食道癌 JCOG9204

Surgery plus chemotherapy compared with surgery alone for localized squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus: a Japan Clinical Oncology Group Study - JCOG9204.

Ando N, Iizuka T, Ide H, et al. J Clin Oncol. 2003 Dec 15;21(24):4592-6. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
食道扁平上皮癌術後
(pStage II/III/IV(M1 lymのみ))
術後補助化学療法 第3相 無病生存期間 国内 あり

試験名 :JCOG9204

レジメン:手術単独 vs 手術+術後補助化学療法(5-FU+シスプラチン)

登録期間:1992年7月〜1997年1月

背景

本邦では食道癌に対する標準治療として、拡大リンパ節郭清を伴う経胸アプローチによる食道切除術が行われているが、治療成績をさらに改善するためには、集学的治療の開発が必要である。
JCOG8806試験では、食道癌術後の補助化学療法としてシスプラチン+ビンデシン併用療法の有効性を検討されたが、術後補助化学療法群の手術単独群に対する生存率の改善効果は認めなかった。その一方で、JCOG8807試験では進行食道癌に対する5-FU+シスプラチン併用療法が奏効割合 36%と良好な成績を示しているため、 5-FU+シスプラチン併用療法の術後補助化学療法としての有効を検証する目的に本試験が実施された。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:無病生存期間

本試験は手術単独群を対照として術後補助化学療法(5-FU+シスプラチン)群の5年無病生存割合の上乗せを13%(手術単独群 40% vs 術後補助療法群 53%)と想定し、片側α=0.05、検出力80%として290人の登録が必要と設定された。

試験結果:

  • 登録期間が4年を過ぎても目標症例数の290例には到達せず、1997年3月に登録中止が決定された。
  • 主要解析は1998年10月に実施され、術後補助化学療法群の無病生存期間は手術単独群に対して統計学的に有意ではなかったが良好な傾向であり(片側p=0.051, 非調整ログランク検定)、研究グループは次の第3相試験の標準治療に5-FU+シスプラチンによる術後補助化学療法を採用することを決定した。
  • 経過観察は継続され、本論文の再解析は2001年12月に実施された。
  • 1992年7月〜1997年1月の間に日本国内 17施設より242例が登録され、手術単独群に122例、術後補助化学療法群に120例が割り付けられた。
  • この242例は、試験期間中に各施設で切除された食道癌症例 2403例のうちの10.1%であり、適格基準を満たした511例の内の47.4%であった。
  • 手術単独群の1例(切除断端陽性)と術後補助化学療法療法群の2例(術後8か月後での登録が1例、76歳の1例)が適格基準を満たしていなかったが、この3例は全解析対象とした。
  • 登録症例の観察期間中央値は62.8カ月であった。
1. 患者背景
  • 患者背景は両群間でバランスがとれていた。
  • 2領域リンパ節郭清(縦隔+腹腔内)は手術単独群の61例で、術後補助化学療法群の46例で施行された。3領域リンパ節郭清(縦隔+腹腔内+頚部)は手術単独群の61例で、術後補助化学療法群の74例で施行された。
2. 投与状況
  • 術後補助化学療法群では29例が予定された治療を完遂できなかった。その内、21例は有害事象や患者拒否により1サイクルしか化学療法が施行されなかった。
  • 8例は化学療法が実施されず、その内、6例は患者拒否であった。
3. 無病生存期間 (主要評価項目)
  5年無病生存割合 95%信頼区間 p=0.037
手術単独群 45% 36-54
術後補助化学療法群 55% 46-64

Unadjusted HR 0.73 (95%C.I. 0.51-1.03)
Adjusted HR* 0.75 (95%C.I. 0.52-1.07)

*年齢, 性別, ECOG PS, 腫瘍局在, 深達度, リンパ節転移, 遠隔リンパ節転移, リンパ節郭清範囲で調整

4. 無病生存期間に関するサブ解析
5年無病生存割合 手術単独群 術後補助化学療法群 p値
リンパ節転移なし 76% 70% 0.433
リンパ節転移あり 38% 52% 0.041
  • リンパ節転移なし:手術単独群 n=21/術後補助化学療法群 n=23、リンパ節転移あり:手術単独群 n=101/術後補助化学療法群 n=97
  • より深達度が深い症例(T3-4)やPSが良い症例(ECOG PS 0)で術後補助化学療法群の治療効果が強い傾向は観察された(データの詳細は明記されず) 。
5. 全生存期間
  5年生存割合 95%信頼区間 p=0.13
手術単独群 52% 43-61%
術後補助化学療法群 61% 52-70%
6. 術後補助化学療法による有害事象 (WHO規準)
  WHO Grade (No. of Case)
  0 1 2 3 4
貧血 44 59 14 2 0
白血球減少 36 48 30 5 0
好中球数減少 29 24 30 19 3
血小板数減少 98 15 3 3 0
悪心/嘔吐 28 50 29 10 0
下痢 60 39 15 3 0
口腔粘膜炎 95 17 5 0 0
クレアチニン増加 114 5 1 0 0
不整脈 112 1 3 0 1
感染症 111 4 1 0 1
発熱 96 18 2 0 1
  • 1例が術後補助化学療法1コース目終了時にチアミン欠乏症による乳酸アシドーシスにて死亡し、治療関連死亡と判断された。
7. 再発部位および再発後の治療内容
再発部位 手術単独群
n=54
術後補助化学療法群
n=36
頚部リンパ節 17 8
縦隔リンパ節 30 12
腹腔内リンパ節 9 6
5 7
11 12
1 8
その他 13 8
  • 手術単独群では63例が再発し、54例(86%)で再発に対する治療が行われた。術後補助化学療法群では45例が再発し、36例(80%)で再発に対する治療が行われた。
  • 頚部/縦隔リンパ節転移再発の頻度は手術単独群でやや高率であった。
  • 上記表は再発後の治療施行例についての記載
再発に対する治療法 手術単独群
n=54
術後補助化学療法群
n=36
化学療法 11 7
放射線療法 16 14
化学放射線療法 19 9
手術+化学療法, 放射線療法 8 6
  • 化学放射線療法が選択された頻度は手術単独群で高率だった。
  • 上記表は再発後の治療施行例についての記載
結語
本試験の結果より、術後補助化学療法(5-FU+シスプラチン)は手術単独と比較し、食道扁平上皮癌症例の再発抑制効果を示した。本試験の結果を受けて、5-FU+シスプラチン併用療法を用いた術後補助化学療法と術前補助化学療法を比較する無作為化比較試験(JCOG9907試験)が開始された。
執筆:九州大学大学院 消化器・総合外科 助教 中島 雄一郎 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生

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