対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
胃癌 | 一次治療 | 第3相 | 無増悪生存期間 全生存期間 |
国内 | あり |
試験名 :G-SOX
レジメン:S-1+シスプラチン vs S-1+オキサリプラチン
登録期間:2010年1月〜2011年10月
背景
本試験の立案当時、進行胃癌に対する一次化学療法として、シスプラチン+フッ化ピリミジン系薬剤±エピルビシン or ドセタキセルが広く使用されていた。AIO(ドイツ)では5-FU+ロイコボリン+シスプラチンに対する5-FU+ロイコボリン+オキサリプラチンの同等性を報告し、REAL-2試験ではエピルビシン+フッ化ピリミジン系薬剤+シスプラチンに対するエピルビシン+フッ化ピリミジン系薬剤+オキサリプラチンの同等性が示された。
本邦ではその当時、 JCOG9912試験/SPIRITS試験の結果に基づき、標準的一次化学療法はS-1+シスプラチン療法であった。米国で行われたFLAGS試験ではS-1+シスプラチン療法が5-FU+シスプラチンに匹敵する可能性を示唆した。その後、本邦でS-1+オキサリプラチン療法の有効性を検証する第2相試験が実施され、無増悪生存期間中央値 6.5ヶ月、生存期間中央値 16.5ヶ月と有望な治療成績であったことから、切除不能進行・再発胃癌において、標準治療であるS-1+シスプラチン療法に対するS-1+オキサリプラチン療法の有効性と安全性を検証する本試験(非劣性試験)が実施されるに至った。
本邦ではその当時、 JCOG9912試験/SPIRITS試験の結果に基づき、標準的一次化学療法はS-1+シスプラチン療法であった。米国で行われたFLAGS試験ではS-1+シスプラチン療法が5-FU+シスプラチンに匹敵する可能性を示唆した。その後、本邦でS-1+オキサリプラチン療法の有効性を検証する第2相試験が実施され、無増悪生存期間中央値 6.5ヶ月、生存期間中央値 16.5ヶ月と有望な治療成績であったことから、切除不能進行・再発胃癌において、標準治療であるS-1+シスプラチン療法に対するS-1+オキサリプラチン療法の有効性と安全性を検証する本試験(非劣性試験)が実施されるに至った。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:無増悪生存期間/全生存期間
症例数の計算は無増悪生存期間を元に算出された。非劣勢検証はPer protocol集団(PP集団:適格性を満たし、実際に投与された症例)で行われた。無増悪生存期間の非劣勢マージンは過去に報告されたSPIRITS試験とS-1+オキサリプラチンの第2相試験結果を基に1.30と設定され、片側 α=0.025、検出率80%で計画され、必要イベント数は456、必要症例数は600例と計算された。しかし、計画された期間内に必要イベントを集積するのは困難と判断されたため、必要症例数は680例に修正された。全生存期間に関してはS-1+オキサリプラチン群とS-1+シスプラチン群の生存期間中央値をそれぞれ14.5ヶ月/13.0ヶ月と推定し、片側 α=0.025、検出率80%で計画され、非劣勢マージン 1.15と設定された(必要イベント数 508)。
試験結果:
- 2010年1月から2011年10月までの間に日本全国51施設より685例が登録された(S-1+オキサリプラチン群 343例、S-1+シスプラチン群 342例)。
- 上記症例から試験治療が行われなかった症例(未投与例/治験薬ではなく保険診療薬を使用した症例)を除いたS-1+オキサリプラチン群 338例、S-1+シスプラチン群 335例が安全性解析集団となった。
- さらに不適格症例を除いたS-1+オキサリプラチン群 318例、S-1+シスプラチン群 324例をPer protocol集団(PP集団:適格性を満たし、実際に投与された症例)として有効性の解析対象となった。
- 患者背景は、概ねバランスがとれていた。
1. 無増悪生存期間(主要評価項目)
PP集団 | 症例数 | イベント数 | 中央値 | 95%信頼区間 | HR 1.004 (95%C.I. 0.840-1.199), p=0.0044(非劣勢) |
S-1+オキサリプラチン | 318 | 260 | 5.5ヶ月 | 4.4-5.7 | |
S-1+シスプラチン | 324 | 249 | 5.4ヶ月 | 4.2-5.7 |
- 無増悪生存期間の観察期間中央値は6.9ヶ月(四分位範囲 2.9-9.6)であった。
2. 全生存期間(主要評価項目)
