胃癌 WJOG7112G(T-ACT)

Randomized, Phase II Study of Trastuzumab Beyond Progression in Patients With HER2-Positive Advanced Gastric or Gastroesophageal Junction Cancer: WJOG7112G (T-ACT Study).

Makiyama A, Sukawa Y, Kashiwada T, et.al. J Clin Oncol. 2020 Jun 10;38(17):1919-1927. [PubMed]

対象疾患 治療ライン 研究の相 評価項目 実施地域 日本の参加
HER2陽性
胃/食道胃接合部癌
二次治療 第2相 無増悪生存期間 日本 あり

試験名 :WJOG7112G(T-ACT)

レジメン:パクリタキセル+トラスツズマブ vs パクリタキセル単剤療法

登録期間:2012年12月〜2016年10月

背景

HER2は胃/食道胃接合部癌症例の10-20%に過剰発現、または増幅を認める。ToGA試験において、HER2陽性の切除不能・進行再発胃癌に対する一次治療としてフッ化ピリミジン系薬剤(5-FU or カペシタビン(Cape)+シスプラチン(CDDP)+トラスツズマブ(Tmab)併用療法の有効性が示され、同対象に対する標準的一次化学療法と位置づけられた。HER2陽性の切除不能・進行再発胃癌に対する二次治療としてはタキサン系薬剤、イリノテカン(IRI)、あるいはパクリタキセル(PTX)+ラムシルマブ(RAM)が標準治療とされている。
HER2陽性乳癌においては、GBG 26/BIG 03-05試験1)においてTmab既治療例に対するTmab継続投与の意義について検証されており、Cape単剤療法と比較し、Cape+Tmab継続投与において無増悪生存期間(8.2ヶ月 vs 5.6ヶ月, HR 0.69 [95%信頼区間 0.48-0.97], p=0.0338)と奏効割合(48.1% vs 27.0%, オッズ比 2.50, p=0.0115)の有意な改善を示した。
以上の結果に基づいて、一次治療でTmabに不応となったHER2陽性胃/食道胃接合部癌を対象とし、PTXの併用において、Tmab継続投与の意義を評価する多施設共同無作為化比較第2相試験を実施した。

シェーマ

シェーマ

統計学的事項

主要評価項目:無増悪生存期間

先行研究(WJOG 4007試験)の結果に基づいて、PTX単剤群とPTX+Tmab群の無増悪生存期間中央値をそれぞれ3ヶ月、5ヶ月と推定した。検出力80%, 片側α=0.1として必要サンプルサイズは90例であった。無増悪生存期間を除く全ての解析での有意水準は、多重性を調整せず、両側α=0.05に設定された。

試験結果:

  • 2012年12月から2016年10月の間に日本国内の37施設から91例が無作為割り付けされた(PTX群 n=46、PTX+Tmab群 n=45)。重複癌による不適格が明らかとなった両群各1例を除いた89例をFull analysis set (FAS)、急速な病勢進行でプロトコール治療が行われなかったPTX群の1例を除いた88例をSafety analysis set (SAS)とした。
  • 2017年10月3日のデータカットオフ時点で観察期間中央値は両群ともに10ヶ月であった(PTX群 95%信頼区間 7.6-13.0、PTX+Tmab群 8.1-13.0)。
1. 患者背景
N (%)   PTX群 (N=45) PTX+Tmab群 (N=44)
年齢 (歳) 中央値 (範囲) 67 (33-81) 65 (50-89)
性別 男性
女性
39 (86.7)
6 (13.3)
32 (72.7)
12 (27.3)
ECOG PS 0
1
2
29 (64.4)
14 (31.1)
2 (4.4)
24 (54.5)
18 (40.9)
2 (4.5)
原発部位
食道胃接合部
38 (84.4)
7 (15.6)
40 (90.9)
4 (9.1)
組織型 腸型 (Intestinal)
びまん型 (Diffuse)
分類不能
25 (55.6)
19 (42.2)
1 (0.2)
29 (65.9)
15 (34.1)
0 (0)
HER2 status IHC 3+
IHC 2+, FISH陽性
34 (75.6)
11 (24.4)
33 (75.0)
11 (25.0)
胃切除歴 あり
なし
8 (17.8)
37 (82.2)
10 (22.7)
34 (77.3)
測定可能病変 あり
なし
38 (84.4)
7 (15.6)
39 (88.6)
5 (11.4)
転移臓器
腹膜

リンパ節
25 (55.6)
16 (35.6)
3 (6.7)
20 (44.4)
25 (56.8)
18 (40.9)
11 (25.0)
24 (54.5)
転移臓器個数 1臓器
2臓器以上
26 (57.8)
19 (42.2)
19 (43.2)
25 (56.8)
一次治療における増悪までの期間 6ヶ月未満
6ヶ月以上
15 (33.3)
30 (66.7)
16 (36.4)
28 (63.6)
一次治療の奏効 CR+PR 23 (51.1) 28 (63.6)
一次治療のTmab投与回数 中央値 (範囲) 9 (3-30) 8 (3-32)
Tmab最終投与から無作為化までの期間 30日以上
30日未満
15 (33.3)
20 (66.7)
16 (36.4)
28 (63.6)
  • FASにおける患者背景は両群でバランスがとれていた。
2. 無増悪生存期間 (主要評価項目)
  N 中央値 95%信頼区間
PTX+Tmab群 44 3.2ヶ月 2.9-3.5
PTX群 45 3.7ヶ月 2.8-4.5

