胃癌 KEYNOTE-061

Pembrolizumab versus paclitaxel for previously treated, advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer (KEYNOTE-061): a randomised, open-label, controlled, phase 3 trial

Shitara K et al, Lancet. 2018 Jul 14;392(10142):123-133 [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 主要評価項目 実施地域 日本の参加
胃癌/食道胃接合部癌 二次治療 第3相 CPS≧1症例における無増悪生存期間
および全生存期間
国際 あり

試験名 :KEYNOTE-061

レジメン:パクリタキセル vs ペムブロリズマブ

登録期間:2015年6月〜2016年7月

背景

 切除不能進行再発胃がんの二次治療はドセタキセル、パクリタキセル(PTX)、イリノテカンといった細胞障害性抗がん剤および血管新生阻害剤であるラムシルマブ単剤もしくはPTX+ラムシルマブ療法が選択肢となる。
ペムブロリズマブ(Pembro)はprogrammed-cell death 1(PD-1)に結合するヒト化高親和性IgG4-κモノクローナル抗体であり、PD-1 ligand 1(PD-L1)、PD-1 ligand 2(PD-L2)とPD-1との結合を阻害することにより、腫瘍特異的な細胞傷害性T細胞を活性化させ、腫瘍増殖を抑制すると考えられている。
 Pembroは2レジメン以上の治療に不応となった胃がんを対象としたKEYNOTE-059試験において奏効割合 11.6%を示し、PD-L1 combined positive score (CPS) ≧1の三次治療症例に限定すれば、22.7%の奏効割合を示した1)。この結果を基に、アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)はPD-L1 CPS≧1の発現を有する胃がん/食道胃接合部がんにおいてPembroを三次治療以降の治療として承認した。
 これらの結果を基に、二次治療におけるPembroの有効性を検証する第3相試験として本試験が行われた。

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:PD-L1 CPS≧1症例における全生存期間と無増悪生存期間

副次的評価項目:全奏効割合、奏効期間、全登録症例における全生存期間と無増悪生存期間

RAINBOW試験の結果より、PTX群の生存期間中央値を7.5ヵ月と推定し、Pembro群のPTX群に対するハザード比を0.67と設定した。登録期間14ヵ月で脱落率が年間2%とした場合、片側有意水準 0.0215、検出力 91%で、CPS≧1の症例が360例必要と計算された。中間解析を経てαが消費されたため、最終的には全生存期間の有意水準はp=0.0135(片側)となった。

試験結果:

  • 2015年6月4日から2016年7月26日までに983例がスクリーニングされ、592例がPembro群(296例)とPTX群(296例)に無作為化割り付けされた。実際に薬剤投与がなされたのはPembro群(294例)、PTX群(276例)であった。
  • 395例がPD-L1 CPS≧1(Pembro群196例、PTX群199例)であり、その中で実際に薬剤投与がなされたのはPembro群 194例、PTX群 188例であった。
  • 患者背景は全登録症例・PD-L1 CPS≧1症例のいずれも両群間に偏りはなく、男性、胃原発、HER2陰性、一次治療開始後6ヶ月以内の不応症例が多く登録されていた。
  • 2017年10月26日のデータカットオフ時点で、全登録症例の観察期間中央値は7.9ヶ月(四分位範囲 3.4-14.6)、PD-L1 CPS≧1症例の観察期間中央値は8.5ヶ月(四分位範囲 3.7-15.7)であった。
  • データカットオフ時点でPTX継続症例はいなかったが、Pembro群は全登録症例を対象とした場合、15例(5%)が投与継続中であった(PD-L1 CPS≧1症例を対象とした場合は13例[7%])。
  • Pembro群の全登録症例の内、8例(3%)がPembro投与を完遂していた(PD-L1 CPS≧1症例を対象とした場合は7例[4%])。
1. 全生存期間

1) PD-L1 CPS≧1(主要評価項目)

  N イベント 中央値 95%信頼区間 12ヶ月生存割合 18ヶ月生存割合
Pembro群 196 151(77%) 9.1ヶ月 6.2-10.7 40% 26%
PTX群 199 175(88%) 8.3ヶ月 7.6-9.0 27% 15%

HR 0.82 (95%信頼区間 0.66-1.03), p=0.0421 (片側)

2) PD-L1 CPS≧1かつECOG PS 0

  N 中央値 95%信頼区間
Pembro群 88 12.3ヶ月 9.7-15.9
PTX群 92 9.3ヶ月 8.3-10.5

HR 0.69 (95%信頼区間 0.49-0.97)

3) PD-L1 CPS≧1かつECOG PS 1

  N 中央値 95%信頼区間
Pembro群 108 5.4ヶ月 3.7-7.7
PTX群 106 7.5ヶ月 5.3-8.4

HR 0.98 (95%信頼区間 0.73-1.32)

  • 全生存期間におけるサブグループ解析(PD-L1 CPS≧1)では、ECOG PS 0に加えて、食道胃接合部がん(HR 0.61, 95%信頼区間 0.41-0.90)においてPembro群で良好な傾向を認めたが、他はほぼ両治療群で同等の治療成績であった。

4) PD-L1 CPS≧10 (Post-hoc解析)

  N 中央値 95%信頼区間
Pembro群 53 10.4ヶ月 5.9-17.3
PTX群 55 8.0ヶ月 5.1-9.9

HR 0.64 (95%信頼区間 0.41-1.02)

5) MSI-H (Post-hoc解析)

  N 中央値 95%信頼区間
Pembro群 15 未到達 5.6-未到達
PTX群 12 8.1ヶ月 2.0-16.7

HR 0.42 (95%信頼区間 0.13-1.31)

