:非奏効例 | 13 | 140 | 153 |
計 | 84 | 149 | 233 |
- 中央判定と主治医判定は高い一致率であった。
- 標的病変の長径和は57.1%(133/233)で治療開始時より縮小傾向を示し、44.2%(103/233)で30%以上の腫瘍縮小を示した。
- 標的病変の長径和が最も減少したがん種は子宮内膜癌で、47例中37例で治療開始時より縮小傾向を示し、47例中33例で30%以上の腫瘍縮小を示した。
2. 無増悪生存期間 (PFS)
症例数 | イベント数 | 中央値 | 95%信頼区間 | 12ヶ月PFS割合 | 24ヶ月PFS割合 |
---|---|---|---|---|---|
233 | 160 (68.7%) | 4.1ヶ月 | 2.4-4.9 | 33.9% | 29.3% |
3. 全生存期間 (OS)
症例数 | イベント数 | 中央値 | 95%信頼区間 | 12ヶ月OS割合 | 24ヶ月OS割合 |
---|---|---|---|---|---|
233 | 113 (48.5%) | 23.5ヶ月 | 13.5-未到達 | 60.7% | 48.9% |
4. がん種別の治療成績(登録数の多いがん腫)
がん種 | 症例数 | CR (N) | PR (N) | 奏効割合 [95%信頼区間] |
PFS中央値 [95%信頼区間] |
OS中央値 [95%信頼区間] |
奏効期間中央値 [範囲] |
---|---|---|---|---|---|---|---|
子宮体癌 | 49 | 8 | 20 | 57.1% [42.2-71.2] |
25.7ヶ月 [4.9-未到達] |
未到達 [27.2-未到達] |
未到達 [2.9-27.0+] |
胃癌 | 24 | 4 | 7 | 45.8% [25.6-67.2] |
11.0ヶ月 [2.1-未到達] |
未到達 [7.2-未到達] |
未到達 [6.3-28.4+] |
胆道癌 | 22 | 2 | 7 | 40.9% [20.7-63.6] |
4.2ヶ月 [2.1-未到達] |
24.3ヶ月 [6.5-未到達] |
未到達 [4.1+-24.9+] |
膵癌 | 22 | 1 | 3 | 18.2% [5.2-40.3] |
2.1ヶ月 [1.9-3.4] |
4.0ヶ月 [2.1-9.8] |
13.4ヶ月 [8.1-16.0+] |
小腸癌 | 19 | 3 | 5 | 42.1% [20.3-66.5] |
9.2ヶ月 [2.3-未到達] |
未到達 [10.6-未到達] |
未到達 [4.3+-31.3+] |
卵巣癌 | 15 | 3 | 2 | 33.3% [11.8-61.6] |
2.3ヶ月 [1.9-6.2] |
未到達 [3.8-未到達] |
未到達 [4.2-20.7+] |
脳腫瘍 | 13 | 0 | 0 | 0.0% [0.0-24.7] |
1.1ヶ月 [0.7-2.1] |
5.6ヶ月 [1.5-16.2] |
― |
+ 最終評価からの病勢進行を認めていない
5. 有害事象
全Grade, N(%) | Grade 3-5, N(%) | |
---|---|---|
全治療関連有害事象 | 151(64.8) | 34(14.6) |
頻度5%以上 | ||
疲労 | 34(14.6) | 2(0.9) |
そう痒症 | 30(12.9) | 0 |
下痢 | 28(12.0) | 0 |
無力症 | 25(10.7) | 1(0.4) |
甲状腺機能低下症 | 19(8.2) | 0 |
関節痛 | 18(7.7) | 0 |
悪心 | 15(6.4) | 0 |
皮疹 | 12(5.2) | 0 |
免疫関連有害事象・インフュージョンリアクション | ||
甲状腺機能低下症 | 21(9.0) | 0 |
甲状腺機能亢進症 | 12(5.2) | 1(0.4) |
肺炎 | 9(3.9) | 3(1.3) |
大腸炎 | 9(3.9) | 2(0.9) |
肝炎 | 4(1.7) | 2(0.9) |
重度の皮疹 | 3(1.3) | 3(1.3) |
筋炎 | 3(1.3) | 0 |
1型糖尿病 | 2(0.9) | 1(0.4) |
インフュージョンリアクション | 2(0.9) | 0 |
腎炎 | 2(0.9) | 0 |
ギランバレー症候群 | 1(0.4) | 1(0.4) |
膵炎 | 1(0.4) | 1(0.4) |
- 治療関連死亡は1例:肺炎
- 重篤な治療関連有害事象を18例(7.7%)に認め、22例(9.4%)において治療関連有害事象による治療中止を認めた。
- 高頻度に生じたGrade 3以上の有害事象はGGT増加(n=4, 1.7%)と肺炎(n=3, 1.3%)であった。
- Grade 4の有害事象を3例に認めた(ギランバレー症候群、ALT増加、好中球数減少と大腸炎の合併が各1例)。
- 担当医により治療関連性に関わらず、免疫関連有害事象およびインフュージョンリアクションは54例(23.2%)に発症した。12例(5.2%)は免疫関連有害事象およびインフュージョンリアクションにより治療中止となった。
- 多くの免疫関連有害事象およびインフュージョンリアクションはGrade 1-2であったが、14例(6.0%)でGrade 3-4であった。2例でGrade 4の免疫関連有害事象(ギランバレー症候群、大腸炎)を生じた。
結語
本研究では切除不能でMSI-H/dMMRを有する大腸癌以外の固形癌既治療例に対してPembroによる抗PD-1療法の持続的な臨床的有用性を示した。有害事象はPembro単剤療法の既報と一致していた。
執筆:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 副医長 白数 洋充 先生
監修:関西医科大学付属病院 がんセンター 学長特命准教授 佐竹 悠良 先生
監修:関西医科大学付属病院 がんセンター 学長特命准教授 佐竹 悠良 先生