対象疾患 | 治療ライン | 研究の相 | 主要評価項目 | 実施地域 | 日本の参加 |
---|---|---|---|---|---|
胃癌/食道胃接合部癌 | 二次治療 | 第3相 | CPS≧1症例における無増悪生存期間 および全生存期間 |
国際 | あり |
試験名 :KEYNOTE-061
レジメン:パクリタキセル vs ペムブロリズマブ
登録期間:2015年6月〜2016年7月
背景
ペムブロリズマブ(Pembro)はprogrammed-cell death 1(PD-1)に結合するヒト化高親和性IgG4-κモノクローナル抗体であり、PD-1 ligand 1(PD-L1)、PD-1 ligand 2(PD-L2)とPD-1との結合を阻害することにより、腫瘍特異的な細胞傷害性T細胞を活性化させ、腫瘍増殖を抑制すると考えられている。
Pembroは2レジメン以上の治療に不応となった胃がんを対象としたKEYNOTE-059試験において奏効割合 11.6%を示し、PD-L1 combined positive score (CPS) ≧1の三次治療症例に限定すれば、22.7%の奏効割合を示した1)。この結果を基に、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)はPD-L1 CPS≧1の発現を有する胃がん/食道胃接合部がんにおいてPembroを三次治療以降の治療として承認した。
これらの結果を基に、二次治療におけるPembroの有効性を検証する第3相試験として本試験が行われた。
シェーマ
統計学的事項
主要評価項目:PD-L1 CPS≧1症例における全生存期間と無増悪生存期間
副次的評価項目:全奏効割合、奏効期間、全登録症例における全生存期間と無増悪生存期間
RAINBOW試験の結果より、PTX群の生存期間中央値を7.5ヵ月と推定し、Pembro群のPTX群に対するハザード比を0.67と設定した。登録期間14ヵ月で脱落率が年間2%とした場合、片側有意水準 0.0215、検出力 91%で、CPS≧1の症例が360例必要と計算された。中間解析を経てαが消費されたため、最終的には全生存期間の有意水準はp=0.0135(片側)となった。試験結果:
- 2015年6月4日から2016年7月26日までに983例がスクリーニングされ、592例がPembro群(296例)とPTX群(296例)に無作為化割り付けされた。実際に薬剤投与がなされたのはPembro群(294例)、PTX群(276例)であった。
- 395例がPD-L1 CPS≧1(Pembro群196例、PTX群199例)であり、その中で実際に薬剤投与がなされたのはPembro群 194例、PTX群 188例であった。
- 患者背景は全登録症例・PD-L1 CPS≧1症例のいずれも両群間に偏りはなく、男性、胃原発、HER2陰性、一次治療開始後6ヶ月以内の不応症例が多く登録されていた。
- 2017年10月26日のデータカットオフ時点で、全登録症例の観察期間中央値は7.9ヶ月(四分位範囲 3.4-14.6)、PD-L1 CPS≧1症例の観察期間中央値は8.5ヶ月(四分位範囲 3.7-15.7)であった。
- データカットオフ時点でPTX継続症例はいなかったが、Pembro群は全登録症例を対象とした場合、15例(5%)が投与継続中であった(PD-L1 CPS≧1症例を対象とした場合は13例[7%])。
- Pembro群の全登録症例の内、8例(3%)がPembro投与を完遂していた(PD-L1 CPS≧1症例を対象とした場合は7例[4%])。
1. 全生存期間
1) PD-L1 CPS≧1(主要評価項目)
N | イベント | 中央値 | 95%信頼区間 | 12ヶ月生存割合 | 18ヶ月生存割合 | |
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Pembro群 | 196 | 151(77%) | 9.1ヶ月 | 6.2-10.7 | 40% | 26% |
PTX群 | 199 | 175(88%) | 8.3ヶ月 | 7.6-9.0 | 27% | 15% |
HR 0.82 (95%信頼区間 0.66-1.03), p=0.0421 (片側)
2) PD-L1 CPS≧1かつECOG PS 0
N | 中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|---|
Pembro群 | 88 | 12.3ヶ月 | 9.7-15.9 |
PTX群 | 92 | 9.3ヶ月 | 8.3-10.5 |
HR 0.69 (95%信頼区間 0.49-0.97)
3) PD-L1 CPS≧1かつECOG PS 1
N | 中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|---|
Pembro群 | 108 | 5.4ヶ月 | 3.7-7.7 |
PTX群 | 106 | 7.5ヶ月 | 5.3-8.4 |
HR 0.98 (95%信頼区間 0.73-1.32)
- 全生存期間におけるサブグループ解析(PD-L1 CPS≧1)では、ECOG PS 0に加えて、食道胃接合部がん(HR 0.61, 95%信頼区間 0.41-0.90)においてPembro群で良好な傾向を認めたが、他はほぼ両治療群で同等の治療成績であった。
4) PD-L1 CPS≧10 (Post-hoc解析)
N | 中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|---|
Pembro群 | 53 | 10.4ヶ月 | 5.9-17.3 |
PTX群 | 55 | 8.0ヶ月 | 5.1-9.9 |
HR 0.64 (95%信頼区間 0.41-1.02)
5) MSI-H (Post-hoc解析)
N | 中央値 | 95%信頼区間 | |
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Pembro群 | 15 | 未到達 | 5.6-未到達 |
PTX群 | 12 | 8.1ヶ月 | 2.0-16.7 |
