対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
進行膵癌 | 二次治療 | 第3相 | 無増悪生存期間 | 国際 | なし |
試験名 :POLO
レジメン:Olaparib vs プラセボ
登録期間:2015年1月〜2019年1月
背景
BRCA1/2遺伝子の機能欠失変異は、卵巣癌や乳癌を増加させるとともに、膵癌も増加させる。同遺伝子変異は、膵癌患者の4〜7%に見られる。BRCAは損傷を受けたDNAの修復に関与する遺伝子である。BRCA遺伝子に変異が生じると、DNAの正常な修復が妨げられ癌化のリスクが高まることが知られている。BRCA遺伝子変異があり、相同修復遺伝子異常が阻害されている状況では、DNA修復に重要なPARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)の阻害は、腫瘍細胞死を誘導する。PARP阻害薬であるOlaparibは、BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有する乳癌、卵巣癌で抗腫瘍効果を発揮し、膵癌においても、第2相試験で有効性を認めた。膵癌におけるOlaparibの維持療法は、新しい概念であるが、過去の試験でも類似のコンセプトが期待されていたことから、第3相試験(POLO試験)が計画された。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:無増悪生存期間(PFS)
Olaparib群の無増悪生存期間のハザード比を0.54と仮定し、片側α=2.5%、検出力80%と設定し、PFSとして87イベントが必要と算出された。必要症例数は145例と算出された。試験結果:
- 全体で3315人が生殖細胞系列BRAC(gBRCA)変異のスクリーニングを受け、そのうち247人(7.5%)にgBRCA変異を認めた。そのうち93人は病勢増悪や適格性、患者・主治医判断で除外された。
- 最終的に154人が登録され、Olaparib群92例、プラセボ群62例の3:2の割合に無作為に割り付けられた。
- 患者背景は、以下に示す通りで両群間の差は認めなかった。
Olaparib群(N=92) | プラセボ群(N=62) | |
---|---|---|
男性, n(%) | 53(58) | 31(50) |
年齢(歳), 中央値(範囲) | 57(37-84) | 57(36-75) |
ECOG-PS, n(%) | ||
0 | 65(71) | 38(61) |
1 | 25(27) | 23(37) |
Missing data | 2(2) | 1(2) |
gBRCA変異, n(%) | ||
BRCA1 | 29(32) | 16(26) |
BRCA2 | 62(67) | 46(74) |
Both BRCA1 and BRCA2 | 1(1) | 0 |
プラチナベースの1次治療, n(%) | ||
FOLFIRINOX | 79(86) | 50(81) |
Gemcitabine-cisplatin | 2(2) | 3(5) |
その他 | 10(11) | 8(13) |
Missing data | 1(1) | 1(2) |
1次化学療法の期間(ヶ月), 中央値 | 5.0 | 5.1 |
1次化学療法の最良総合効果, n(%) | ||
CRまたはPR | 46(50) | 30(48) |
SD | 45(49) | 31(50) |
Missing data | 1(1) | 1(2) |
- データカットオフ時点において、Olaparib群で30人、プラセボ群で8人が維持療法を継続していた。病性増悪に関する追跡期間中央値は、オラパリブ群で9.1ヶ月(0-39.6)、プラセボで群3.8ヶ月(0-29.8)だった。
無増悪生存期間(PFS)(主要評価項目、独立中央画像判定)
中央値 | HR 0.53 (95%C.I. 0.35-0.82) P=0.004 |
|
オラパリブ群 | 7.4ヶ月 | |
プラセボ群 | 3.8ヶ月 |
- 無増悪生存期間中央値はオラパリブ群7.4ヶ月、プラセボ群3.8ヶ月、ハザード比0.53(95%信頼区間 0.35-0.82, p=0.004)とオラパリブ群の優越性が示された。
全生存期間(副次評価項目、独立中央画像判定)
中央値 | HR 0.91 (95%C.I. 0.56-1.46) P=0.68 |
|
オラパリブ群 | 18.9ヶ月 | |
プラセボ群 | 18.1ヶ月 |
- 全生存期間中央値はOlaparib群18.9ヶ月、プラセボ群18.1ヶ月、ハザード比0.91(95%信頼区間 0.56-1.46, p=0.68)と2群間に差はみられなかった。
1. 無増悪生存存期間2(PFS2)(副次評価項目、主治医判定)
- 全生存期間データは不十分であるため、ランダム化から2度目の増悪または死亡までの期間としてPFS2が設定され、全生存期間の代替とされた。
- PFS2の中央値はOlaparib群で13.2ヶ月、プラセボ群で9.2ヶ月、ハザード比0.76(95%信頼区間 0.46-1.23, p=0.26)だった。
2. 奏功割合(副次評価項目)と奏功期間
- 奏功割合はOlaparib群で23.1%、プラセボ群で11.5%だった。奏功期間中央値はOlaparib群で24.9ヶ月、プラセボ群で3.7ヶ月だった。
3. 有害事象(CTCAE ver.4.0)
OLAPARIB群(N=92) | プラセボ群(N=62) | |||
---|---|---|---|---|
全Grade | Grade 3以上 | 全Grade | Grade 3以上 | |
倦怠感または無力症 | 55 (60%) | 5 (5%) | 21 (35%) | 1 (2%) |
嘔気 | 41 (45%) | 0 | 14 (23%) | 1(2%) |
貧血 | 25 (27%) | 10 (11%) | 10 (17%) | 2 (3%) |
腹痛 | 26 (29%) | 2 (2%) | 15 (25%) | 1 (2%) |
下痢 | 26 (29%) | 0 | 9 (15%) | 0 |
食欲不振 | 23 (25%) | 0 | 9 (15%) | 0 |
便秘 | 21 (23%) | 0 | 6 (10%) | 0 |
嘔吐 | 18 (20%) | 1 (1%) | 9 (15%) | 1 (2%) |
AEによる治療中断 | 32 (35%) | NA | 3 (5%) | NA |
AEによる減量 | 15 (16%) | NA | 2 (3%) | NA |
AEによる治療中止 | 5 (5%) | NA | 1 (2%) | NA |
- 治療期間の中央値はOlaparib群で6.0ヶ月、プラセボ群で3.7ヶ月だった。
- Olaparibの有害事象のプロファイルは、他癌腫で観察されたものと類似していた。
4. 健康関Quality of life(QOL)(副次評価項目)
- 両群間で健康関連QOLの差は見られなかった。
結語
プラチナベースの一次治療を16週以上行い、病勢制御が得られたgBRCA変異陽性の遠隔転移膵癌患者に対して、維持療法としてOlaparibを使用した場合、プラセボと比較して有意に無増悪生存期間を改善することが明らかになった。
関連論文
1) Golan T, Kindler HL, Park JP, et al. Geographic and Ethnic Heterogeneity of Germline BRCA1 or BRCA2 Mutation Prevalence Among Patients With Metastatic Pancreatic Cancer Screened for Entry Into the POLO Trial. J Clin Oncol.2020 May 1;38(13):1442-1454. [Pubmed]
執筆:国立がん研究センター東病院 肝胆膵内科 澁木 太郎 先生
監修:神奈川県立がんセンター 消化器内科 肝胆膵 部長 上野 誠 先生
監修:神奈川県立がんセンター 消化器内科 肝胆膵 部長 上野 誠 先生