PP集団 | 症例数 | イベント数 | 中央値 | 95%信頼区間 | HR 0.969 (95%C.I. 0.812-1.157) |
S-1+オキサリプラチン | 317 | 249 | 14.1ヶ月 | 13.0-15.8 | |
S-1+シスプラチン | 324 | 259 | 13.1ヶ月 | 12.1-15.1 |
- 全生存期間の観察期間中央値は25.9ヶ月(四分位範囲 21.0-29.2)であった。
- S-1+オキサリプラチン群の1例(ECOG PS 2で術後補助化学療法歴のある症例)が解析に含まれておらず、この症例を含めた解析だとHR 0.958 (95%信頼区間 0.803-1.142)であった。
- ITT解析集団(S-1+オキサリプラチン群 339例、S-1+シスプラチン群 337例)での解析では、無増悪生存期間:HR 0.979 (95%信頼区間 0.821-1.167)、全生存期間:HR 0.934 (95%信頼区間 0.786-1.108)であった。
3. 全生存期間に関するサブ解析
- S-1+オキサリプラチン群において腹膜播種を有する症例の予後が有意に良好であった(HR 0.646, 95%信頼区間 0.433-0.964)。
- 多変量解析(下表)では、ECOG PS 1-2、初回切除不能、びまん型(Diffuse type)、腫瘍径の総和(中央値以上)が予後不良因子であった。
因子 | 分類 | HR | 95%信頼区間 | P値 |
---|---|---|---|---|
レジメン | S-1+オキサリプラチン (vs S-1+シスプラチン) | 0.955 | 0.802-1.138 | 0.61 |
性別 | 男性 (vs 女性) | 1.108 | 0.904-1.357 | 0.32 |
年齢 (歳) | 70歳以上 (vs 70歳未満) | 0.924 | 0.762-1.119 | 0.42 |
ECOG PS | 1,2 (vs 0) | 1.603 | 1.328-1.935 | <0.0001 |
病態 | 再発 (vs 初回切除不能) | 0.588 | 0.451-0.767 | 0.0001 |
組織型 | びまん型[Diffuse] (vs 腸型[Intestinal]) | 1.378 | 1.151-1.649 | 0.0005 |
腹膜播種 | あり (vs なし) | 1.099 | 0.878-1.377 | 0.41 |
腫瘍径の総和 | 中央値以上 (vs 中央値未満) | 1.437 | 1.195-1.728 | 0.0001 |
ALP | 中央値以上 (vs 中央値未満) | 1.097 | 0.916-1.315 | 0.31 |
4. 奏効割合/病勢制御割合
S-1+オキサリプラチン | S-1+シスプラチン | |
---|---|---|
CR PR SD |
2 175 94 |
4 165 96 |
奏効割合 | 55.7% | 52.2% |
病勢制御割合 | 85.2% | 81.8% |
- 無作為化から30%の腫瘍縮小が得られるまでの期間中央値(95%信頼区間):
S-1+オキサリプラチン群 1.5ヶ月(1.4-2.5)
S-1+シスプラチン群 1.5ヶ月(1.4-1.6)
5. 投与状況
- 投与サイクル中央値(範囲):
S-1+オキサリプラチン群 7.0サイクル(1-43)
S-1+シスプラチン群 5.0サイクル(1-19) - 相対用量強度は以下の通り
オキサリプラチン (四分位範囲) |
シスプラチン (四分位範囲) |
S-1 (四分位範囲) |
|
---|---|---|---|
S-1+オキサリプラチン | 79.0% (62.3-95.1) |
ー | 78.9% (65.9-91.3) |
S-1+シスプラチン | ー | 80.7% (64.2-94.6) |
79.8% (68.1-90.0) |
6. 有害事象 (CTCAE ver.3.0)
N (%) | S-1+オキサリプラチン (n=338) |
S-1+シスプラチン (n=335) |
P値 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
全Grade | Grade 3以上 | 全Grade | Grade 3以上 | 全Grade | Grade 3以上 | |
白血球減少 | 205 (60.7) | 14 (4.1) | 248 (74.0) | 65 (19.4) | 0.0002 | <0.0001 |