HR 0.42 (95%信頼区間 0.13-1.31)
6) PD-L1 CPS<1
N | 中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|---|
Pembro群 | 99 | 4.8ヶ月 | 3.9-6.1 |
PTX群 | 96 | 8.2ヶ月 | 6.8-10.6 |
HR 1.20 (95%信頼区間 0.89-1.63)
2. 無増悪生存期間
PD-L1 CPS≧1(主要評価項目)
N | イベント | 中央値 | 95%信頼区間 | 12ヶ月無増悪生存割合 | |
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Pembro群 | 196 | 177(90%) | 1.5ヶ月 | 1.4-2.0 | 14% |
PTX群 | 199 | 184(94%) | 4.1ヶ月 | 3.1-4.2 | 9% |
HR 1.27 (95%信頼区間 1.03-1.57)
- D-L1 CPS<1のサブグループにおける無増悪生存期間はPembro群で不良だった(HR 2.05, 95%信頼区間 1.50-2.79)。
3. 奏効割合
N | 奏効割合 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|---|
Pembro群 | 196 | 16% | 11-22 |
PTX群 | 199 | 14% | 9-19 |
- 完全奏効(CR)はPembro群:7例(4%)、PTX群:5例(3%)であった。
N (%) | N | CR | PR | 奏効割合 | |
---|---|---|---|---|---|
PD-L1 CPS≧10 | Pembro群 PTX群 |
53 55 |
5 (9.4) 1 (1.8) |
8 (15.1) 4 (7.3) |
13 (24.5) 5 (9.1) |
PD-L1 CPS<1 | Pembro群 PTX群 |
99 96 |
0 (0) 2 (2.1) |
2 (2.0) 8 (8.3) |
2 (2.0) 10 (10.4) |
PD-L1 CPS≧1 かつECOG PS 0 |
Pembro群 PTX群 |
88 92 |
4 (4.5) 1 (1.1) |
13 (14.8) 15 (16.3) |
17 (19.3) 16 (17.4) |
PD-L1 CPS≧1 かつECOG PS 1 |
Pembro群 PTX群 |
108 106 |
3 (2.8) 4 (3.8) |
11 (10.2) 7 (6.6) |
14 (13.0) 11 (10.4) |
MSI-H | Pembro群 PTX群 |
15 12 |
1 (6.7) 1 (8.3) |
6 (40.0) 1 (8.3) |
7 (46.7) 2 (16.7) |
4. 奏効期間
奏効例 | 中央値 | 95%信頼区間 | |
---|---|---|---|
Pembro群 | 31 | 18.0ヶ月 | 8.3-推定不能 |
PTX群 | 27 | 5.2ヶ月 | 3.2-15.3 |
5. 有害事象 (CTCAE v4.0)
N (%) | PEMBRO群 (N=294) | PTX群 (N=276) | ||
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全Grade | Grade 3-5 | 全Grade | Grade 3-5 | |
全有害事象 | 155 (53) | 42 (14) | 232 (84) | 96 (35) |
いずれかの群で10%以上生じた事象 疲労 食欲不振 悪心 下痢 貧血 脱毛症 好中球数減少 末梢性感覚ニューロパチー |
35 (12) 24 (8) 17 (6) 16 (5) 10 (3) 1 (<1) 0 0 |
7 (2) 2 (<1) 1 (<1) 1 (<1) 7 (2) 0 0 0 |
64 (23) 43 (16) 50 (18) 38 (14) 39 (14) 111 (40) 35 (13) 35 (13) |
13 (5) 0 2(<1) 1 (<1) 12 (4) 3 (1) 28 (10) 3 (1) |
免疫関連有害事象 甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進症 肺臓炎 注入に伴う反応 肝炎 下垂体炎 大腸炎 皮膚反応 1型糖尿病 膵炎 |
23 (8) 12 (4) 8 (3) 5 (2) 4 (1) 4 (1) 3 (1) 1 (<1) 1 (<1) 0 |
0 0 2 (<1) 0 4 (1) 2 (<1) 1 (<1) 1 (<1) 0 0 |
1 (<1) 1 (<1) 0 13 (5) 0 0 4 (1) 1 (<1) 0 1 (<1) |
0 0 0 1 (<1) 0 0 3 (1) 0 0 1 (<1) |
6. 投与状況
- 実際に試験薬剤の投与を受けた症例の平均治療期間はPembro群(n=294)で4.4ヶ月(標準偏差 6.1)、PTX群(n=276)で3.5ヶ月(標準偏差 3.4)であった。
- Grade 3以上の有害事象によって、Pembro群の9例(3%)、PTX群の15例(5%)で治療中止となった。
- Pembro群で3例(1%)が治療関連死亡に至っており、その事象は大腸炎、間質性肺疾患、その両者の合併であった。PTX群の治療関連死亡は1例(<1%)であり、肺塞栓による死亡であった。
7. 後治療
- Pembro群(296例)の136例(46%)が後治療を受けた。多く選択された後治療はPTX(n=96, 32%)、イリノテカン(n=60, 20%)、ラムシルマブ(n=47, 16%)だった。後治療として免疫療法を受けた症例はいなかった。
- PTX群(296例)の171例(58%)が後治療を受けた。多く選択された後治療はイリノテカン(n=108, 36%)、フルオロウラシル(n=47, 16%)、ラムシルマブ(n=47, 16%)だった。30例(10%)は後治療として免疫療法の投与を受けた。
監修:近畿大学医学部 内科学教室 腫瘍内科部門 医学部講師 川上 尚人 先生