6) PD-L1 CPS<1

  N 中央値 95%信頼区間
Pembro群 99 4.8ヶ月 3.9-6.1
PTX群 96 8.2ヶ月 6.8-10.6

HR 1.20 (95%信頼区間 0.89-1.63)

2. 無増悪生存期間

PD-L1 CPS≧1(主要評価項目)

  N イベント 中央値 95%信頼区間 12ヶ月無増悪生存割合
Pembro群 196 177(90%) 1.5ヶ月 1.4-2.0 14%
PTX群 199 184(94%) 4.1ヶ月 3.1-4.2 9%

HR 1.27 (95%信頼区間 1.03-1.57)

  • D-L1 CPS<1のサブグループにおける無増悪生存期間はPembro群で不良だった(HR 2.05, 95%信頼区間 1.50-2.79)。
3. 奏効割合
  N 奏効割合 95%信頼区間
Pembro群 196 16% 11-22
PTX群 199 14% 9-19
  • 完全奏効(CR)はPembro群:7例(4%)、PTX群:5例(3%)であった。
N (%)   N CR PR 奏効割合
PD-L1 CPS≧10 Pembro群
PTX群
53
55
5 (9.4)
1 (1.8)
8 (15.1)
4 (7.3)
13 (24.5)
5 (9.1)
PD-L1 CPS<1 Pembro群
PTX群
99
96
0 (0)
2 (2.1)
2 (2.0)
8 (8.3)
2 (2.0)
10 (10.4)
PD-L1 CPS≧1
かつECOG PS 0
Pembro群
PTX群
88
92
4 (4.5)
1 (1.1)
13 (14.8)
15 (16.3)
17 (19.3)
16 (17.4)
PD-L1 CPS≧1
かつECOG PS 1
Pembro群
PTX群
108
106
3 (2.8)
4 (3.8)
11 (10.2)
7 (6.6)
14 (13.0)
11 (10.4)
MSI-H Pembro群
PTX群
15
12
1 (6.7)
1 (8.3)
6 (40.0)
1 (8.3)
7 (46.7)
2 (16.7)
4. 奏効期間
  奏効例 中央値 95%信頼区間
Pembro群 31 18.0ヶ月 8.3-推定不能
PTX群 27 5.2ヶ月 3.2-15.3
5. 有害事象 (CTCAE v4.0)
N (%) PEMBRO群 (N=294) PTX群 (N=276)
  全Grade Grade 3-5 全Grade Grade 3-5
全有害事象 155 (53) 42 (14) 232 (84) 96 (35)
いずれかの群で10%以上生じた事象
 疲労
 食欲不振
 悪心
 下痢
 貧血
 脱毛症
 好中球数減少
 末梢性感覚ニューロパチー

35 (12)
24 (8)
17 (6)
16 (5)
10 (3)
1 (<1)
0
0

7 (2)
2 (<1)
1 (<1)
1 (<1)
7 (2)
0
0
0

64 (23)
43 (16)
50 (18)
38 (14)
39 (14)
111 (40)
35 (13)
35 (13)

13 (5)
0
2(<1)
1 (<1)
12 (4)
3 (1)
28 (10)
3 (1)
免疫関連有害事象
 甲状腺機能低下症
 甲状腺機能亢進症
 肺臓炎
 注入に伴う反応
 肝炎
 下垂体炎
 大腸炎
 皮膚反応
 1型糖尿病
 膵炎

23 (8)
12 (4)
8 (3)
5 (2)
4 (1)
4 (1)
3 (1)
1 (<1)
1 (<1)
0

0
0
2 (<1)
0
4 (1)
2 (<1)
1 (<1)
1 (<1)
0
0

1 (<1)
1 (<1)
0
13 (5)
0
0
4 (1)
1 (<1)
0
1 (<1)

0
0
0
1 (<1)
0
0
3 (1)
0
0
1 (<1)
6. 投与状況
  • 実際に試験薬剤の投与を受けた症例の平均治療期間はPembro群(n=294)で4.4ヶ月(標準偏差 6.1)、PTX群(n=276)で3.5ヶ月(標準偏差 3.4)であった。
  • Grade 3以上の有害事象によって、Pembro群の9例(3%)、PTX群の15例(5%)で治療中止となった。
  • Pembro群で3例(1%)が治療関連死亡に至っており、その事象は大腸炎、間質性肺疾患、その両者の合併であった。PTX群の治療関連死亡は1例(<1%)であり、肺塞栓による死亡であった。
7. 後治療
  • Pembro群(296例)の136例(46%)が後治療を受けた。多く選択された後治療はPTX(n=96, 32%)、イリノテカン(n=60, 20%)、ラムシルマブ(n=47, 16%)だった。後治療として免疫療法を受けた症例はいなかった。
  • PTX群(296例)の171例(58%)が後治療を受けた。多く選択された後治療はイリノテカン(n=108, 36%)、フルオロウラシル(n=47, 16%)、ラムシルマブ(n=47, 16%)だった。30例(10%)は後治療として免疫療法の投与を受けた。
結語
Pembro群はPD-L1 CPS≧1の切除不能進行・再発胃癌/食道胃接合部癌の二次治療において、PTX群と比較し統計学的に有意な生存期間の延長を示すことは出来なかった。
関連論文
1) Fuchs SC, Doi T, Jang WR et al. Safety and Efficacy of Pembrolizumab Monotherapy in Patients With Previously Treated Advanced Gastric and Gastroesophageal Junction Cancer: Phase 2 Clinical KEYNOTE-059 Trial. JAMA Oncol. 2018 May 10;4(5):e180013 [Pubmed]
執筆:神戸市立医療センター中央市民病院 腫瘍内科 医長 松本 俊彦 先生
監修:近畿大学医学部 内科学教室 腫瘍内科部門 医学部講師 川上 尚人 先生

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