対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
胃癌/食道胃接合部癌 | 二次治療 | 第3相 | 全生存期間 | ドイツ | なし |
試験名 :なし
レジメン:イリノテカン vs BSC
登録期間:2002年9月〜2006年12月
背景
有効な化学療法薬と分子標的薬剤の登場により二次化学療法の選択肢が増えたが、二次化学療法に対する対応は国や担当医師によって大きく異なり、本試験実施の段階で二次化学療法とベストサポーティブケア(BSC)を比較した第3相試験は報告されていなかった。
いくつかの小規模な第2相試験により、二次化学療法においてタキサン、イリノテカン単剤療法またはフッ化ピリミジン製剤との併用療法の有効性が示された。イリノテカン単剤療法は、シスプラチン/フッ化ピリミジン製剤またはドセタキセルを含む一般的な一次化学療法に対する交差耐性がないことより本試験の投与レジメンとして選択された。
いくつかの小規模な第2相試験により、二次化学療法においてタキサン、イリノテカン単剤療法またはフッ化ピリミジン製剤との併用療法の有効性が示された。イリノテカン単剤療法は、シスプラチン/フッ化ピリミジン製剤またはドセタキセルを含む一般的な一次化学療法に対する交差耐性がないことより本試験の投与レジメンとして選択された。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:全生存期間
これまでに実施された臨床試験における一次治療不応後のBSC症例のデータをもとに、本試験のBSC群の生存期間中央値は2.5ヶ月と仮定された。イリノテカン群で2.5〜4ヶ月の生存延長効果を期待し、α=0.05、検出力80%として計算すると、必要症例数は各群60例と設定された。試験結果:
- 2002年10月から2006年12月までの間に40例が登録された(イリノテカン群 21例、BSC群 19例)。症例集積不良により早期中止となった。
- イリノテカン群の2例は実際に投与されなかったがITT解析(治療企図解析)に含まれた。
- EORTC QLQ C30質問票によるQOL評価も計画されていたが、質問票の回収率が低く解析は実施できなかった。
1. 患者背景
- ECOG PS、前治療内容、一次化学療法終了から増悪までの期間といった層別化因子を含め、両群間で概ねバランスがとれていたが、男女比は偏りを認めた(男性:イリノテカン群 86%/BSC群 58%)。
- 前治療には、全例でシスプラチンが投与されており、39例がシスプラチン+5-FU併用療法、1例がシスプラチン+ドセタキセル併用療法であった。
2. 全生存期間(主要評価項目)
ITT解析 | 症例数 | 中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.48 (95%C.I. 0.25-0.92) p=0.012(片側) p=0.023(両側) |
イリノテカン | 21 | 4.0ヶ月 | 3.6-7.5 | |
BSC | 19 | 2.4ヶ月 | 1.7-4.9 |
- 探索的解析として実際に投与された症例での解析(Per protocol解析:PP解析)が実施され、生存曲線はさらに差がつく結果であった。
PP解析 | 症例数 | 中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.42 (95%C.I. 0.22-0.82) p=0.0046(片側) |
イリノテカン | 19 | 4.9ヶ月 | 3.2-6.5 | |
BSC | 19 | 2.4ヶ月 | 1.7-4.9 |
3. 全生存期間に対する単変量解析
Factor | 症例数 | HR | 95%信頼区間 | p値 (両側) |
---|---|---|---|---|
イリノテカン vs BSC | 40 | 0.48 | 0.25-0.92 | 0.023 |
一次治療終了後から増悪までの期間 >3ヶ月 vs <3ヶ月 |
40 | 0.34 | 0.12-0.99 | 0.039 |
食道胃接合部 vs 胃 | 40 | 0.79 | 0.42-1.52 | 0.49 |
男性 vs 女性 | 40 | 0.49 | 0.24-1.03 | 0.056 |
組織診断:Intestinal vs Diffuse | 35 | 0.48 | 0.21-1.07 | 0.069 |
ECOG PS 0-1 vs 2 | 40 | 0.53 | 0.24-1.15 | 0.10 |
一次治療の有効性:CR/PR/SD vs PD | 40 | 0.55 | 0.28-1.09 | 0.086 |
- 予後因子解析の結果、イリノテカンによる二次化学療法が最も予後に影響を及ぼす因子であった。一次治療終了後から増悪までの期間も有意な因子であった。
4. イリノテカン群の無増悪生存期間
症例数 | 中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|---|
ITT解析 | 21 | 2.5ヶ月 | 1.6-3.9 |
PP解析 | 19 | 2.6ヶ月 | 1.7-4.3 |
5. イリノテカン群の奏効割合 (WHO基準)
症例数 | 奏効割合 | 6週時点での病勢制御割合 |
---|---|---|
19 | 0 % | 53% |
- イリノテカン群における評価可能症例は19例であった。
6. 腫瘍関連症状改善割合
腫瘍関連症状を有する症例 | 症状改善割合 | |
---|---|---|
イリノテカン | n=18 | 50% |
BSC | n=15 | 7% |
7. 投与状況
- イリノテカンの投与回数中央値は2回(範囲:0-9)であった。
- イリノテカンを投与された症例の37%がプロトコールに準じて350mg/m2まで増量できた。
- イリノテカン群の3例はイリノテカン投与後、三次化学療法を受けた(それぞれ、ドセタキセル、エピルビシン+シスプラチン+5-FU、マイトマイシンC)。
- BSC群に割り付けられた症例の内、2例が患者希望/医師判断で化学療法を受けた(それぞれ、イリノテカン、パクリタキセル)。この2例はITT解析に含まれた。
8. イリノテカン群(N=19)の有害事象 (NCI-CTC ver.2.0)
N (%) | Grade 3 | Grade 4 |
---|---|---|
白血球減少 | 3 (16) | 1 (5) |
貧血 | 2 (11) | - |
悪心 | 1 (5) | - |
嘔吐 | 1 (5) | - |
下痢 | 5 (26) | - |
発熱性好中球減少 | 2 (11) | 1 (5) |
結語
二次化学療法としてのイリノテカンはBSCと比較し、有意に生存期間を延長した。二次化学療法は転移性/局所進行胃癌に対する、実証された治療オプションと見なすことができる。
執筆:独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 消化器内科 医師 長谷川 裕子 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生