HR 0.91 (95%信頼区間 0.67-1.22), p=0.33

3. 全生存期間
  N 中央値 95%信頼区間
PTX+Tmab群 44 10.0ヶ月 7.6-13.1
PTX群 45 10.2ヶ月 7.9-12.8

HR 1.23 (95%信頼区間 0.76-1.99), p=0.20

4. 奏効割合と病勢制御割合
  PTX群 (N=38) PTX+Tmab群 (N=39) p値
奏効割合 (95%信頼区間) 32% (17.5-48.7) 33% (19.1-50.2) 1.0
病勢制御割合 (95%信頼区間) 71% (54.1-84.6) 62% (44.6-76.6) 0.47
5. 有効性に関するサブグループ解析
  • 無増悪生存期間に関して、多くのサブグループでは有意な交互作用は認めなかったが、一次治療におけるTmab最終投与からの期間が30日以上の症例では、PTX+Tmab群で無増悪生存期間が延長する傾向を示した(HR 0.45, 95%信頼区間 0.21-0.96, 交互作用検定 p=0.022)。
  • 一次治療におけるTmab最終投与からの期間が30日以上の症例では同様に、全生存期間(HR 0.56, 95%信頼区間 0.25-1.24)、奏効割合(38% vs 20%)に関してもPTX+Tmab群で良好な傾向を示した。
6. 投与状況と後治療
  PTX群 (N=45) PTX+Tmab群 (N=44)
PTXの投与回数 中央値 9回 9回
Tmabの投与回数 中央値 4.5回
PTXの相対用量強度 中央値 59% 60%
増悪による治療中止, n (%)
有害事象による治療中止, n(%)
31 (69)
8 (18)
39 (89)
2 (5)
三次治療施行例, n (%)
 IRI
 RAM
 タキサン系
 Tmab併用, n (%)
36 (80)
n=32
n=13
n=10
6 (13)
38 (86)
n=32
n=12
n=11
9 (21)
7. 有害事象 (CTCAE v4.0)
N (%) PTX群 (N=45) PTX+Tmab群 (N=44)
  全Grade Grade 3以上 全Grade Grade 3以上
白血球減少 25 (55.6) 8 (17.8) 32 (71.1) 13 (28.9)
好中球数減少 29 (64.4) 12 (26.7) 33 (73.3) 15 (33.3)
貧血 22 (48.9) 11 (24.4) 27 (60.0) 14 (31.1)
血小板数減少 4 (8.9) 0 (0) 3 (6.7) 0 (0)
悪心 9 (20.0) 2 (4.4) 9 (20.0) 0 (0)
食欲不振 13 (28.9) 3 (6.7) 21 (46.7) 2 (4.4)
下痢 10 (22.2) 0 (0) 11 (24.4) 0 (0)
口腔粘膜炎 3 (6.7) 0 (0) 7 (15.6) 0 (0)
疲労 17 (37.8) 1 (2.2) 14 (31.1) 2 (4.4)
発熱性好中球減少症 0 (0) 0 (0) 1 (2.2) 1 (2.2)
末梢性感覚ニューロパチー 29 (64.4) 3 (6.7) 25 (55.6) 3 (6.7)
  • 有害事象は両群間で近似していた。
  • Tmabに関連する重篤な有害事象は認めなかった。
8. バイオマーカー解析
1) 腫瘍組織
  • 一次治療終了後の腫瘍組織は18例(PTX+Tmab群 8例、PTX群 10例)で利用可能であった。
  • HER2 IHC 3+, 2+, 1+, 0の症例は、それぞれ3(17%), 3(17%), 6(33%), 6(33%)であった。FISH法では18例中16例の腫瘍組織で解析可能であり、8例(50%)でFISH陽性と判定された。
  • 以上から、一次治療終了後の腫瘍組織でHER2陽性と判定(HER2 3+, または2+かつFISH陽性)されたのは16例中5例(31%)のみであった。一次治療終了後の腫瘍組織でHER2陽性と判定された5例中2例がPTX+Tmab群に割り付けられ、1例で長期SD(9.4ヶ月)が得られた。
2) 血液検体
  • プロトコール治療開始前に68例(PTX群 33例, PTX+Tmab群 35例)で血清検体が収集された。
  • dPCR法を用いたcfDNA解析では、HER2増幅(cfHER2 amp)を41例(PTX群 21例, PTX+Tmab群 20例)に認めた。HER2増幅例においても両群間で無増悪生存期間、全生存期間共に差を認めなかった。
  • 68例全例で血清中HER2細胞外ドメイン(sHER2 ECD)レベルが測定され、中央値は13.4ng/mlであった。中央値をカットオフ値として、中央値より高値と判定された35例のうち、20例(57%)がPTX群、15例(43%)がPTX+Tmab群に割り付けられていた。sHER2 ECD高値例においても両群間で無増悪生存期間、全生存期間共に差を認めなかった。
    N 無増悪生存期間
HR (95%信頼区間)
全生存期間
HR (95%信頼区間)
cfHER2 amp 陰性
陽性
27
41
0.81 (0.36-1.85)
0.93 (0.49-1.76)
1.19 (0.52-2.88)
1.44 (0.74-2.87)
sHER2 ECD 中央値より低値
中央値より高値
33
35
0.97 (0.48-2.07)
0.83 (0.41-1.64)
2.14 (0.97-5.09)
0.86 (0.41-1.75)
結語
Tmabの継続投与はHER2陽性切除不能進行胃癌/胃食道接合部癌に対して、無増悪生存期間の改善を示すことができず、また有用な効果予測バイオマーカーを見出すことはできなかった。
関連論文
1) von Minckwitz G, et al. J Clin Oncol. 2009 Apr 20;27(12):1999-2006.
執筆:北海道大学病院 消化器内科 特任助教 原田 一顕 先生
監修:近畿大学医学部 内科学教室 腫瘍内科部門 医学部講師 川上 尚人 先生

臨床試験サマリ一覧へ