好中球数減少 | 233 (68.9) | 66 (19.5) | 266 (79.4) | 140 (41.8) | 0.0019 | <0.0001 |
貧血 | 187 (55.3) | 51 (15.1) | 247 (73.7) | 109 (32.5) | <0.0001 | <0.0001 |
血小板数減少 | 265 (78.4) | 34 (10.1) | 232 (69.3) | 35 (10.4) | 0.0069 | 0.87 |
発熱性好中球減少症 | 3 (0.9) | 3 (0.9) | 23 (6.9) | 23 (6.9) | <0.0001 | <0.0001 |
血中ビリルビン増加 | 131 (38.8) | 9 (2.7) | 80 (23.9) | 4 (1.2) | <0.0001 | 0.17 |
AST増加 | 205 (60.7) | 10 (3.0) | 77 (23.0) | 4 (1.2) | <0.0001 | 0.11 |
ALT増加 | 136 (40.2) | 10 (3.0) | 80 (23.9) | 3 (0.9) | <0.0001 | 0.052 |
クレアチニン増加 | 30 (8.9) | 1 (0.3) | 132 (39.2) | 6 (1.8) | <0.0001 | 0.056 |
低ナトリウム血症 | 74 (21.9) | 15 (4.4) | 154 (46.0) | 45 (13.4) | <0.0001 | <0.0001 |
下痢 | 163 (48.2) | 19 (5.6) | 196 (58.5) | 25 (7.5) | 0.0075 | 0.33 |
悪心 | 208 (61.5) | 13 (3.8) | 231 (69.0) | 13 (3.9) | 0.043 | 0.98 |
口腔粘膜炎 | 109 (32.2) | 5 (1.5) | 138 (41.2) | 4 (1.2) | 0.016 | 0.75 |
食欲不振 | 252 (74.6) | 52 (15.4) | 271 (80.9) | 62 (18.5) | 0.048 | 0.28 |
末梢性感覚ニューロパチー | 289 (85.5) | 16 (4.7) | 79 (23.6) | 0 (0) | <0.0001 | <0.0001 |
重篤な有害事象 | 99 (29.3) | 127 (37.9) | 0.017 | |||
治療関連死亡 | 4例 | 8例 | - |
- Grade 3以上の白血球減少、好中球数減少、貧血、発熱性好中球減少症、低ナトリウム血症はS-1+シスプラチン群で有意に高かった。一方、Grade 3以上の末梢性感覚ニューロパチーはS-1+オキサリプラチン群で有意に高かった。
- 血小板数減少は両群間で明らかな差違は認めなかった。
7. Grade 3以上の発熱性好中球減少症に関する解析
S-1+オキサリプラチン | S-1+シスプラチン | |
---|---|---|
Ccr 70mL/min未満 Ccr 70mL/min以上 |
3/113 (2.7%) 0/225 (0%) |
12/111 (10.8%) 11/224 (4.9%) |
70歳未満 70歳以上 |
1/224 (0.4%) 2/114 (1.8%) |
12/234 (5.1%) 11/101 (10.9%) |
8. 二次化学療法
S-1+オキサリプラチン | S-1+シスプラチン | |
---|---|---|
二次化学療法導入 | 261/308 (84.7%) | 269/319 (84.3%) |
タキサン系併用 イリノテカン併用 S-1併用 |
131/261 (50.2%) 87/261 (33.3%) 20/261 (7.7%) |
102/269 (37.9%) 84/269 (31.2%) 46/269 (17.1%) |
結語
進行胃癌に対するS-1+オキサリプラチン療法は、S-1+シスプラチン療法と同程度の有効性を示した。一般的にS-1+オキサリプラチン療法は有害事象の頻度が少なく、シスプラチンと異なりHydrationも不要で臨床的に有用であるため、S-1+オキサリプラチン療法はS-1+シスプラチン療法に置き換わり得ると考えられた。
執筆:独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 消化器内科 医師 長谷川 裕子 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生
監修:北海道大学病院 消化器内科 助教 結城 敏志 先生