対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
大腸癌 | 一次治療 | 第3相 | 無増悪生存期間 | 国際 | なし |
試験名 :N9741
レジメン:FOLFOX4 vs IROX vs IFL
登録期間:1999年5月〜2001年4月
背景
長年、切除不能進行再発大腸癌に対する有用な薬剤は5-FUに限定され、2000年以前の北米では5-FU/ロイコボリン(LV) の急速静注が標準治療であった。欧州では、de Gramontらにより、LV5FU2レジメン(急速静注+持続静注/2週毎)がMayoレジメン(5日連日/4週毎の静注法)と比較して奏効割合で優れることが示された。1990年代に、進行大腸癌に対する新規薬剤としてイリノテカンとオキサリプラチンが登場し、IFL(イリノテカン+5-FU/LV急速静注)が奏効割合39%、無増悪生存期間中央値7ヶ月、全生存期間中央値14.8ヶ月と良好であることが示された。一方、FOLFOX4(LV5FU2+オキサリプラチン)は奏効割合51%、無増悪生存期間9.0ヶ月であることが第3相試験(EFC4584)で示され、また第1/2相試験において、IROX(イリノテカン+オキサリプラチン/3週毎)はIFLと同程度の有用性が報告された。当初、本試験(N9471)は5-FU/LVを対照に様々なスケジュールのイリノテカン併用療法の有効性を検証することを目的に開始されたが、前述のような研究結果を鑑み、IFLを対照にFOLFOX4、IROXの有効性を検証するよう改訂され実施された。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:無増悪生存期間
IFL群を対照として各群の無増悪生存期間のハザード比が0.75となることを検証(両側α=0.025、検出力=90%)。必要症例数は各群375例であったが、途中、登録症例数の点より検出力を80%とした。
試験結果:
- 1999年5月〜2001年5月の間に5つの研究グループより795例が登録された。
- 各群の層別化因子と患者特性は均衡であった。
- 21例(2.6%)が不適格とみなされた。
- 観察期間中央値は20.4ヶ月、85%の症例で増悪を認めた。
1. 無増悪生存期間 (主要評価項目)
中央値 | HR 0.72 (95%C.I. 0.60-0.87) P = 0.001 |
||
FOLFOX4 | 8.7ヶ月 | HR 0.74 (95%C.I. 0.61-0.89), P = 0.0014 | |
IROX | 6.5ヶ月 | HR 1.02 (95%C.I. 0.85-1.23), P > 0.50 | |
IFL | 6.9ヶ月 |
2. 全生存期間
中央値 | ||
FOLFOX4 | 19.5ヶ月 | HR 0.66 (95%C.I. 0.54-0.82), P = 0.0001 |
IROX | 17.4ヶ月 | HR 0.81 (95%C.I. 0.66-1.00), P = 0.04 |
IFL | 15.0ヶ月 |
3. 奏効割合
奏効割合 | ||
FOLFOX4 | 45% | P = 0.002 |
IROX | 35% | P = 0.34 |
IFL | 31% |
4. 増悪または死亡による治療中止割合
割合 | ||
FOLFOX4 | 42% | P < 0.001 |
IROX | 55% | P = 0.004 |
IFL | 67% |
5. 有害事象(Grade 3以上)
FOLFOX4 (n=258) | IROX (n=256) | IFL (n=255) | |||
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% | p | % | p | % | |
悪心 | 6 | 0.001 | 19 | 0.43 | 16 |
嘔吐 | 3 | 0.001 | 22 | 0.02 | 14 |
下痢 | 12 | 0.001 | 24 | 0.35 | 28 |
発熱性好中球減少 | 4 | 0.001 | 11 | 0.23 | 15 |
脱水 | 4 | 0.03 | 6 | 0.17 | 9 |
錯覚感 | 18 | 0.001 | 7 | 0.04 | 3 |
好中球減少 | 50 | 0.04 | 36 | 0.35 | 40 |
6. 60日以内の早期死亡割合
割合 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|
FOLFOX4 | 2.6% | 1.1 – 5.3 |
IROX | 2.7% | 1.1 – 5.4 |
IFL | 4.5% | 2.4 – 7.8 |
7. 二次治療移行
FOLFOX4 (n=259) | IROX (n=262) | IFL (n=251) | |
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全レジメン 全体 PD前 |
75% 26% |
70% 26% |
67% 32% |
イリノテカン 全体 PD前 |
60% 25% |
32% 10% |
25% 9% |
オキサリプラチン 全体 PD前 |
8% 3% |
9% 3% |
24% 17% |
5-FU 全体 PD前 |
40% 14% |
50% 21% |
41% 18% |
結語
切除不能進行再発大腸癌に対する初回治療として、 FOLFOX4療法はIFL療法と比較して、無増悪生存期間、全生存期間および奏効割合で有意に優れ、Grade 3以上の有害事象の発生割合は、神経障害を高頻度に認めたものの、消化器毒性および発熱性好中球減少症は有意に低かった。以上より、FOLFOX4療法は切除不能進行再発大腸癌に対する標準治療と考えるべきである。
執筆:静岡県立静岡がんセンター 消化器内科 レジデント 瀧浪 将貴先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 治験管理室 部長、消化器内科 医長 山﨑 健太郎先生
監修:静岡県立静岡がんセンター 治験管理室 部長、消化器内科 医長 山﨑 健太郎先生